第40話 【任務へむけて・2】

 手入れ後、夕食を食べてる途中で俺は珍しい気配を感じ取った。


「……この宿に、人がいる?」


 そう俺以外の宿の客、それも食堂だけの利用者ではなくちゃんとした宿泊する人達の気配を俺は感じ取った。

 階段を下りる音に驚いた顔をしていると、そんな俺を厨房から出て来たリカルドさんが呆れた顔で見て来た。


「何、そんな驚いた顔してるんだよ。前から言ってただろ、うちにも一応顧客は居るって」


「いや、聞いてはいたけど今の今まで、俺以外に宿泊してる人は見かけなかったから……マジで居たんだって」


「お前、失礼な奴だな……」


 そう店主とやり取りをしていると、食堂にやってきた宿泊客の人達が俺と同じように驚いた顔をすると俺達の所へと寄って来た。


「ま、マジで新しい客がいる!? 嘘じゃなかったんだリカルドさん!」


 宿泊客の人は全員で4人、男女二名ずつでその中のリーダーっぽい人が俺の顔とリガルドさんの顔を交互に見てそう言った。


「初めまして、冒険者のジンです」


「あっ、そうだなまずは挨拶だな! 俺はルーク。んで、後ろにいる大男がドルクス。つり目の女がエリスで、ちっこいのがアニスだ。よろしくな!」


 リーダーっぽいと思った男性はルークと名乗り、続けて仲間達の事も紹介してくれた。

 ただその紹介の仕方が悪かったみたいで、特に女性陣からベルクさんはボコボコに殴られた。


「よろしく、ジン君。貴方の事は少しギルドで噂を聞いて来たわ」


「噂、ですか?」


「ええ、何でも凄い速さで昇格してる新人の冒険者が居るって」


「まあ、ちょっと早いだけですよ」


 作り笑いを浮かべながら、エリスさんの言葉にそう返答した。

 それから、これから親睦会も兼ねてルークさん達と一緒に夕食を食べる事になった。


「へぇ、ジン君って元貴族なんだ。私と一緒だね」


「えっ、エリスさんも元貴族なんですか?」


「ええ、といってもジン君の様に位は高く無いわよ」


 エリスさんはそう言うと、自分の過去について話してくれた。

 エリスさんは男爵家の生まれだったらしいのだが、上に兄と姉がいて3番目の子供で尚且つ女の自分に財産が残る可能性は低い。

 そう考えたエリスさんは12歳の時に、家を出る事を決意して幼馴染のルークさん達と共に冒険者になったと話してくれた。


「行動力が凄いですね」


「元々、家族とは不仲だったから家を出たかったのもあったのよね。書類も出してるから、元の家から接触して来ても関係ないから今を満喫してるわ」


「そうなんですね。俺の場合は、半ば追い出された感じだったのでエリスさんとは違いますけど、俺も今を満喫出来てます。お互い貴族より平民として過ごす方が性に合ってたみたいですね」


「そうね。貴族だった頃から、同じ貴族同士で話すよりルーク達と話す方が楽しかったし、そうだったんでしょうね」


 俺やエリスさんとは違い、ルークさん達は元から平民の人達で小さい頃から一緒に遊んでいたエリスさんは平民思考の考えを持ちながら育ったらしい。

 そのせいか度々、家族と衝突する事があり、このまま貴族で生活するのは無理と言う考えもあって平民になったと言った。

 それからルークさん達との親睦会は続き、リカルドさんから食堂を閉めると言われるまで終わらなかった。

 その後、シャワーを浴びて自室に戻って来た俺はベッドに横になった。


「この宿に泊ると決めた時からいつか会えると思ってたけど、まさか今日会えるとはな……やっぱりこの時から、あの4人からは凄いオーラが出てたな……」


 ルーク、エリス、ドルク、アニス。

 この4人はゲームにも登場していて、彼らは冒険者の先輩として主人公に色々と教える先輩キャラで出ていた。

 ゲームでは主人公の稽古相手もなってくれて、有能なスキルを教えてくれるキャラとしてプレイヤーから人気の高いキャラ達だ。


「他のゲームに深く関わってるキャラとは極力関係値を深めたくなかったけど、ルークさん達とは仲良くしておきたいな……スキルの事もあるけど、キャラとして凄く好きだったし」


 そう俺は呟き、王都には暫くいると言っていたからその間に仲良くなっておこうと思いながら眠りについた。

 翌日、朝食では昨日の続きを話したそうにしていたルークさんだったが、直ぐに王城からの迎えがきてしまった。


「えっ、ジンって王城で仕事してるのか?」


「姫様からの依頼で今は王城に通ってるんですよ。隠れ蓑として使わせてもらってるんです。なので、俺が王城で仕事してる事はあまり触れ回らないでくださいね」


「成程、そう言う事か。分かった後輩の頼みだからな、気を付けて行って来いよ!」


「「いってらっしゃい」」


 そうルークさん達から見送られながら俺は馬車に乗り込み、王城へと向かった。

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