第370話 【玉の力・1】


 75層を突破した翌日、本来であればそのまま攻略を続けていたのだが、偽物でもいいから一度師匠の所に行く事になった。

 今回はクロエ達も一緒に来ることになり、前日の夜から俺達は王都へと戻って来ており、朝食を宿で食べてから空島に向かった。


「あら、弟子ちゃんにクロエちゃん達、どうしたの? もしかして、もう玉が見つかったのかしら?」


「いえ、まだ本物の玉は見つかってません。ただ偽物の玉は見つかったので、一応渡そうかなと思ってきたのと、クロエ達も本物を一度見てみたいと言ったので一緒に来たんです」


 師匠の家を訪ねると、急に来た俺達に玉を持ってきたのかと聞いた師匠。

 俺はそんな師匠に対して、持ってきたものは偽物で本物をもう一度確認させてほしいとお願いした。

 その俺の言葉に師匠は「偽物もあったのね」と、偽物の玉にも興味を示していた。


「へ~、これがその偽物なのね……本当に本物の玉とそっくりね。違うのは、込められてる魔力の違いくらいね」


「はい。なので一瞬、本物かと思う程でした。それで一応、まだ本物は手に入れてないですけど師匠に渡そうと思って持ってきたんです」


「そうなのね。ありがとう弟子ちゃん、それにクロエちゃん達もありがとね」


 師匠はそう俺達にお礼を言うと、レンがずっとソワソワしていた為、本物の魔法玉を見せてもらった。

 レンは本物を見ると、興味津々といった様子で玉を見つめ、師匠に許可を貰って触らせてもらっていた。


「偽物も凄いと思ったけど、本物は更に凄いな……この感じる魔力が、こんな玉から感じるなんて凄いアイテムだ……」


 玉を見ているレンは研究者の顔つきとなり、マジマジと玉を見つめていた。


「マリアンナ様、この玉の事って師匠も知っているんですか?」


「ナシャリーも知ってるわよ。共同で研究しようってなってて、弟子ちゃん達に頼んでるって言ったら、あの子研究所の設備を更に上げるって言って張り切ってたわ」


 その事を聞いたレンは「師匠も研究するのか……」と、何やらやる気に満ちた目をしていた。

 その後、玉の事も聞き終わった俺達は一旦、宿に寄ってまた暫く迷宮に潜るとリカルドに伝えて、迷宮の家に帰って来た。


「どうせ研究するなら、師匠達と一緒に研究しなくても良かったのか?」


「頼めば一緒にさせてくれると思うけど、俺自身師匠の事はいつか超えたいと思ってるからね。折角、同じ研究材料を研究するなら師匠よりも精確に調べ上げたいんだ」


「成程な、ナシャリー様に勝ちたいんだな」


「ジンの師匠が凄いように、俺の師匠も凄いからな……特に錬金術師としての格は、いつ追いつけるか分からない程だ。だけど、一つのアイテムの研究位なら勝てそうな気がするからな」


 魔女に勝つか、それがどれだけ凄い挑戦なのかレンは分かってるのだろうか。


「まあ、レン君なら勝てそうだよね。今まで沢山色んな研究してきてるし、今も迷宮の攻略をしながらも研究してるんだから、私も応援してるよ」


「レン君、頑張ってね! 何か必要な素材とかあれば、私達が取ってくるから」


「ナシャリー様に師匠が付いてるようにレンには俺達が付いてるからな、いつでも頼ってくれよ」


 そう俺達が言うと、レンは笑みを浮かべて「ありがとう」と口にした。


「まあ、研究材料である本物の玉を二つ手に入れるのが難しそうではあるな……」


「そうだね。偽物でもここまで難しかったら、本物を持ってる魔物は何処まで難しいのか想像できないよね」


「ボスとかが持ってるとかもありそうだよね~」


「そもそも、複数個入手できるのかって問題もあるな、レイの言った通りボスが持ってて迷宮で一つしか手に入らないとか」


 レン達の話を聞き、確かにその可能性も無くは無いな……。


「ねえ、それならメイちゃんに聞くのはどうかな? メイちゃんだったら、本物の魔法玉の事も知ってるんじゃないかな?」


「折角、メイちゃんと会える券があるのに使ってなかったし、ここが使い時じゃない?」


「確かに、メイなら知ってるかも知れないな」


 クロエ達の話を聞いた俺は、確かに迷宮妖精であるメイなら何か知ってるだろうと思い、メイを呼び出せる券を使う事にした。

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