第292話 【魔王討伐に向けて・2】


 参戦を決めた俺達は、まず最初に装備のメンテナンスの為にリーザの店に向かった。

 流石に全員で押しかける程の用事でもない為、クロエ達から装備を預かって俺一人で来た。


「また大分使い込んだわね……」


「まあ、色々と戦闘続きだったからな、頼めるか?」


「ええ、いいわよ。このくらいなら、明日には出来ると思うから今日は一日預かっておくわね」


 リーザはそう言って、俺達全員の防具と俺以外の武器を預かった。


「あっ、そうだ。面白い素材を貰ったんだが、見るか?」


「面白い素材? 何、新しい鉱石?」


「いや、石じゃない。木だよ」


 俺はそう言いながら【異空間ボックス】から、世界樹の枝を取り出した。

 リーザは枝を見ると、目を見開いて「な、なによそれ?」と驚いていた。


「凄い魔力を感じるだろ?」


「ええ、ものすごく感じる。普通の木の枝じゃないでしょ?」


「……世界樹の枝だよ。それも本物のな」


「世界樹の枝? 本物? どういう事?」


 リーザはその枝の正体が世界樹だと知ると、グイッと顔を俺に近づかせて尋問の様に問い詰めて来た。

 俺はそんなリーザに、商人の里の事は隠して、世界樹の種を貰ってある所に植えたらいきなり成長して、枝を採れるようになったと説明した。


「……本当の事が話せないなら、別に話さなくてもいいよ。私としては、世界樹の素材を実際に見れただけでもうれしいからね。それで、ジンの事だからただ私に見せたって訳じゃないんだろ? 何を作ればいいんだい?」


「木でできた皆の武器を頼めるか? これ程、丈夫な物なら鍛錬でも使えそうだし、いざって時の仮の武器にもなりそうだろ?」


「確かにね。わかったわ。でも世界樹を扱ったことが無いから、いつできるか分からないから、出来た時に連絡をするわね」


「ああ、それでいい頼むよ」


 そう言って俺は、リーザに世界樹で出来た武器の製造を頼み店から出た。

 店から出た俺は、その足で次にハンゾウの店へと向かった。


「へ~、お前が魔王討伐に動くのか」


「ああ、一応前から行く予定ではあったけど、向こうの様子がヤバいらしいからな……姫様がそろそろ限界になりそうだから、爆発する前にさっさと終わらせようと思ってな」


「流石、国を守った英雄様は言う言葉が違うね。ジンが魔王も倒しちまうのか?」


「いや、雑魚を全部倒すだけだよ。魔王は聖剣を持つ勇者にしか倒せないのは、お前も知ってるだろ?」


 そう言うと、ハンゾウは「まあな」と言葉を返した。


「それで、態々それを言いに来たって事は何か俺に頼みでもあるのか?」


「向こうにハンゾウの部下が紛れてるだろ? もし、王都で事件が起きたらそいつを介して俺に知らせてくれって頼みをしに来たんだよ」


「その位なら別に良いぞ、俺だって面倒な事は自分でしたくないからな。だけど、また王都で事件なんて起きるのか? 帝国は片づけただろ?」


「念のためにはだよ。必要ないならそれはそれで良いからな、ただなんの準備もしてないのは安心出来ないからな」


 帝国は周辺国からも睨まれてる状態だから、これ以上の動きは無いとは思いたい。

 だが悪魔も使うような奴等だから、何をしてくるか分かったもんじゃない。


「まあ、心配しすぎてる方がこういう場合はいいからな……わかったよ。何かあったら、部下を通じてお前に連絡をするよ」


「ありがとな、んじゃ先にお礼としてこれをやるよ。使い道は自分で決めていいぞ」


 俺はそう言って、煎じて飲めば神秘薬以上の回復力のある世界樹の葉を渡した。

 ハンゾウは世界樹の葉を見て、驚いた顔をして俺の顔を見て来た。


「……お前がどこでこれを手に入れたか知らんが、俺に渡してもいいのか? 貴重な物だぞ?」


「報酬が必要だろ? それに知ってるんだぞ、お前は昔からこれを探してたんだろ?」


 世界樹の関連の事を考えてる際に俺は一つ、ハンゾウの事である設定を思い出した。

 こいつには妹が居て、長い間病魔に苦しんでいる。

 その病気はかなり珍しく、神秘薬を飲ませても多少緩和されるだけという難病。

 ハンゾウは妹の治療には、この世界で最も治癒能力の高い世界樹の葉でなければ治療が出来ないと悟り。

 そんな貴重な物が手に入る訳が無いと諦めつつも、妹の為に世界樹の葉の入手を考えていたという設定だ。


「妹の事をどこで聞いたかは、今更詮索はしない。お前が何かしら隠してる事は知ってるからな……本当に、助かった。ありがとう」


 ハンゾウはそう言うと、大事そうに世界樹の葉を受け取った。


「薬の調合が難しいなら、レンに頼んでみるか?」


「いや、大丈夫だ。こいつの飲ませ方はずっと前から知ってる……」


「……そうか。落ち着いたら妹を紹介してくれよ」


「ああ、必ず紹介するよ……」


 その言葉を聞いた俺は長居せず、直ぐに部屋から出た。

 俺が部屋を出た直後、部屋の中からハンゾウの泣く声がしたが、聞かなかった事にした。

 それから俺は、店を出る前に店員に暫く奥に行かない様にと言って店を出た。

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