第192話 【救世主・1】


 そうして全ての街の奪還依頼を終えたジン達は、別の街の奪還や復興に協力して、瞬く間に国中に伝えられた。

 勇者達が療養中の為、国は一定の被害は覚悟していたのだがジン達の登場により、その心配なくなった。

 ジン達の凄い所は、リーダーであるジンが転移を自由自在に扱える為、移動時間が全く無く。

 更に大人数の移動も可能の為、復興する街への人員補給も速やかに行われてまさに〝救世主〟の様な存在となっていた。


「……姫様、かなり目立つのを控えて行動してたのに何でこんな〝救世主〟って二つ名が付いてるんですか」


 ジン達が活動を始めて、約一ヵ月程しか経っていないが〝救世主ジン〟という名は、たった一月の間に国中に名が知れ渡っていた。

 そしてジンの仲間であるクロエ達にも、同じ様に二つが付けられている。

 クロエは〝獣人魔導士〟。

 レイは〝怪力娘〟。

 レンは〝稀代の錬金術師〟。

 皆は能力や個人の成果から付けられた様な名前をしているのに、何故か俺だけ〝救世主〟と付けられていた。


「ジンの場合、行動を制限していたとしてもその持ってる能力がバレた時点で騒がれる位凄いの自覚してないでしょ? ジンが表に出た時点で、貴方は注目の的になるのは決まっていたわ」


「そんな……」


 姫様からの言葉に対して、俺は頭を抱えて落ち込んだ。

 正直、多少目立つくらいならと思って活動を始めたが、今では街ですれ違うだけでも握手を求められたりと想像よりも目立っている。


「まあ、でも私も予想していたよりも随分と早くジン達の成果が知れ渡った感じがするわ。誰かが意図的に情報を流してるんじゃないかしら?」


「誰かが意図的に……」


 その言葉に俺はふと、ある人物を思い浮かべた。

 聖剣勇者と七人の戦女というゲームには、多くの個性的なキャラが登場している。

 どんなキャラが居るのか、そのキャラが何処に居るのか、そのキャラの好きな物がなんなのか。

 発売当初、まだ攻略サイトや攻略本・設定資料などが無い時、ゲーマー達はそれらを知るすべが限られていた。

 ゲーマー同士での情報交換が主に使われていたのが、発売から数日後、とあるゲーマーがあるキャラを見つけた。

 そのキャラとは、聖剣勇者と七人の戦女の世界で情報屋を営むキャラだ。

 あいつだったら、独自の組織を持ってるから俺の情報も簡単に集めて、流す事位は出来るな……。


「その顔、誰か心当たりがあるのかしら?」


「多分、情報屋じゃないかと……昔、絡まれた事もあるので」


 ゲームでは中盤位に登場する奴だが、この世界だと三年前から活動をしていて一度、絡まれた事がある。

 その時は目立つ事を嫌っていた俺は、あいつ等から逃げる為に王都に戻ってくる時期を一時期変えたりして対応したりした。


「情報屋……成程ね。あの人達、ジンの事を一時期追っていた事があったわね。あの頃から目を付けられてたのかもしれないわね」


「そうですね。当時の情報も一緒に流れてるみたいなので、相当溜めていたんだと思います」


 ここ最近の話だけではなく、俺達がこの三年間秘密裏に活動していた事までも公表されていた。

 多分、あいつは俺が表で活動をするのをずっと待っていたんだと思う。


「また厄介な人に目を付けられたわね。ジンって、そういうのに愛されてるのかしら?」


「まあ、三年も前から姫様に目を付けられたりしてたので、そういう星の元に生まれたんだと思いますよ」


 そう言うと姫様は笑みを浮かべて、また次の依頼が決まったら連絡すると言われて宿に戻った。

 宿に帰宅後、クロエ達には連絡が来るまで暫く休みだと伝えた。

 久しぶりにまとまって休めると知ったクロエ達は、久しぶりに買い物に行ってくるとフィオロを連れて出掛けてレンもまた研究の続きをしてくると出かけた。


「……さてと、俺もやられっぱなしは癪だし、こっちから挨拶にでも行くか」


 皆を見送った俺は、俺達の情報を流した人物に会いに行く為、宿を出て情報屋の所へと向かった。

 情報屋の拠点は色んな国にあり、その一つがデュルド王国の王都にもあり、デュルド王国の拠点こそ、情報屋のリーダーのあいつが居る場所だ。


「あれ、ジンさんじゃないですか? お久しぶりです」


 情報屋の拠点は表向きは普通の雑貨屋で、その店の店長から俺はそう話しかけられた。

 この店長も情報屋の一人だと知っている俺は、前置きはせずに直接リーダーについて聞いた。


「今、出回ってる情報についてだ。お前等のリーダーに会わせて欲しいんだが、今居るか?」


「リーダーなら奥に居ますよ。ジンさんが来たら、通せって言われてるので、どうぞ~」


 店長はそう言うと、店の奥へ通してくれたので俺は店長に礼を言って、奥へと歩いて向かった。

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