第340話 【温泉旅行・4】


 温泉は大浴場と露天風呂の二種類があり、まずは大浴場の方にある体を洗う場所でシッカリと体を洗った。

 そして体を洗い終えた俺達は、大浴場には入らずそのまま露天風呂の方へと向かった。


「すげ~、眺めいいな~」


「直ぐ先が森だからか、街の中で生活していたら見れない景色が見れるな……」


 ルークさんとドルクさんはそう景色の感想を言うと、レンは温泉の中に手を入れて「これは……」と何やら驚いた顔をした。


「レン、どうしたんだ?」


「……いや。この温泉、噂の通り効能が良いみたいだ」


「手をちょっと入れただけで分かるものなのかよ……」


 レンの研究者みたいな発言に俺は呆れた感じでそう言い、俺はそのまま湯舟の中に入った。

 そして俺はそのまま肩までシッカリと入り、息を吐き「気持ちい~」と口にした。


「普段、シャワーしか浴びてないけど、こうして湯舟に浸かると良いものだなって再認識するよ……」


「そうだな……俺達もジン達みたいに、そろそろ王都に拠点用の家でも買うか? 風呂の為だけになりそうだが」


 風呂の良さを改めて知ったルークさん達は、湯船の為だけにパーティーの家を買うかどうするかという話を始めていた。

 まあ、確かにこんなに良い温泉に入ったら、そう思うのも分かる気がする。


「……レン。お前、さっきから何してるんだ?」


「んっ? この温泉の効能を調べてるんだ。俺の事は気にしなくても良いぞ、ちゃんと温泉にも入ってるだろ?」


 レンは確かに体は湯舟に浸かってはいるが、その横で研究道具を置いて温泉の効能を調べていた。


「いやまあ、入ってはいるが……その、許可は取ったのか?」


「勿論、ちゃんと許可は取ってるよ」


「そっか、なら良いか……」


 もう何も言うまいと思った俺は、レンの事は放置して俺は温泉を堪能する事にした。

 それからルークさん達とレンは一旦、大浴場にも入ってくると言って露天風呂からいなくなり、露天風呂には俺だけとなった。


「この絶景を独り占めか……温泉に来てよかったな……」


 最初は休むように言われて、どうしようかと思ったけど姉さんに温泉を提案してもらって本当に良かった。


「……そう言えば、ゲームだとこの宿で混浴フラグみたいな展開があったな」


 まあ、でもゲームの場合は確か従業員の人が間違えて、入れてしまったという流れだった筈だ。

 だけど、今はちゃんと間違えずに入ってるから問題ないだろう。

 そんな事を思いながら、俺は湯舟に浸かっていると、露天風呂の入口が開いて誰かが戻ってきたようだ。


「わ~、景色凄くいいね~」


「そうだね~、こんなに景色が良くてお風呂に入れるなんて温泉に来てよかったね!」


「ッ!?!?」


 入って来た人の声を聞いた俺は、その場で転移で岩陰へと移動した。

 えっ、何でだ? 何で、クロエ達が入って来たんだ?


「それにしても、宿の人も大変そうだったね。まさか、日付間違えて男女反対にしてたなんて、慌てて入れ替えてたみたいだね」


 なんだそれ!? なんで、そんな漫画とかでよくあるパターンが発生してるんだよ!

 ……こんな所に隠れてたら、いつクロエに見つかるか分からん。

 俺に次いでクロエは感知能力が高いんだから、どうにかしないと! よし、ここは素直に声を出して、クロエ達に助けを求めよう。

 従業員の人の声が聞こえず、露天風呂に入ってたって正直に言えばクロエ達なら分かってくれるはずだ!


「くろ——」


「わ~、こんな綺麗な景色の温泉初めてだね。エリスちゃん」


「そうね。貴族時代にここの話は聞いてたから、いつか来ようと思ってたけどもっと早くに来ておけば良かったわ」


 あっぶね~! まさか、エリスさん達も入ってくるなんて聞いてないぞ!? いや、温泉だから入りに来るのは当たり前か……。

 というか、なんでこんな状況になってるんだ!? 脱衣所に俺の服がある筈だから、それに気づいてくれたら誰かが入ってると思うだろ!?

 いや、待て……皆の邪魔にならないようにって、端っこで着替えてたな……それで見落とされたのか?


「凄く気持ちいい~」


「肌すべすべだ~」


 やばいやばいやばい!? どうするこのままここに居たら、完全に犯罪者だ! でも逃げるとしても、俺の着替えが……。

 よし、ここで俺は進化するぞ! 空間魔法は空間を掌握する魔法。

 遠く離れて位置の物を異空間に入れる事なんて、今の俺には造作もない事だ!

 俺はそう考え、集中して自分の着替えを魔力で探知して、そのまま異空間へと衣服を入れた。

 そして異空間に服を入れる事に成功した俺は、そのまま一瞬で着替えて部屋に転移で戻った。


「あれ? 何で転移で戻って来たんだ? それに風呂に入ってたのに、なんか凄く疲れてない?」


 部屋に転移すると、部屋の中にはレンだけが居て、転移で戻ってきた俺にレンは一瞬だけ驚いていた。


「あ、うん。いや、何でもないよ……ちょっと、夕食まで横になってるから、飯の時間になったら起こしてくれ」


 そう俺はレンに言って、布団を敷いてそのまま横になる事にした。

 折角、体を癒す為に温泉宿に来たのに何でこうなったんだよ……そう俺は愚痴りながらも、バレずに事無きを得て良かったと安心した。

 あそこでバレていたら、クロエ達は勿論姉さんの仲間やエリスさん達の信用を無くす所だった。


「バレずに済んで本当に良かったよ……」


 そう思いながら、俺は目を瞑って眠りについた。

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