第291話 【魔王討伐に向けて・1】


 セシリアとエリシアを引き合わせた翌日、俺は昨日は夜遅くまで起きていたせいで昼近くまで寝ようと考えていた。

 しかし、朝早くに姫様から渡されている魔道具から音が鳴り、たたき起こされてしまった。


「お父様から連絡が来た時は驚いたわよ。まさか、王都に帝国軍と悪魔が襲撃に来たなんて、ありがとね。ジン達のおかげで国が助かったわ」


「まあ、元々帝国が何か動こうとはしてるのは気づいてましたからね……ふぁ~」


「あら? 凄い眠そうね。もしかして、寝てる所を起こしたのかしら? でも、いつもこの時間は起きていたわよね?」


「ちょっと、昨日は夜遅くまでやる事がありましてね」


 そう言いながら俺は、水魔法で水を出して顔を洗って眠気を飛ばした。


「それで、姫様が連絡してくるなんて何かあったんですか?」


「……ええ、実はちょっとジンに頼みたいことがあるのよ。今、私達が居るのは魔王軍本陣から少し離れた所なんだけど、ここに来るまでにかなりの数の薬を使ってしまったのよ。もう暫くしたら、魔王との戦いになるからジンが来る時に薬を持ってきてもらえないかしら?」


「成程、その位なら良いですよ。……って、あれ? 薬が切れそうってかなりの数持って行ってなかったですか?」


 神秘薬は100本以上あったし、薄めるだけでもかなり効果のある薬だ。

 それがもうなくなるって、どんな使い方をしていたんだ?

 そう思った俺の言葉に、魔道具越しでも分かるほど、姫様の怒りのオーラを感じ取れた。


「ええ、事前に用意された薬は大量にあって魔王を倒すまで持つだろうって最初は思っていたわ。だけど、あの馬鹿女達ときたら……」


 そこからは、二名の戦女の愚痴が始まった。

 勇者を争い二人は喧嘩ばかりで、そのせいで怪我も絶えなかったらしい。

 怪我の治療を魔法でしようにも、魔力が尽きた状態で敵と遭遇したら危険だからと、薬を使ったらしい。

 その結果、最初こそ持つだろうと思っていたが徐々に薬の本数が尽きかけてきて、姫様は薬の予備を持ってきてほしいと連絡を入れる事にした。

 そう姫様は愚痴を言いながら言うと、この戦いが終わったら絶対にあの女達とは関わらないと言い切っていた。


「まさか、そこまで酷い状況とは……勇者は何してるんですか?」


「勇者は率先して、二人の事を止めてくれてるわよ。ただ女の争いに男が入った所で止まる気配は無くてね……だから他の戦女の子達が止めに入るんだけど、時間が過ぎたら怒られたことも忘れてまた些細な事で喧嘩してるのよ。もう本当にね……一度、ぶん殴りたいわ」


「姫様、早まらないでくださいね? 魔王討伐まで、もうすぐなんですから」


 あまりにも姫様の怒りのオーラが強すぎて、俺はそう姫様を落ち着かせるためにそう言った。

 しかし、そこまで酷いとなると、逆にもうさっさと魔王討伐を終わらせて勇者と好きにさせた方が良いがするな……。


「姫様、あとどのくらいで魔王との戦いになりそうなんですか?」


「そうね。今日も元気に喧嘩していたみたいだから、またここで暫く停滞すると考えて……三日後位かしらね?」


「わかりました。それでは、二日後にそちらに向かいます。流石にその状態だと、姫様の我慢が切れそうだと思うので俺達が雑魚の相手をしておくので本陣を叩いてください」


 既に不安の種だった帝国からの攻撃は終わっていて、流石に二度目は無いだろう。

 ならさっさと、魔王との戦いを終わらせて姫様を楽にさせてやった方が国の為だ。

 それに多分、この調子だと愚痴を聞かされる事が増えそうだから、俺の安眠も守る為にも動いた方が良さそうだ。


「取り合えず、この後クロエ達と話をしてきます。話し合いが終わり次第、こちらから連絡を入れますね」


「ええ、ありがとう。どうせ、今日と明日はこのまま待機だから終わったらいつでも連絡をしてきて」


 そう姫様の言葉を聞き終えた俺は通信を切り、姫様も大変だなと思いながら部屋を出た。

 そして少し遅い朝食を食べた後、クロエ達に部屋に集まってもらった。


「姫様も大変そうだね~、喧嘩してるのってあの時みた戦女の人たちだよね? 一緒に行かなくて、良かったね」


「多分な、勇者に心酔しててどっちがいい勇者の女かで取り合ってるらしい。その喧嘩に姫様や他の戦女の人達が巻き込まれていて、前線はかなりビリついてるみたいだ」


 姫様から聞いた内容をクロエ達に伝えると、クロエ達は行かなくて良かったと安心していた。


「だから、俺達が行くと……まあ、いいんじゃないか? 不安要素だった帝国は、片づけたし二、三日程度王都を開けても大丈夫だと思うぞ」


「うんうん、それにフィオロちゃん達もいるし、万が一の時は直ぐに戻ってくればいいからね」


「うんうん、それにこの間の帝国との戦いでちょっと気が落ちてたところだし、沢山暴れたい気持ちだから丁度いいよ!」


 皆は俺の提案に乗ってくれて、魔王軍との戦いに参戦する事が決まった。

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