第10話 【獣人の冒険者・2】
魔物が息絶えたのを確認した俺は、地面に座り込んでる冒険者の方へと近寄った。
「大丈夫か?」
「あっ、うん。大丈夫、助けてくれてありがとう」
息切れしてる中、その冒険者はそうお礼を述べた。
さっきまで遠くだったから分からなかったが、この冒険者……女だったんだな。
冒険者の見た目、というか装備には色々あるが女性の冒険者は意外とそこも気にしていて、女性とパッと分かるような装備を身に付けてる事が多い。
しかし、目の前の女性はそこら辺は気にしていないみたいで完全に冒険者の様な格好で俺は相手が女性であると声を聞いて認識した。
それからその場を女性に肩を貸して移動して、魔物が来たら分かる安全な場所へと移動した。
移動中互いに自己紹介をして、女性の名前がクロエという事が分かった。
「なあ、何であんな所に一人で居たんだ? ギルドから聞いた話だと、この辺りに依頼で来てる冒険者は居ないって聞いてるぞ?」
「……その実は私もこっちに来る予定はなかったの、仲間だった人達に魔物の囮にされて逃げ回ってるうちにこっちまで来ちゃったの」
「囮? それって、冒険者の掟で一番やっちゃいけないやつだろ……」
クロエの口にした内容に俺は驚きながらそう言った。
「うん、私も囮にされて凄く驚いたよ。昨日まで笑い合ってた仲間だった人達が、自分が助かる為に私を犠牲にする事に躊躇いが無くて……」
震えながらそう口にしたクロエに、俺は何と声を掛けていいのか分からなかった。
その後、一先クロエを連れて先程の場所に戻り依頼書の魔物を討伐して王都に帰還する事にした。
「ジン君、凄く強いね。私を助けくれた時も一瞬で魔物倒してたから強いんだろうなって思ってたけど、さっきの戦いで確信したよ」
「ありがとう」
眼をキラキラと輝かせながら褒められた俺は、素直にそうお礼を言った。
その後、王都に戻った俺達はその足で冒険者ギルドへと向かった。
「だから、あいつが勝手に居なくなったんだよ!」
ギルドに入ると、何やら一組の冒険者が受付で言い合いをしているのが見えた。
そしてその冒険者の対応をしていた受付係の人が入口に居る俺達に気が付くと、驚いた顔をして「クロエさん!」と叫んだ。
その受付の言葉に、受付で言い合いをしていた冒険者達もこっちを見て「く、クロエ!?」と驚いた顔をした。
「もしかしなくも、あいつ等がクロエの仲間なのか?」
「……はい。それで言い合いをしてる受付の方が、私のパートナー登録をしてるギルドの方です」
ギルドまで来る間、俺とクロエは少し互いの事を話していた。
その話の中で、クロエはこの世界では珍しく、冒険者として活動を始めてから直ぐに〝パートナー登録〟を使ってると聞いた。
少ないと聞いてた中で、まさか俺と同じように初心者の頃から使っている人が居るって知って内心驚いた俺だった。
「ごめんね、ジン君。多分、この後話し合いに巻き込むかも」
「いいよ。話を聞いた時から、そうなるだろうって思ってたし、それに証人が居た方がクロエも助かるだろ?」
そう言って俺達は、クロエの名を叫んだ受付係の所へと向かった。
「な、何でクロエがここに」
「さっき振りです。どうしたの、私が生きてる事がそんなに驚く事かしら?」
クロエは驚く元仲間達に対して、そうニコッと笑みを浮かべてそう言った。
それからクロエはパートナーである受付係に今日の出来事を伝え、俺も一緒にその証言をした。
その間、元仲間達が何やら叫んでいた。
しかし、元々問題行為をしていた者達だったらしく話し合いの間、ギルドの係に押さえつけられ話し合いは俺達の有利のまま進んだ。
「相手側は冒険者の証を剥奪の上、一年間の冒険者登録の禁止、半年間の冒険者ギルドの雑用。それと財産の一部をクロエに渡すか、死を覚悟した分は取り返せたか?」
あれから約三時間程、拘束され何とか話し合いが終わったクロエにそう尋ねた。
クロエは少し疲れた顔をして「ギリギリ届いた位かな~」と言った。
「クロエさん、本当にお疲れ様です。そして申し訳ございませんでした。私の調査不足でクロエさんを危険な目に合わせてしまいました」
クロエのパートナーであるギルドの人がそう頭を下げ謝罪をすると、クロエは「終わった事だし、大丈夫だよ」と言った。
「それにあの人達を顔見知りだからって、信用した私も馬鹿だったから今回の事はリコラちゃんが責任を感じなくても良いんだよ」
「クロエさん……」
クロエの言葉に涙を浮かべる女性。
そんな二人のやり取りを、俺とフィーネはただ黙って見届けていた。
それから二人が落ち着いた所で、俺は自分の依頼についてフィーネに報告をした。
「ジンさん、人助けもした上に普通に依頼も達成したんですか……」
「まあ、難しい依頼では無かったですし」
「強くないって言ってるけど、ジン君が戦ったのって普通だと銅クラスの冒険者が戦えるくらいの魔物だったよね……」
俺の言葉に呆れた顔をして、クロエはそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます