第264話 【英雄の末裔・1】
翌日、俺はクロエ達に留守番を頼み、一人で商人の里に向かった。
本当だったらクロエ達も連れて行きたかったが、招待状には俺一人と書かれていた。
「ジン君、心配はあまりしてないけど無事に帰って来てね」
「まあ、ジンなら大抵の事はなんとか出来ると思うけど、無事に帰って来いよ」
「……別に商人の里に行くだけなんだから、そんな謎にしんみりとした雰囲気作らなくてもいいだろ」
そう俺が言うと、レイ達は笑みを浮かべ「いってらっしゃい」と見送ってくれた。
そうしてクロエ達と宿で見送られた俺は、転移で取り敢えず地図から一番近い場所に移動した。
「そう言えば、一人で何処か行くなんて転生した頃以来だな……」
偶に一人で買い物とかは行ってたけど、こうして何処か別の場所に一人で来るなんてマジで久しぶりだ。
それから俺はなんだか新鮮な気持ちを感じつつ、目的の場所に向かった。
「……森の中か、まあ分かっていた事だな」
地図では森の中にあると書いてあったが、道らしき道はないみたいだ。
ここから里を見つけるのは、かなり苦労しそうだな……。
そう思っていると、森の中から見覚えのあるゴブリンが現れた。
「ニンゲン、ヨクキタナ。サトマデ、アンナイスル」
「助かるよ。森の中をどう行けばいいか悩んでいた所だった」
「サトニハケッカイガハッテアル。フツウニハイケナイ、アンナイニンイナイトイケナイ」
ゴブリン商人はそう言うと、俺の付いてくるように指示をして前を歩き、俺は遅れないようにゴブリン商人の後ろをついて行った。
そうして歩きはじめてから10分程度、ずっと森の中を歩いていたのだが一瞬にして視界が開け、その先に村が現れた。
「ココガワレラノサトダ。オサノトコロマデアンナイスル」
里に着いた俺は、そのままゴブリン商人の案内で里の長の家に向かった。
それにしても、ゴブリンだけが住んでるのかと思ってたけど、意外とそうでもないんだな……。
見える範囲だけでも、人間も何人か居るように見え、特に虐げられてる様子も無く普通に生活してるようだ。
「オサ、ジンヲツレテキタ」
「分かった。部屋に入って良いよ」
えっ、女性の声? 里の長って、女性なのか?
そう俺が驚いていると、連れて来てくれたゴブリン商人から「ソコデトマッテタラジャマニナルゾ」と言われ、ハッと気づいて俺は部屋の中に入った。
そうして俺は部屋の中で待っていた里の長の姿を見て、驚き固まった。
「初めまして、私はこの里の長をしてる。エミリアという者だ」
「待ってくれ、情報が多すぎる。いやいや、そんな筈は……」
長の自己紹介を聞いて、俺の思っていたことが確信に変わり情報過多によって俺の頭がショート寸前だった。
「その輝く白銀の髪、緋色の目。そしてその名前……貴女はまさか、英雄王の末裔エミリア・フィリアスですか?」
「あら、まだ私の名前って有名なのかしら? 人間の国から姿を消して、もう100年は経ってる筈なのに、先祖の功績が大きいと無駄に語り継がれるわね」
英雄王の末裔エミリア・フィリアスとは、ゲーム時代ではその名を聞く事すらなかった人物。
だがこの世界に転生して、幾度もその名を聞いた俺はその人物の見た目と名を記憶していた。
英雄王ブラド・フィリアスは数百年前の大戦時代、最も活躍した人物の名。
神より力を授かったブラドは、その力を使い戦いを終わらせ多くの民を救った。
そしてその英雄の末裔達もまたブラドと同じく、多くの民を救い。
エミリア・フィリアスも、姿を消す前まで多くの者達を救った英雄の一人。
ただし、100年と少し前に突如として彼女は姿を消してしまい、英雄の末裔は彼女が最後となったと多くの歴史書に書かれている。
「すみません、色々と混乱してしまい驚いてしまいました」
「気にしていないわ。そうなると薄々分かっていたわ」
あれから数分後、俺はようやく落ち着いて部屋のソファーに座らせてもらっていた。
「多分、色々と知ってると思いますけど自己紹介した方がいいですか?」
「大丈夫よ。ジンの事はずっと前から色々と聞いてるから」
「そうですか、それは良かったです。まだ混乱してるので……というか、あの一つだけ気になってる事があるんですが、エミリア様って人間ですよね?」
「ふふっ、100年も前の人物がこんなに若い体で驚いちゃったかしら? その質問に答えるとしたら、私は純粋なヒューマン族よ。ただ先祖の力を濃く受け継いだせいで、ちょっと寿命と老化が遅いってだけよ」
「ちょっと、なんですね」
そう俺が言うと、エミリアはニコッと笑みを浮かべ「そう。ちょっとよ」と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます