第265話 【英雄の末裔・2】


 それから俺はエミリアと、打ち解ける為に少しだけ世間話をして本題の今回呼び出した理由について聞いた。


「今回ジンに来てもらったのは、どんな人物なのかちゃんと見てみたいと思ってからよ。魔王と勇者が現れ、それと同じ時に勇者以上の力を持ち人々を救う救世主という立場のジンがどんな人なのか気になったのよ」


 エミリアは真剣な顔をして、俺の顔を見ながらそう言った。

 そして数秒間、沈黙すると俺は「それで俺はどんな風に見えましたか?」と尋ねた。


「そうね。噂通りのいい子だったわね。それに物凄い強さも秘めてるわね。まあ、里の子達と取引してくれてる時点で、ある程度は性格に問題がないって分かってたけどね。普通の人間は、里の子を見ても攻撃するか逃げるかのどちらかだもの」


「まあ、普通はそうですね。そのおかげで良い物を独占出来てるので、俺としては本当に助かっいます」


「ふふっ、確かにね。ここ数年の主な取引相手は、ジンだったわね。それに名簿を見て気付いたけど、あれだけ沢山取引した相手は今までいなかったわ」


 えっ、俺が一番取引してるのか? 一月程、取引しない時もあったのに俺がトップって他の取引相手はそんなに利用して無いのか?


「そうなんですか? 他の人というか、俺以外の取引相手はそこまで積極的に取引をしなかったんですか?」


「ぼちぼちね。偶に取引するけど、基本は契約してる所と物資の物々交換でここ数年は成り立っていたわ。そんな所に、沢山取引してくれるジンが現れて、皆も凄く驚いていたわ」


「意外でした。魔人に理解がある人は稀ですけど居るので、そういった人が取引してるんだろうと」


 ゲームでは確かにゲーマーとは確かに取引してる描写はあっても、その世界の人と取引してるような描写は殆ど無かった。


「理解があっても、積極的に絡もうとはしないわよ。それが人間だから」


 俺の質問に対して、それまで笑みを浮かべ楽しそうに会話していたエミリアが、一瞬にして冷めた様な表情となりそう言った。

 ……やっぱり、あの噂は本当だったのか。

 英雄の末裔エミリアが人間界が消えた理由は、いくつも考察が上がっていてその中に〝人を嫌いになった〟という理由があった。


「……その、聞かれたくない事でしたら答えなくても良いんですが。どうして、エミリアさんは人気の国から消えて魔人と一緒に暮らす里を作ったんですか?」


「やっぱりそこは気になるわよね。今の反応を見て、ジンなら多分気付いたと思うけど私は人を嫌いになったのよ。理由は色々あって、言い始めるとキリがないから言わないけど、それで人が住む土地から離れたのよ」


「そうでしたか……」


 この数十分間話していて、そうなんだろうなと薄々感じていたけどやっぱりそれが理由だったのか。


「英雄の末裔なのに、そんな理由で人の国を離れた事に幻滅したかしら?」


「いえ……英雄の末裔だからこそ、そう思ったんだと俺は思います」


「ふふっ、流石ジンね」


 俺の言葉にエミリアは笑みを浮かべてそう言うと、ジッと俺の事を見つめて来た。


「ジンは国からいい様に扱われる事に対して、何か思う事はないの?」


「俺は無償で動かない様に極力していて、王国もその事は感じ取ってくれて何かしら報酬を払っていい関係を築いています。無償で動くと、自分も相手も関係性が崩れると分かっているので」


「そうなのね。ジンは国といい関係を築いているのね……私もそういう風にしたかったんだけど、出来なかったわ」


 英雄の末裔という理由で無償で働かされ、それが引き金となり人が嫌いになったのだろうか?

 詮索はしないけど、多分そういった事が積み重なってエミリアは人間が嫌いになり、人間の国から姿を消したのだろう。

 その後、暗い話は一旦終わりにして、この里について少し話を聞いた。


「エミリアさんは人が嫌いと先程言ってましたが、この里にも何人か人が居ますよね?」


「ええ、あの子達も私と同じ境遇の子達で、国や上の人に利用されていた子達なのよ。だから、私は彼等を里に受け入れて一緒に暮らしているわ、人の国からしたら少し住みにくいけど人の国に居るより楽しいって皆言ってくれてるわ」


 そうエミリアは言うと、ソファーから立ち窓辺に移動して、高台にあるこの長の家から里を見下ろし、優しい目で里の事を見ていた。

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