第252話 【VS剣聖・1】


 姉さんと過ごした翌日、休みを与えた事で兵士達のやる気が疲労で下がっていたのが元に戻っていた。

 本人達は気づいていない様子だったが、初日に比べて疲労で元気が無くなっていたのをどうにかしたいと思って休みにしたけど、いい案だったみたいだ。


「ねえ、ジン君。あれいいの?」


「気にしたら負けだ。無視無視」


 休日明けから、俺はずっととある人物からずっと見られている。


「でも兵士さん達も気になってるみたいだよ? 集中しきれてないみたいだし」


 レイの指摘通り、その視線を送って来る相手が気になって兵士達が集中する事が出来ていなかった。

 俺は溜息を吐き、俺はその人物の元へと向かった。


「ユリウスさん、ここは持ち場が違う気がするんですけど何で居るんですか?」


「た、偶々通りかかってね。私の方は今日は休みにしてるんだよ。姫様から、あまり無理をさせ過ぎないようにと注意されたからね」


「はぁ……なんでそうまでして、俺と戦いたいんですか? この間、戦ったじゃないですか」


 ユリウスが俺と戦いたがっていると姫様から聞いて、ふと思い返してみればつい最近戦ったばかりだった事を思い出した。

 それなのにこの剣聖は、俺と戦いたくてずっと視線を送って来ていた。


「いや~、ジン君って一日会わないだけでも直ぐに強くなるから、出来る事なら毎日戦いたい位なんだよね」


「……今日は兵士達の訓練があるんで、どのみち時間は無いです。お帰り下さい」


「え~、見てるだけもダメ?」


「兵士達が集中出来ないので」


 そう言って俺はユリウスを訓練場から追い出し、溜息を吐いてレイの所に戻った。


「あれ、ユリウスさん帰ったの?」


「訓練に影響があるって気づいてくれて帰ってくれたよ。全く、訓練相手なら勇者で十分だろうに……」


 帰還してきた勇者は魔王軍討伐の為に訓練してる兵士達と共に、自分の限界を更に上げる為に訓練をしていると姫様から聞いている。

 ただ勇者の場合、兵士達に教える側ではなく戦女達と共にダンジョン攻略をしたりと実践的な訓練をしている。


「勇者さんが王都に居ないからジン君に頼んでるんじゃないの?」


「偶に帰って来てるとは姫様から聞いた。ユリウスがそれを知ってるは知らないけどな……」


 その後、陽が沈むまで指導をした俺達は兵士達に明日も頑張る様に、と声を掛けて解散した。

 解散してから俺は城の浴室で汗を流して、クロエ達を待っていると姫様の従者が現れた。


「ジン様、今から少しお時間大丈夫でしょうか? 姫様から、ジン様の予定が大丈夫なら部屋に来て欲しいと伝言を頼まれました」


「姫様がですか? 訓練終わりに呼び出しは珍しいですね。分かりました。クロエ達と一緒でも大丈夫ですか?」


「はい」


 従者から返事を聞いた俺はクロエ達が来るのを待ち、戻って来たクロエ達に呼び出しの事を伝えて姫様の部屋に向かった。

 姫様の部屋に入ると、姫様以外には人が居なかった。


「珍しいですね。姫様が訓練終わりに呼び出し何て」


「ええ、ちょっと伝えないといけない事が起きてね。明日来てからでも良かったんだけど、ジン達の予定がないなら早めに伝えておこうと思って」


「……何かあったんですか?」


 姫様の様子から何か起きたのだろうと察した俺は、真剣な顔をして姫様にそう聞いた。


「前に話したと思うけど、私専用の従者にはいくつか特別な待遇を用意してるって話覚えてる?」


「えっ? ああ、はい。覚えてますよ」


 以前、姫様から従者にならないかと提案された事がある。

 その時に姫様から、その従者の待遇について色々と聞かされた。

 ただ俺としては別に魅力が感じなかったから断り、クロエ達も俺の意見を聞いて断っていた。

 しかし、何で今その話が出るんだ? 大事な話に姫様の従者が関係してるのか?


「そして従者の中で最も優秀な子には、毎年私にお願いをする権利を与えているのよ。物だったり、権利だったり、私が用意できるものならってルールで渡しているんだけど……今回、その優秀な子からのお願いがジンに関する事なのよ」


「もしかしなくても、今回その優秀な子に選ばれたのってユリウスさんですか?」


「ええ、そうなのよね。ここ数年、ユリウスはずっと一位で毎年その報酬を受け取っていて、今までは剣だったりお金だったり、比較的用意しやすい物だったんだけど、今回望んだものがジンとの対戦権なのよ」


 そこまでするのかよ……というか、何で今更そんなのを使って俺と戦いたいんだ?


「あの数年間ずっと一位って、今までそれを使って俺と対戦しようとして来ませんでしたけど、何か理由があるんですか?」


「ほらっ、前まではジンは隠れて活動してたでしょ? ユリウスも流石にそんな人相手に、態々こんな権利を使ってまで対戦はしたくなかったみたいなのよ」


「……成程、それで表舞台に出て来たから今回はそれを使ったと」


 一応、その理由には納得できたけど、態々一年に一度しか貰えない姫様からの特別報酬に俺との対戦権利って本当に頭おかしいんじゃないか?


「ユリウスさんも凄い事するね。お金とかより、ジン君との対戦権のが大事だと思ったのかな?」


「ジン、最近はユリウスさんを避けてるからな」


「今日もジン君、ユリウスさん追い返してたし、自分で戦いを申し込んでも無理だと思って姫様の報酬に選んだのかな?」


 クロエ達は話を聞いていてユリウスがどうして態々、特別報酬で俺との対戦権利を所望したのか言い合っていた。


「それでジン、どうかしら? ユリウスと戦ってあげてくれないかしら? 勿論、お礼も用意してるわ」


「はぁ……これを断ると、ユリウスさんが更に面倒になりそうですね」


 そう言って俺は姫様からの頼みでもあるし、これ以上ユリウスとの対戦を拒否していると更に面倒になりそうだと思い、引き受ける事にした。

 全く、ゲームではこんな面倒なキャラじゃなかったのに、どうしてこうなったんだよ……。

 俺はゲームとこの世界のユリウスの違いに、心の中でそう愚痴ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る