第136話 【拳闘士ルバド・1】


 ガフカ家のゴタゴタを見た翌日、俺はリーザの祖父であるルバドと共にギルドの訓練場へとやって来ている。


「ジン、お主のその隠しきれてない力、儂に見せてくれんかの?」


「……良いですよ。ルバドさんは、リーザのお爺ちゃんですからね。リーザには世話になってるので、その位のお願いなら聞けますよ」


 ここに来る前、俺はルバドから「頼みたい事がある」と言われて連れてこられた。

 リーザみたいに何か素材を取って来て欲しいのかと思ったが、力比べだったのか、この位なら断る必要も無い。

 それにルバドは爺さんだが、冒険者になって鍛え始めたと言っていたが鍛冶で鍛え上げられた肉体で現在銀級冒険者の一人だ。


「ハハハ、受けてくれて嬉しいぞ! リーザから、ジンは目立ちたくない性格してるから断られるかもって言われて負ったから、心配じゃったんじゃよ」


「事前にギルドに訓練場から人を退かしてくれたのは、リーザから話を聞いていたからですか。まあ、そうですね他の人なら俺も断わってたかもしれませんが、リーザの爺ちゃんだから受けたんですよ」


「それはそれは、リーザちゃんに帰ったらお礼を言わないとじゃな」


 ルバドは豪快に笑いながらそう言った。

 ルバドの見た目は身長約2mもあり、服の上からも筋肉が浮き出る程に鍛えられた体をしている。 

 武器はその体格にあった大きな大剣で、準備運動の時その大剣を片手で振れる程、凄まじい力を持っている。

 あの筋力、ほぼ【怪力】使用時のレイと一緒だな、ステータスは聞いてないが多分俺と一緒でランクよりも高い能力を持っているだろう。


「って、ルバドさん? なんで武器を持ってないんですか?」


「んっ? 武器なら付けておるぞ、ほれ」


 ルバドはそう言うと、両手の拳を前に突き出した。

 いやまあ、確かに拳にはグローブが着いてるけど、えっ? それが武器なの?


「さっき使ってた剣は、どうしたんですか?」


「ああ、儂の闘い方はこれじゃよ? 剣は飾りじゃよ! 武器を使うより、自分の体を使う方が簡単じゃ!」


「鍛冶師なのに武器使わないって、どういうことなんですか……」


「うむ、儂も色んな武器は試したんじゃよ? じゃが、どれもシックリと来なかったんじゃ、それで行きついたのが自分の体を使う戦い方じゃったんじゃよ。それと武器は、拳だけじぉないぞ? 武器は儂の体全部じゃ!」


 ルバドはそう言いながら、フンッフンッと鼻息を出しながら如何に自分の筋肉が凄いのが見せて来た。

 うん、リーザと全く性格が違うタイプだな、でも嫌いじゃない性格の人だ。


「分かりました。でも俺は普通に武器を使いますからね」


「うむ、よいぞ! それじゃあ、早速やろうか!」


 それから俺とルバドはそれぞれ位置について、審判役のフィーネさんに合図をお願いした。

 合図が出された瞬間、ルバドは地面が割れる程、足に力を入れて突っ込んできた。


「ッ!」


 咄嗟に剣で受け止めたが、とんでもない速さと重さだ! 武器を持ってないからと、少し油断していたがかなり真剣にやらないと、怪我しそうだ。


「おお! 儂の初撃を簡単に受け止めるとは、ジン! 中々、鍛えているんだな!」


「ええ、これでも前衛の銀級冒険者ですからね!」


 そう俺は言いながら、ルバドを弾き返して今度は俺が突っ込んだ。

 ルバドの素の能力もヤバいが、さっきみたいな突進からの攻撃はかなりヤバイ。

 アレを封じるには接近戦に持ち込むしかない!


「儂の動きを見て、瞬時に接近戦に持ち込むとは中々、戦い慣れてるんじゃな!」


 ルバドは俺の作戦に嬉々として対応して、俺の攻撃を拳で全て受け止めた。

 ちっ、多分筋力はほぼ同レベルだな……元鍛冶師なのに、どうなってんだよ……。

 というか、さっきから少しずつ力が押され始めてるんだが、気のせいか?


「ジン、そろそろ温まって来たから更に強く行くぞ!」


「今まで本気じゃなかったんですか!?」


「儂は年寄りじゃからな、動き始めはどうしても全力が出せんのじゃよ!」


 そうルバドは言うと、先程までまだ余裕を感じながらも受け止めれた攻撃が、徐々に強くなってきて、このまま接近戦は続けられないとなり一度後ろに下がった。

 年寄りなら、そんな動けるのおかしいだろ!

 そう俺は心の中で思いながら、既に足に力を入れているルバドの次の攻撃に意識を向けた。


「行くぞ、ジン!」


 ルバドは叫び、足に力を込めて突進してきた。

 その迫力はもうほぼ猛獣のそれ、受け止め切れない。

 そう判断した俺は、剣を手放し構えた。


「な、なにしてるんですかジンさん!? 危ないですよ!」


 その奇行に審判役のフィーネさんは叫び、ルバドも既にほぼ避けられない所まで接近していて「避けるんじゃ、ジン!」と叫んだ。

 ふっ、剣だけをこの三年間鍛えて来たわけじゃない。

 突進して来たルバドの拳をサッと避け、ルバドの利き腕である右腕へとしがみついて、そのまま遠心力を使い地面へと叩きつけた。


「へ?」


「え?」


 地面へと叩きつけられたルバドは、何が起きたのか理解できず審判役のフィーネさんも一瞬の出来事に驚いた顔をしていた。

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