第270話 【戦女達・1】


 それから俺達は爆音が鳴った方へと行くと、既に姫様が女性達と言い争っている姿が目に入った。

 周りを見ると、敷地内が所々壊れていて、魔法でも使ったのだろうと予想がついた。


「あっ、ギルドマスターさんだ。久しぶりに見た気がする」


 そうクロネがいうと、俺は勇者達側で頭を抱えて言い争っている姫様達を見守っているアスカの姿があった。

 戦女としてギルドを離れ、勇者達と過ごしているアスカはゲーム通り勇者と仲良くしていると偶に会った時に話していた。

 ただその時も、他の戦女で意見が合わない二人が居て城に迷惑を掛けていると愚痴を聞いた。

 そして、その愚痴の原因である戦女の方へと視線を向けた。


「別に私はおかしな事はないっていないわ。そこの女が悪いのよ」


 そう口にしたのは、赤毛で少し強きな女性。

 彼女の名前はアンナという名前で、ゲームでは序盤から登場するキャラだ。


「私も間違った事は言ってませんよ。アンナが悪いんです」


 彼女の争い相手は、おっとりとした雰囲気のある金髪の女性。

 彼女の名前はナナリーと言って、戦女の中でも最後に仲間になるキャラ。

 ゲームでもアンナとナナリーはよく喧嘩している描写があり、仲が悪いと設定資料にも書かれていた。

 何故、二人の仲が悪いのか? それは性格の不一致から徐々に拗れて行ったと書かれていた。


「……あのね。どっちが悪いとか悪くないとか、どうでもいいのよ。貴方達は戦女として国から頼られている存在なのよ? それなのに、お互いの事が嫌いだからっていつまでも喧嘩して周りに迷惑を掛けているのよ。そろそろ、その事に気付いてくれないかしら?」


 大分、キレかけている姫様は自分の気持ちを抑えつつそう二人に言った。

 姫様から怒られた二人は、姫様の言葉には返事をするが反省した様子はなくちくちくと言い合っていた。


「……なんだか、想像していたよりもずっと大変そう」


「女の戦いって酷いって聞くけど、あそこまで酷いんだね……」


「姫様、大分堪えてるますね」


「フィーちゃん、大人になってる……」


 クロエ達は二人の問題児に対して、自分の気持ちを抑えつつ説教をしている姫様に対して同情しながらそう言った。

 そんな中、俺は他の戦女の方へと視線を向けた。

 戦女は全員で7人、その内の二人は昔から知っているアスカとフローラ。

 そして今現在、姫様から怒られている問題児のアンナとナナリー。

 その4人を除いた残りの三人へと、俺は頭の中でゲームでの情報と合わせ始めた。


(あっちの双子の様にそっくりな姉妹がセレネとセレナって事は、あのボーと空を眺めてるのがノラか)


 双子の姉妹の様に思われる程、物凄く似ている一歳差のエルフ族の姉妹セレネとセレナ。

 姉のセレナは魔法使い、妹のセレネは身体能力を活かした斥候職という役割を勇者パーティーで担っている。

 お互いの事を言葉を使わずとも理解していて、二人の連携力は凄まじいと設定資料に書かれていた。

 そして最後の戦女のノラは、元々一人で王都から少し離れた森の中で生活をしていた。

 名前も無く一人で生活をしていて、勇者に選ばれたセインと偶然出会い。

 彼女が戦女の一人だと気付いた勇者は、ノラを仲間に誘いその際に名前として〝ノラ〟と名付けた。


(双子は相変わらず、勇者と自分達の事以外は特に考えていない様子だな……ノラはもっと、他人に興味もないみたいだし、ゲームでの情報と視界の先に居る戦女達の情報の違いは殆どなさそうだな)


 そんな事を考えていると、言い争っているアンナ達を見ていたアスカと遠くから見守っていた俺の視線が合い。

 アスカは一瞬だけ驚いた顔をした。


「あれ、アスカさん驚いた顔してるけど、もしかして私達が居るのバレたのかな?」


「ああ、アスカにだけはバレたみたいだな」


 クロエもアスカの顔の変化に気付いて、自分達の存在が認知されたんだと察した。

 アスカは俺達が出て来たくない事を察して、他の人に伝える様子はなく。

 逆に勇者に「お手洗いに行ってくるわ」と言って、その場から離れ遠回りして俺達の所へとやって来た。


「久しぶりね。皆、元気にしていたかしら?」


 アスカは俺達の所に来るとそう言って、クロエとレイは「お久しぶりです。アスカさん」と笑顔を浮かべてそうアスカを迎え入れた。

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