第150話 【襲来・3】
「……ジン、お前徹夜したのか?」
「へっ? ああ、うん。ちょっとやる事があってな……」
昨日、購入した〝空間魔法の心得〟という本を俺は徹夜で読み続けていた。
一旦、夕食の時にレン達に呼ばれて読書は中断されたが、その後シャワーを浴びて戻ってきた俺は朝まで読書を続けていた。
かなり、眠たいな……でも、それ以上に色々と収穫があった。
「そんなに昨日買った本は面白かったのか?」
「ああ、滅茶苦茶ためになる本だったよ。空間魔法の師匠がいらない可能性すら出てくる程、色々と書かれてた」
「そんなにか? それそんなに高くなかったんだろ?」
「ああ、金に困った魔法使いが自分で書いたっていう本だからそこまで高く買い取らなくて売値もそんなに高く設定してなかったみたいだけど、これ多分金貨数十枚でも俺だったら買ってたかも知れないな」
そうあの本の内容は、それだけの価値のある物だった。
それと作者の欄に書いてあった名前、本を読んでる途中で気付いたがあの名前はゲームに登場するクロエと同じお助けキャラの放浪の魔女マリアンナだった。
放浪の魔女マリアンナは名前の通り、特定の場所に居るキャラではなくゲーム中、一度も会わないという事が起こるほどに珍しいキャラ。
魔女という名に相応しく、魔法系のスキルを多く所有していてその中には【空間魔法】も確かにあった。
制作人は何でこんなキャラを作ったのか、ゲーマー達から質問されその答えが「そういったキャラが居た方がが面白い」という単純な回答だった。
まあ、確かに俺も実際にマリアンナの設定は最初こそ不満を感じたが、偶に出て来ては凄く助けて貰って好きなキャラの一人でもあった。
そんなキャラが書いた本がこの世界にあったなんて、ゲームでは知る事も出来なかったから本当に気づいた時は久しぶりに興奮した。
「取り敢えず、連絡が来るまではこの本で勉強する事にするよ。良い教材が手に入ったよ」
「へ~、そんなに面白いなら、読み終わったら俺にも見せてくれよ」
その後、朝食を食べた俺は再度、本を読む為に部屋に戻った。
それから一時間程、読み続けようやく最終章とタイトルが書かれていた。
「中々のページ数だったな、だけど一日掛けて読み続けられる程、中身がシッカリとしているのには更に驚いたな……」
朝食の時もレン達に呼ばれなかったら、俺はずっと読んでいた程、この本は読みごたえがあった。
流石、マリアンナが書いただけあるな……。
「って、なんだこのページ? 文字列がバラバラ?」
最終章と書かれたページをめくると、そこには両開きのページいっぱいにバラバラに文字が書かれていた。
んっ? いやでも、これは読めるぞ?
「空間、世界は、無の世界。、無の世界の住人、になれば、地上を、歩まずとも、世界を、旅、する事が出来る?」
バラバラになった単語を一つ一つ口に出して読むと、ページが輝きだした。
その輝きに俺は耐えられず、顔を背けて目を瞑った。
「あら、意外と早かったわね。もうあの本を読んじゃう子が現れるなんて」
眼を瞑っていると、そう俺の女性の声が聞こえた。
俺は徐々に目を開けると、部屋の中に一人の美しい女性が居た。
ッ! 放浪の魔女マリアンナ!?
「はじめまして、私は放浪の魔女マリアンナよ。そして、これからよろしくね。私の可愛い初めての弟子ちゃん」
ニコリとマリアンナは笑みを浮かべながらそう言うと、俺の頬をサッと撫でた。
彼女との距離は数mあったのに、その間を彼女は一瞬で移動して来た。
「……貴女があの本の作者ですか?」
「あら、意外と驚いてないのね? もうちょっと驚くと思ったのに、残念だわ」
「……」
「ふふっ、そう怒らなくていいじゃない。まあ、その質問に対しての答えだけど、そうよ。私が貴方が読んだ〝空間魔法の心得〟の作者よ!」
ババンッと効果音がなるようなポーズをとったマリアンナは、俺の反応にムスッとした表情を浮かべた。
マリアンナってこんなキャラだったか? もっと知的というか、クールというか……。
「って待て、今俺の事を弟子って言ったか!?」
「随分と時間が開けての質問ね……ええ、私の弟子になる資格をあなたは手に入れたわ。だから、私は貴方を弟子にすると決めたのよ」
「し、資格って俺は何もしてませんよ?」
「したじゃない。その本を読んだんでしょ? 最終章の暗号は、空間魔法を使える者、本の中身を理解した者、そして一番重要なのが私の弟子になれる存在かを突破した者だけが読み解けるようになってるのよ。凄いでしょ!」
褒めなさいと言わんばかりに胸を張るマリアンナに、俺は理解が追い付かず目が点となった。
ただ本を読んでいたと思ったら、放浪の魔女マリアンナの弟子になる為の試験的なものに挑戦していた何て思う筈がないだろ……。
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