第281話 【黒色の悪魔・3】


「あれ、ここは? ……」


 意識を取り戻した俺は、フカフカなベッドに横になっていた。

 そして体を起こし周りを見ていると、部屋の扉が開きクロエ達と姉さん達が驚いた顔をして俺の事を見ていた。


「「ジン君!」」


 皆は一斉に俺の名を叫ぶと、部屋の中に入り俺に駆け寄ってきて涙を流した。

 感情が豊かじゃない、姉さんとレンも涙を流していて、俺はこの状況に首を傾げた。


「ほらほら、皆。弟子ちゃんが困ってるから、一旦離れましょうね」


 そんな皆とは違い一人冷静に部屋に入ってきた師匠はそう言いながら、魔法で俺からクロエ達を剥がして俺の近くに寄ってきた。

 そして、俺の事を見ると「頑張ったわね」と俺の事を褒めると、優しく俺の頭を撫でた。


「あの、師匠。ここはどこなんですか?」


「ここは王城よ。悪魔との戦い後、弟子ちゃんは魔力減少で倒れたでしょ? それで弟子ちゃんを王国の兵士が、王城に運んでこの部屋に弟子ちゃんを寝かせたの」


「そうだったんですか、それで心配で集まってたんですね」


 そう俺が言うと、師匠はなにやら言い難そうな顔をして俺から視線を外した。


「……もしかして、俺って数日位眠ったままだったり?」


「……弟子ちゃんが意識を失って、三日が経ってるわ」


「マジですか……」


 師匠の言葉に俺は驚きそう返すと、だからクロエ達や姉さん達があれ程、心配した様子だったのか。

 そりゃ、普段はあまり感情が豊じゃないレンや姉さんが涙を流す筈だ……。

 あれ、でもどうやって俺が目を覚ますタイミングで皆、集まったんだ?


「もしかして、クロエ達はずっと俺の事を看病してくれてたの?」


「うん、だって私達のリーダーだから、診るのは当たり前だよ……凄く心配したんだよ。あの時、王都の方までものすごい魔力の衝突を感じて……」


 クロエは涙を流しながら数日前の事を話をすると、そんなクロエの横から姉さんも涙を流しながらこの数日間の事を教えてくれた。

 ベルロスの討伐に成功した俺は、そのまま魔力減少で意識を失って倒れている所を近くまで見に来ていた兵士達に回収されて王城に運ばれた。

 激闘を繰り広げていた俺は自分で感じている以上に体がボロボロの状態で、かなり危険な状態だったらしい。


「ジン君が神秘薬を国に渡していて、本当に良かったよ。あれが無かったら、ジン君の治療は難しかったって言われたんだよ」


 治療には俺が国に渡していた神秘薬が使用され、神秘薬が無かったら俺の状態はかなりやばかったらしい。

 良かった~、先の事を考えて国に薬を渡していて……。

 俺はそう心の中で思うと、俺の意識が戻った事が国王にまで知らせが行ったのか部屋に国王が態々やってきた。

 王様の登場に部屋に居たクロエ達は一旦外に出て、部屋の中には俺と師匠と国王の三人だけとなった。


「ジン、本当にありがとう。お主が居なかったら、我が国は焦土と化していただろう」


 国王は深々と頭を下げ、俺に対してお礼を言った。

 そしてベッドの横に立っている師匠の方にも、国王は頭を下げた。


「放浪の魔女様にも感謝致します。王都の結界、あれは貴女様がやってくれたものだと後で知りました」


「本当は人間の国にこういう事はしたくなかったけど、弟子ちゃんの頼みでやっただけよ」


「本当にありがとうございます」


 師匠の言葉に国王はそうお礼を言い、頭を上げて俺の方へと視線をやった。


「あの悪魔との戦いがどれ程、辛い戦いだったか王都に居た儂でも魔力の衝突の大きさで感じ取れていた。よく倒してくれた」


「ギリギリでした。師匠達との特訓が無かったら、あの悪魔を倒す事は不可能でした」


「ジンでもギリギリだったのか……」


「ねえ、弟子ちゃん。そこ気になってたんだけど、悪魔の力が上がってたの? 本来の力じゃない事は王都に居ても感じ取れていたけど、そんな弟子ちゃんが苦労する程だったの?」


 俺の言葉に師匠は、気になっていたという風にそう聞いてきた。


「召喚に必要以上の生贄を用意されていたので、その分が強化されていました。それは本人、悪魔自身からも聞いたので確かな内容です」


「そうなのね。私も悪魔の事は色々と知ってるけど、生贄を必要以上に用意したら強化されるなんて初めて知ったわ」


 師匠は俺の話を聞くと、初めて知る内容を聞けて少し満足そうな顔をしていた。


「……って、師匠。さっき、本来の力じゃない悪魔が居るってわかってたのに助けに来てくれなかったんですか?」


「本当に危なくなったら行く予定だったわよ? でも、弟子ちゃんに頼まれた王都も魔物に襲われていて、弟子ちゃんとの約束を優先したのよ」


「えっ? 王都に魔物ですか?」


 師匠の言葉に俺がそう驚いて反応をすると、話を聞いていた国王が「そこは儂が説明しよう」と言って王都に何が起こったのか説明してくれた。

 なんでもあの時、捕まえた帝国の捕虜から今回の作戦について細かく聞くことが出来た。

 その時、悪魔の召喚と共に魔物の軍勢を王都に襲わせるという作戦がある事を聞いた国王は直ぐに対応に動いた。

 悪魔は俺が対応していて、王都の守りに関しては師匠が対応していた。

 それを聞いた国王は、全軍を王都に押し寄せてきてる魔物共に投入して対処に応じたらしい。


「そんな大変な事になってたんですね」


「そこまで大変では無かったぞ。最も危険な者をジンが対処してくれたおかげで、兵士は一人も死ぬ事は無かったからな……本当に、ジンには感謝してもしきれない。また改めて、正式の場でジンにはお礼を言うつもり」


「えっ、いや別にここでお礼を聞いたので、別にいいですよ……」


「ふふっ、楽しみにしておくんじゃ。既にパレードの準備も進めておるからの」


 国王は俺の話を聞かず、嬉しそうに笑みを浮かべてそう言うと、笑いながら部屋から出て行った。

 その後、国王と入れ替わりでクロエ達が戻ってくると、もう大丈夫だと言っても、俺の言葉を信じず入れ替わり看病を続け。

 俺が自由になるまで、更に二日掛かった。

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