第141話 【ルバドと迷宮へ・3】


 翌日、俺は皆にはまた予定が決まるまでは休みと言って、それぞれの時間を過ごしていいと言った。

 とはいったものの、そろそろフィーネさんの調査も終わる頃だし、一度ギルドに話を聞きに行ってもいいな?

 そう思った俺は朝食後、冒険者ギルドへと行き話を聞きにやって来た。


「すみません、ジンさん。最近は魔王軍の動きもありまして、おススメできるダンジョンが中々無いんですよ……」


「あ~、そうですよね。別に焦らせる為に来たんじゃないので大丈夫ですよ」


 魔王軍、自称四天王が現れ活発に動くようになってきてるし、そろそろダンジョン目的での旅は出来にくくなってきたな。

 ダンジョンに行く理由は、その場所で手に入れられる宝と素材、後は外よりも強い敵が居るからレベル上げが出来るからだ。

 だがレベルに関しては既にクロエ達も五十後半の為、余程の敵が来ない限りは戦える。

 それからフィーネさんには報告を待ってますと言って、ギルドを出てリーザの店へと向かった。


「ジン、いらっしゃい」


「いらっしゃいませ」


 以前までリーザの店はリーザ一人でやっていたが、新たに店員としてリブルが雇われる事になった。

 雇われと言っても、給料はほぼ無く、タダ働きと言ってもいいくらいだろう。

 まあ、この程度で済んだと思えば良いだろう。


「ジン、昨日はありがとね。爺ちゃん、喜んで水晶で作ったプレゼントを婆ちゃんに贈ってたよ」


「まあ、俺はリーザに世話になってるから、少しでも恩を返せたらと思って動いただけだからな……それでリブルさんの対応だけど、よくあの程度で許せたな」


「……母さんから、頼まれたんだよ。戻って来たなら縛り付けて置いてって、鍛冶の腕はあるからコキ使えば良いって許可貰ったんだよ」


「成程な、それでリブルさんに雑用を押し付けてるのか」


 この会話中も、リブルは店先の掃除をずっとしている。


「まあ、ジン達以外にも最近は仕事も増やしたからね。人手が欲しいと思っていた所だったし、丁度良かったと思ってるよ。何せ、タダで使えるんだからね」


 リーザは笑いながらそう言うと、リブルに裏の掃除をするように指示をしていた。


「そういや、ジン達は次はいつ王都を発つんだい?」


「それが今の所、未定なんだよ。最近は魔王軍の動きも活発になってきて、行けるダンジョンが少なくなって来たんだよ。大体のダンジョンは攻略してるから、見つけるのも苦労してるらしい」


「確かに最近、よく魔王軍の事を聞くね。母さん達も王都に魔王軍が押し寄せてこないか心配してたな……」


 リーザはそう言うと「王都は大丈夫と思うか?」と聞いて来た。


「まあ、この国で一番狙われてるのが王都だと思うが、一番安全ともいえるだろうな。何せ、ここには強者が大勢集まってるから、簡単に攻められないと思う」


「そうなのか? あまりその辺は詳しくないんだが、この間の話からして勇者はまだ頼りないんだろ?」


「ああ、だけどこの国には剣聖と守護神、更にレーヴィンさんとリオンさんが居るからな、勇者がまだ未熟でもその人達がいるおかげで王都は大丈夫だと思うぞ」


 普段、あまりこういった不安な様子を見せないリーザの姿に王都の住民も大分、不安が溜まって来てるんだなと察した。

 リカルド達も心配してたし、せめて知り合い達が不安にならない程度に王都の守りを固めないとな。

 まあ、一番は勇者様が強くなってくれる事が良いんだが……多分、勇者の成長の妨げになってるのが俺の動きだろう。


 勇者の成長の妨げにならない程度にこれまで動いて来たが、原作と違う動きをしてる俺がいるせいでゲーム通りに勇者が強くなっていないんだと俺は考えている。

 そもそも、一番最初のジンvs勇者の学園での戦いはジンが敗北して、勇者が戦女の一人フローラと親密になる大事なシーン。

 その戦いが無く、現状フローラと勇者は一緒に戦う味方というだけの関係に留まっている。

 ゲームでの勇者の力の解放には、戦女との絆が深まる事で解放される力もあり、その力が一つも解放されていない状態が今の勇者だ。

 なるべく、親密になる様にヒントを姫様に与え、それを察した姫様が戦女達と勇者の絆を深まらせる為に色々としてるみたいだが、上手くいっていないのだろう。


「まあ、いざってなればリーザ達くらいは俺達が守るから、安心して過ごしててくれ」


「ふっ、確かに何も知らない勇者様よりジン達の強さは十分知ってるからね。なにかあったら、頼むよ」


 その後、俺はリーザからメンテナンスが終わった装備を受け取り宿へと帰宅した。


「おっ、ジン。いい所に来たな、お前さんに客だぞ」


「俺に客?」


 宿に戻ると、リカルドからそう言われて俺の客が待ってる食堂に向かうと、そこには見覚えのある人が居た。

 いや、何であの人がここにいるんだよ!?

 そう俺は内心、驚きつつもその人物へと近づいた。


「……姉さん、と呼んだ方がいいですかね」


「久しぶりね。貴方がまだ私の事を姉と思ってくれてるなら、そう呼んでほしいわね。ジン」


 俺の客、その人物は元ラージニア家長女ヘレナ・フォン・ラージニアだった。

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