第25話
「...何があったか、詳しく聞かせて貰おうか?」
アディ刑事がいつもの調子で俺に詰め寄る。
「その前に、俺から1つ。...本物のウェイターと、厨房の人たちはどうした?」
「......全員、厨房で死んでいた。的確に、急所を一ヶ所ずつ撃ち抜かれて」
そんな音は聞こえなかったが、先程一発だけ銃弾が放たれた時も、然程音はしなかった。サイレンサーでも付いていたのか。
何せ、厨房からこの個室まではそれなりに距離もあるからな。
「......で?」
「通報した時にも話した通り、俺たちが飯を食おうとしたら、ウェイターに扮したそこに転がってる奴に毒入りワインを飲まされそうになった。気付いて指摘したら、今度は銃で襲われた。俺たちは必死に抵抗を試みて、何とか返り討ちにした......と、そんなところだ」
「......こいつが左手に握っているこの瓶が、『毒入りワイン』か?なぜこいつは、自分でそんなものを飲んだんだ?」
倒れている偽ウェイターは、その左手にしっかり瓶を握りしめている。つーか、毒でもがいている時に瓶を持たせたら、勝手に握りしめてくれただけだけど。
「んな事はこの偽ウェイターに聞いてくれ。...ま、死んでるんじゃ聞きようもねぇが。どうせ誰かから雇われて、失敗したら死ぬしかねぇような境遇だったんだろ。俺が護身用の銃で右手を奪っちまったから、拳銃じゃ死ねねぇってんで、たまたま手元にあった毒入りワインをあおったとか......あらかた、そんな所だろうよ?」
アディが訝しげな顔で俺を見る。
「...『お前が』撃ったのか、ルーゴ?」
「あぁ。この前の車爆破事件以来、ちょっと不安になっちまってな。常に護身用にこの銃を身に付けてるんだ。あ、ちゃんと『銃保有許可証』も持ってるぜ?」
俺は、予め預かっていたレントの銃を懐から取り出す。万が一、こんな時の為に「俺の物」として登録しておいて良かった。
「念のため、預からせてもらう。...おい」
鑑識にその銃を渡す。...悪いな、レント。しばらくしたら、戻ってくるはずだ。
「それで、心当たりは?」
「ん~?俺が狙われた...か?さぁて...恋愛関係のもつれくらいしか...」
冗談めかして言うと、アディは冷淡な目で俺を見る。
しかし、直後に「ふぅ...」と、小さく嘆息して、
「...これで、はっきりしたな...」
俺の目を見据えて、静かに呟いた。
「ルーゴ。お前は確実に命を狙われている」
「いやだから!そうだって言ってるじゃねぇか!?」
思わず勢い良くずっこけそうになったぞ、おい!
しかし、そんな俺の渾身のツッコミには一切動じず、アディは続ける。
「...最初の、車爆破事件...。あの時は、狙われているのが本当にお前なのか確信が持てなかった。だが、ダルケス氏とシェインロッド氏の立て続けの不審な事故死にお前が関係していた上に、とうとうこうして直接狙われる事態に陥った。これは、つまり......『相手』が本気を出したという事だ...!」
腕組みをし、深刻そうな顔をしている。
そして、小さく頷いてから、俺の顔を真剣な眼差しで見て、言う。
「......ルーゴ!犯人は、お前の行動を把握し得る人物に間違いねぇ」
............お、おぅ。そ、そうか......。
「...つまり、お前の身近に居る人物が怪しいという事だ」
「お、俺の、身近って...」
「......これ以上は、言わなくても分かるだろう?」
猛禽類のごとき目で、俺にくっついているレントを見る。
「......って、おいっ!?だから、何でレントを疑うんだよ、お前はっ!?」
「......こいつにだけ、アリバイがねぇんだよ。ダルケス氏の時も、シェインロッド氏の時も...!」
......こいつ。何が何でも、レントを疑う気か...っ!?
「おい......。こんな事言いたくはねぇが、俺はこう見えて、多方面に顔が効く。...ダルケスさんもシェインロッド様も、気の毒ではあったが、お前ら警察が『事故』と断定して決着がついてる事案だ。...んな事をわざわざ持ち出して、俺の弟を貶めるってんなら......俺は容赦しねぇ...!」
俺が睨み付けると、アディは一切怯む様子を見せずに俺を見据えて、
「......目を覚ませよ、ルーゴ。お前は、昔はそんな奴じゃなかった...」
そう呟いた。
...その感じに、ちょっとだけ心が揺れる。
「............お前は、全然変わらねぇなぁ、アディ」
「......ふん......」
アディは胸ポケットからタバコを取り出すと、それを咥えながら俺に背を向けた。
「......俺は、引き続き捜査を続ける。お前を狙っているのが誰であれ、......俺はそいつを絶対に追い詰めて、尻尾を掴む...!」
「...兄上、僕...あいつ嫌い」
レントがその後ろ姿を見送りながら呟く。
「あぁ。ただ......」
アディが本当に「昔のまま」だとしたら...。
「...大丈夫だ、レント!お兄ちゃんが全力で護ってやるから、あんな奴の事は気にするな!」
......ま、アディについては、今はまだ大人しく様子見だな。
「それにしても、折角の兄弟水入らずが台無しだなぁ。善かれと思って貸し切りにしたってのに、まさか裏目に出るとはな」
「うん。周りに人の目がある程、僕らは殺りにくくなるから...」
言いながらも、レントは何だか曇った顔をしている。
「どうした?」
「...あぁ、うん。僕らの組織の掟では、それがボスからの指令であれ、何であれ、できる限り一般市民を巻き込んじゃいけない事になってるんだ。掟を破ったら、状況によっては粛清される。なのにあいつ、お店の人達を皆殺しにするなんて...。普通じゃ、考えられないんだよね...」
「『組織』ってのの幹部じゃねぇ...って事か?それにしちゃ、確実に『お前を』狙ってたぞ、あいつ」
確かにあいつは、徹頭徹尾その銃口を俺にじゃなく、レントに向けていた。
「うん...。そう、なんだよね...」
何だか腑に落ちない様子のレントに、俺は敢えて明るく声をかけた。
「まぁ、何にせよ、お前が無事で何よりじゃねぇか!店の者には気の毒だったが...後で遺族には、ちゃんと相当の見舞金を渡すから。お前が落ち込む事はねぇ」
「ん~?別にそういう事で落ち込んでる訳じゃないよ、兄上。殺されちゃったものはもう仕方ないけどさ、もし本当にあの偽ウェイターが組織の人間だったら、......許せないな、って。僕たちは、組織の者としてプライドを持ってやってるんだ」
口を尖らせ、悔しそうにするレント。
そうか、そうだよな。レントは忠実に、ボスってのの命令をこなす「プロ」だものな。
「やっぱり、お前は偉いよ。お兄ちゃんも、見習わなきゃなぁ」
俺は、レントの頭をヨシヨシしてやった。
「......で、兄上。僕に何を隠してるの?」
「ぅあ~......っと、レント!取りあえず 、こんなとこ、さっさとずらかるぞぅっ!!」
意外と執念深く追及するレントに慌てて背を向けると、俺はとっとと店を後にした。
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