第203話 【約束・3】


 翌日、昨日は遅い時間だったからレンの薬の件を報告出来なかったので、朝のうちにクロエ達を呼んで二人にも薬が出来た事を報告した。


「ねえ、ジン君。流石にこんなに凄い薬を作るようになったなら、やっぱり前から話してた通りレン君の研究所作った方がいいんじゃない?」


「俺もそれを昨日言ったんだが、本人が嫌がってるからな……」


 クロエは薬を見て、これ以上ギルドでの研究は続けるべきじゃないと思い、昨日俺が散々レンと言い争った事を言った。


「皆がそれぞれ使う目的でパーティーの拠点を建てるなら、俺だって別にここまで嫌がらないよ。だけど、今は俺だけが使う目的で話が進んでるだろ? それが嫌なんだよ」


「別にあったらあったで使うと思うけどな、ここが居心地がいいからずっとここに居るだけで拠点を持ったらそっちに移るかも知れないし」


「……でも、ここから離れたらルリちゃんやヘレナさん達とも離れる事になるよね」


 俺の言葉にクロエがそう言うと、確かに姉さん達と折角一緒の建物に住んでるのに離れる事になるな。


「ほらな? 今が一番いいのに、その今を崩すのは意味がないだろ?」


「……だとしても、レンの研究をギルドでずっとやってくのも心配だしな。ギルドからも大分、隠して貰ってるけど何処に人の目があるか分からないからな」


 ギルドが安全じゃないと言いたいわけでは無いのだが、ギルドには色んな人が出入りしていて少し不安がある。

 その事をレンにちゃんと言うと、それについてはレンも理解していて「ちゃんと警戒はしてるよ」と言った。


「こうみえて、俺だって金級冒険者に上がったんだ。周りの人の目位はある程度、気付けるようにはなってるからジン達が思う程、心配しなくても良いんだぞ」


「いやレンが強い事は分かってるけど、それでも心配なんだよ。……レイはどう思う?」


 ここまで話し合い中、ずっと皆の意見を聞いていたレイに俺はそう意見を聞く事にした。


「ん~、レン君の意見として一人で使う目的だったらパーティーの拠点は要らないんでしょ?」


「ああ、俺一人で使うのは嫌だ」


「でもジン君達はレン君の事が心配だから、自分達の所有する建物で研究してほしいと思ってるんだよね?」


 レイのその言葉に対して、俺とクロエは頷いた。


「どっちの意見も正しいけど、私としてはジン君達の意見寄りかな? 今は必要なくても、後々必要になると思うし、別に持っていてもいいと思うよ。それにレン君だけが使うって考えなくても、パーティーの拠点があれば皆多分何かしらで使うと思うよ。私だったら、訓練所作っていつでも訓練出来る様にしておきたいかな」


「訓練所って、別に空島があるだろ?」


「空島は、ジン君が居ないといけないじゃん。ジン君って用事で居ない時があるから、それで送り迎え頼むのも申し訳ないでしょ?」


 レンの言葉にレイがそう言い返すと、レンは納得した様子で「……言われてみれば、そうだな」と言った。

 まあ、訓練所という意見は昨日も言ったのだが、その時はクロエ達の意見聞いていなかったレンは否定され、レンの気持ちを切り替える事は出来なかった。

 だけど今回はクロエ達も同じ意見だと知って、レンは皆がちゃんと使うならパーティーの拠点を持つ事に賛成してくれた。


「本当に長かったな……」


「レン君って頑固な所があるからね。昔から、よく喧嘩してたよ」


「頑固なのは認めるけど、実際俺だけが使うのは本当に気を遣うから嫌だったんだよ。正直、俺だって自分の研究所あったらもっと色々と出来るなとは思ってたけど、俺だけそんな事をするのは違うなって考えてて我慢してたんだよ」


「別に我慢しなくても、俺達は良いって言ってたのにな……」


 レンの反論に対して俺がそう言うと、クロエとレイはウンウンと頷いた。

 その後、俺達は今後パーティーの拠点となる場所を探してもらう為、ギルドに行きその事をリコラさんに伝えた。

 するとリコラさんは何故か拠点を持つと聞いて、安心しましたと言った。


「ジンさん達ずっと一緒なのにパーティーの拠点を持たなかったので、いつか王都から出るのかとギルドで噂されてたんですよ」


「あ~、まあ元はそう考えてましたからね。ただ最近になって、その気持ちが変わったので拠点を持つのもありだなって考えが変わったんです」


「そうだったんですね。分かりました。拠点の雰囲気などは何かご要望はありますか?」


「取り敢えず、広さはある方がいいですね。レンの研究所もそっちに移す予定なので、それと庭も広い所が良いです」


 それからクロエ達も自分達の要望を伝えて、全部を聞いたリコラさんは数日以内に手配しますと言った。

 予算に関しては、これまで貯めて来たお金や今後入る収入も大きい事から、特に気にしなくてもいいと伝えた。

 まあ、パーティーの拠点で住む予定は今の所無い為、出来るなら今の宿から近い方がいいとも伝えて、俺達はギルドを出た。


「リコラさん凄く嬉しそうだったね」


「まあ、自分達でいうのもあれだけど活躍してる冒険者が拠点を持ってなくて、いつでも出て行ける状態なら、俺が同じ立場なら心配にも思うだろうな」


「そうだね。特にジン君の場合、元々活躍してる姿を隠そうとしてるのに隠しきれずに目立つようになってたから、いつか出て行かれるかもって心配されてたのかな?」


「多分、思われてただろうな」


 そんな事を話しながら俺達は宿に戻り特に予定は決めてない為、皆と一緒に空島に移動していつもの訓練をする事にした。

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