第254話 【VS剣聖・3】


 激しい攻防が始まってから、十分程が経過した。

 既にお互いに傷が増え、血を流しながら戦っている。

 師匠の結界のおかげで俺も全力で魔法を放っているが、流石剣聖というべきか勘の鋭さが異常で瞬時に魔法を避けられてしまう。

 ゲーム時代よりも強くなってるなとは感じてたけど、このユリウスの強さは四天王のミザリニスよりも上だろうな……。


「はぁッ!」


「くっ!」


 ゲーム時代のユリウスはどちらかというと、剣士タイプの接近戦スタイルだったのだが。

 アンジュとの再会がユリウスにゲームとの変化を与えたのか、ゲームとこの世界のユリウスの戦い方はかなり変わっている。

 魔法も巧に使い、更には剣に魔法に付与して戦う【魔法剣】まで習得している。


「それ、さっきからかなり使ってますけど魔力持ちますか?」


「ふふっ、安心していいよ。これでもジン君が居ない所で魔法の訓練をずっとしてきたからね。再戦を希望した理由も、このスキルが完璧に使いこなせるようになったからっていう理由だしね」


「そうでしたか……かなり厄介なスキルですね」


 【魔法剣】その技には名前の通り魔法が付与されるのだが、剣の腕だけで〝剣聖〟と呼ばれるようになったユリウスがそれを使うと異常な強さを発揮する事になった。

 【身体強化】+【魔法剣】を合わせたユリウスの剣術の動きは、異常な速さで師匠やドラゴン族との訓練が無かったら受けきれない程の強さだった。

 いや、というかマジでユリウス強くなり過ぎだろ……下手したら、勇者と互角なんじゃないか?


「全く、ジン君は本当に凄いね。この技はアンジュにも勝てたのに、それでも勝てないなんて」


「えっ、アンジュさんに勝ったんですか!?」


「ああ、速さで翻弄して何とか勝てたよ。まあ、そのおかげでアンジュの機嫌が暫く悪くなったんだけどね」


 そう笑みを浮かべながらユリウスは言うと、息を整えて再び攻撃を仕掛けて来た。

 その後も俺とユリウスの戦いは続き、開始から約一時間が経過した。

 流石に互いに魔法も使いながら戦った事で、ユリウスの魔力はそろそろ限界となってきていた。


「ジン君は接近戦も得意なのに、その異常な魔力はおかしいよ……」


「そういうユリウスさんこそ、よくここまで魔力が持ちましたね。……ただこれは、真剣勝負ですからね。魔力が尽きたからといって手加減はしませんよ」


「……ふふっ、ジン君ならそういうと思ったよ。だから、僕も最後の切り札を使わせてもらうね」


「なに?」


 ユリウスは俺の言葉を聞くとニコリと笑みを浮かべると、天に向かって剣を向けると天から光がユリウスへと向かって落ちた。

 その光はユリウスの体を包み込むと、これまでの戦いでついた傷が一瞬で癒え、更には尽きかけていた魔力も回復した。

 ……ちょ、まっ!? あの技って、確か聖女の【聖なる祝福】じゃ!?

 そう思い、パッと試合を見てる姫様の方を見ると笑顔を浮かべていた。


「マジかよ……」


 【祝福】とは聖女が使う技の一つで、その技の効果は4人限定にとあるスキルを与える技。

 その技の名が【聖なる祝福】と言い、一日に一度だけ使用者の体力と魔力を完全回復させるという技。

 ゲーム時代は聖女にお願いして、パーティーメンバーの中から選んで付けてもらうというシステムだった。


「本気の戦いだからね。これも私の力の一つだからいいよね?」


「……ギリギリですけどね。まあ、文句は言いませんよ」


 振出しに戻された俺は溜息交じりにそう言い、俺は改めて試合を再開させた。

 流石に完全回復したユリウス相手に、俺は一度目の戦いで魔力を一気に使ってしまっていた為、少し温存気味に戦う事にした。

 そのせいで防戦一方となったがそれでも、決定打を与える隙は作らずに魔力を使わせ続けた。


「はぁ、はぁ……流石にきついな……」


「まさか、ここまでジン君が粘るとは思わなかったよ。あれを使ったら、流石にいけると思ったんだけどね……」


 祝福で完全回復したユリウス相手に何とか、耐え抜いた俺だったがそろそろ温存して使って来た魔力もかなりヤバイ状態となっていた。

 まさか、あそこまで鍛えたのにこんな削られるなんてな……もしかしたら、今のユリウスは悪魔と互角なんじゃないか?

 そう思わされる程、ユリウスは本当に厄介な相手だった。


「……師匠の前で負けるわけにはいかないしな、ユリウスさんそろそろ最後としましょうか」


「そうだね。そろそろ決着をつけないとね」


 俺の言葉にユリウスはそう返すと、互いに息を整え最後の攻撃の準備をした。

 そして一瞬の沈黙の後、俺とユリウスは同時に動きぶつかりあった。

 最後に選んだ技、それは俺が一番得意としている刀術で、ユリウスもまた剣術で勝負を仕掛けて来た。

 互いにこれまでの戦いで疲労が積み重なっていて、一歩も譲らない状態が数秒続いた。


「……剣聖という名は伊達じゃないですね」


「……ふふ、そんな剣聖に最後は接近戦で勝ったジン君は〝救世主〟と呼ばれるだけあるね」


 そうして長い長い、俺とユリウスとの戦いは粘り抜いた俺の勝利で幕を閉じた。

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