第109話 【依頼終了・2】
翌日、姫様やユリウス達に見送られながら俺とクロエは城を出て行った。
「ジン君、色々とあったけど楽しい期間だったね」
「ああ、最初は俺の隠れ蓑として依頼を受けたけど、あそこで受けると決めて良かったと今は思うよ」
「うん、そのおかげで色んな事を学べたもんね」
最後の最後、姫様から折角ならと馬車を貸して貰ったので歩きではなく馬車で冒険者ギルドへと向かっている。
「最後まで姫様には世話になったな、暇が出来たらちゃんと顔を見せに行かないといけないな」
「うん」
その後、冒険者ギルドに到着した俺は御者さんにお礼を言って、ギルドの中に入りフィーネさんを呼んでもらって相談室へと移動した。
王城の方から事前に依頼の達成報告が来ていて、その場で報酬を受け取った。
今回の依頼、長期依頼という事で数日おきに前金のような感じで渡され、最後達成した際に大きな報酬を貰うという受け取り方だった。
「……聞いていた報酬金よりも多い気がするんですけど」
「そちらに関してですが、ジンさん達の働きが物凄くよくその対価にと、報酬を倍にされまして」
金はあって困るものじゃないし、渡してきたものを態々返すのも面倒だから今回は素直に受け取るけどさ……。
「クロエ、金額に驚いて気絶してるな……」
チラッと隣に座るクロエを見ると、テーブルの上に乗ってる報酬金の多さに口を開けた状態で固まっていた。
「……お気づきかと思いますけど、ジンさん達の報酬金は普通の冒険者とは天と地ほど離れております。ですので、くれぐれもお金が有り余ってるという雰囲気を出さないように気を付けてください。王都は安全な街ですが、危険が無い訳ではないので」
「ええ、分かってます。なので大半のお金はギルドに預けていますし、装備の見た目もそこまで凝ったものにしてません。まあ、このミスリルの腕輪は見る人が見ればすぐに気づきそうですけど」
別にずっと付けてなくても戦闘中に付けるだけでも良いのだが、普段から付けていた方が何かといいというのはこの訓練期間が良く分かっている。
それに今の俺とクロエを相手に、挑んでくるような者が居てもある程度対応は可能だ。
「ジンさん達は銅級冒険者ですので、襲おうとする者は少ないとは思いますが十分お気をつけてくださいね」
そう最後に忠告をされながら、俺達は相談室を退出した。
それから俺達はギルドの外に出て、長い依頼を終えたばかりなので数日間ゆっくりと休むと話し合い解散した。
次にクロエとギルドで会うのは三日後だから、それまでにちょっと色々と準備でもしておこう。
俺はそんな事を考えながら、一先ず住処確保の為にリカルドの宿屋へと向かった。
「相変わらず、ここは人が少ないな~……」
「帰って来て早々、宿の文句か?」
「文句じゃなくて疑問を感じてるだけだ。正直、この宿を拒否する理由って店主の顔が怖い位だろ? それ以外はほぼ他の宿と引けを取らないのに、何で俺やルークさん、後は偶に常連の強面の人しか来ないんだろうな~って」
機能面に関してはそれこそシャワーを使えたり、部屋の広さもある程度あるからいい方だ。
飯だってあの店主の顔から想像もつかない程、めちゃくちゃ美味しい。
それなのに人が少ないのは何でだ? と、ゲームでは特に考えもしなかった疑問を俺は宿に戻って来て早々に感じていた。
「場所的に他の宿の方に目が行くんだろうよ。まあ、常連の奴等のおかげで赤字ではないから、今はこのままで十分だがな。変に人が多くても対応できないだろうしな」
「それもそうだな、リカルドに嫁さんとか子供が居たらまだ切り盛り出来たかも知れないけどな」
「……それもそうだな」
……えっ? なんでリカルドの奴、俺の言葉に一気に気分が沈んだんだ?
も、もしかしてリカルドもユリウスと同じでその歳まで守ってる人間なのか!?
「じょ、冗談だぞ? ほら、いつかいい人が見つかるって!」
「……勘違いしてるようだから言っておくが、俺は元々独り身じゃないぞ?」
……え、マジ? 嘘、そんな設定書いてなかったぞ?
「ただもう直ぐ一人になるかもはしれないがな……」
「どういう事だ?」
悲しげな表情で言ったリカルドに対して、俺は真面目な顔でそう聞いた。
リカルドの話はゲームでは出て来ていない内容で、俺はその内容に驚きと興奮を同時に感じていた。
強面の宿屋の店主リカルドには、奥さんと子供が居るのだが数年前に病に掛かってしまったらしい。
最初こそ、そこまで深刻な症状では無かった為、治療を受けて症状は消えたから完治したとリカルド達は思い普段通りの生活を送っていた。
しかし、1年前に病気が再発してしまい、今度は以前とは比べ物にもならない程に強い症状で治療には高価なアイテムが必要と言われてしまった。
「一応依頼をかけはしたんだが、そのアイテムは入手が難しくてな……今はもう病も深刻化して、寝たきり状態で宿の仕事が終わった後はずっと看病してるんだよ」
「そんな状態で宿を続けていたのか、その色々言って悪かった」
「良いんだ。気にするな、誰にも言ってこなかったけどジンになら話しても良いかなって思っただけだ。ずっと、自分一人で抱えていて話しただけでも少し気が楽になれたよ」
そう笑いながら言うリガルドに、俺は「その治療に必要なアイテムって名前なにか教えてくれるか?」と聞いた。
そして、そのアイテムは俺も良く知っている物だった。
「リカルド、口は堅いか?」
「んっ? まあ、口は堅い方が何で今そんな事を聞くんだ?」
首をかしげるリカルドに、俺は【異空間ボックス】からそのアイテムを取り出した。
森の神秘薬、その下位互換であり、ゲームでもなにかと世話になったアイテム【森の秘薬】。
神秘薬から、神の文字が抜けただけで手抜きだなと、初めて見た時は笑った。
そのアイテムを見たリカルドは、「な、何でお前がこれを!?」と驚いた顔をしてそう叫んだ。
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