第285話 【宴・1】


 それから数日後、悪魔討伐した事を国から称えられ褒美を貰う日がやってきてしまった。


「ジン君、緊張してる?」


「……まあ、緊張はしてるよ。流石に貴族が沢山いる場に今から向かうんだからね」


 一応、この数日の間に何度か練習はしたが、服装自体に俺は慣れていない。

 こんな堅苦しい服は、貴族の頃ですら着ていなかった。


「国から称えられる弟を持ってるなんて、姉として誇りね。ねえ、ヘレナ」


「うん、ジン君は本当に凄いね。国から褒められるなんて、凄い事だよ」


 気持ちが下がってる俺とは違い、クロエや姉さん達は物凄く嬉しそうにしている。

 はぁ、聞いた話だと宴も盛大にやるらしいし、本当に辛い……。

 そんな事を思っていると、いつの間にか城に到着した俺は連れられてきた馬車を降りた。


「——!」


 すると外で待っていた兵士達が、一斉に敬礼をしてきた。

 俺は城までの道を、そんな兵士達を見ながら建物に入った。


「流石、デュルド王国の兵士さん達だね。息ピッタリだった」


「あんな事するって事前に聞いてないぞ……全く、こっちはこれからの事で頭がいっぱいなのに……」


 クロエ達は凄かった~と感想を言い、俺は文句を言いつつ王の間まで案内してもらった。

 そこからは姉さん達とは別で、俺とクロエ達は大きな扉の前で少し待たされる事になった。


「……このまま、逃げたいな」


「それをされますと、我が国は他国からいい笑いものになりますね……ジン様がお望みなら、仕方ないですね……」


「……やりませんよ。やりませんから、嘘泣きは止めてください」


 案内役のメイドに俺はそう言って、溜息を吐き早く今日が終わるように神に祈った。

 それから数分後、扉の奥から俺達の名が呼ばれ、扉が勝手に開き俺は部屋の中に入った。


「……」


 部屋の中に大勢の貴族達が立ち並んでいて、遠くの方に姉さん達の姿があった。

 よしっ、ここまで来たら逃げられない、さっさと終わらせて帰って寝よう。

 俺はそう思い、俺達は国王の所まで歩いて向かった。

 これまで会ってきた国王はどちらかと言うと国の王の顔つきをしていなかったが、この場での国王は王と感じる顔つきをしていた。


「ジン、クロエ、レイ、レン。お主達4名は此度の帝国の襲撃に関し、多大な貢献をしてくれた。お主達が居なければ、我が国は帝国の策略により大きな損失を受けていただろう」


 大臣であるベルトスさんはそう言葉を言い始め、長い長いお礼の言葉を言われた。

 うん、いやまあ国からのお礼だからこうなるとは思ってたけど、あまりにも長くないか?

 そう思っていると、ようやくベルトスの言葉は終わり、俺達に対しての褒美が渡される事になった。

 大量の金貨に加え、珍しいアイテムを受け取った。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」


 皆を代表して、俺がそう言って金貨とアイテムを受け取った。

 よし、これで終わりだ。

 そう思っていたのだが、何故か退室しても良いという言葉が聞こえてこなかった。

 俺は恐る恐る下げていた頭を上にあげると、国王はニコリと笑みを浮かべていた。


「……ジン。お主には別にお礼の品を用意しておる」


 そう国王が言うと、何やら大きなアイテムを数人の兵士が部屋の中に持って現れた。

 ……んん? ちょっ、ちょっと待てよ!? あれって、まさかッ!


「ほ~、流石ジンだな、一目であれが何か分かったようだな」


 国王がそう言うと、周りの貴族達は一気に騒がしくなった。

 そうして兵士達は俺の前にそのアイテムを置くと、お辞儀をして去っていった。


「ジンには我が国を救ってもらった。ならば、我が国が持つ宝の中で最も貴重で価値のある物を渡すべきだと考えた。ジン、お主ならこれを有効に使えるだろう? 受け取ってくれないか」


 国王がそう言って差し出したアイテムは、この国処か世界でも貴重な物。

 数百年前、この世界のとある場所に〝世界樹〟が生えていた。

 しかし、大戦自体が始まって〝世界樹〟が植わっていた場所も戦禍となり、数千年生えていた〝世界樹〟は燃え尽きてしまった。

 もう〝世界樹〟は二度と生えない、そう思われていたが燃え尽きた世界樹の跡地から3つの種が見つかった。

 一つはエルフ族が、一つは別大陸に住む獣人族が、そして最後の一つは大戦時代の中多くの国を移動して、最終的にこの国に持ち運ばれた。

 そんな貴重な物が今目の前にあり、それを受け取ってほしいと国王から言われた俺は、驚きすぎて言葉を失っていた。

 そして気が付くと、俺は〝世界樹の種〟を受け取り、部屋から出ていた。

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