突然カルト教団に拉致監禁され、薬を嗅がされた挙句に洗脳されかけた男たち。
当たり前の日常が突如奪われ、フィクションの如き異常な世界に落とされた結果、壮絶なる《生》を歩むことになる。
自ら進んで神餌になった子煩悩な父親。
望まぬままに神餌に変じられた葬儀屋。
恐ろしい怨霊をその身に宿した公務員。
そこに加わるのは、娑輪馗廻と戦って来た老婆と娑輪馗廻によって父親を失った少女。
絶対的な存在である娑輪馗廻と戦うために、怪異を求めて各地を回り、怪異を引き起こす死者を食らう。
やがて解き明かされる数々の謎はとても残酷で酷いもの。
それでも彼らは娑輪馗廻を滅するために足を止めることはしない。
本当に辛いことが多い中、父親を失った少女の成長も物語の見どころの一つであります。
作中に何度も出て来る祝詞には初め読み難さもあると思います。
でも、読み終わる頃にはきっと苦も無く読めるようになっているはず。
とても中毒性のある物語です。
人を選ぶ物語でもあります。
でも、それでもあえて、最後まで読んでいただきたいと思います。
喰らうことで『救う』道を選んだ彼らの生き様を、是非、見届けていただけたらと思います。
当作のメインジャンルはホラーであり、娑輪馗廻(シャリンキエ)という教団が生み出す怪異との戦いを描く物語です。
ある日、3人の青年は異常な文字が羅列され、不気味な呪詛が唱えられ続ける異界に迷い込む。その中で、幾度となく繰り返される『娑輪馗廻(シャリンキエ)』の言葉。ただただ不気味で、それでいて全てが異質。
襲いかかる脅威を前に彼らはどう立ち向かうのか。その中で明かされる真実は、運命として個々に絡みつくしがらみとなっていく。
私がこの作品について言えることはシンプルに「ふたつ、ふるまうはなむけの」まで読んでもらいたいという一言に尽きます。
娑輪馗廻の放つ呪詛とも言える言葉の数々は、一定の法則に則って字で読者も、登場人物達も追い詰め、怖がらせていきます。
この呪詛の文章のクオリティは、あなたを引き込んでくれること間違いなし!
しかも、敵がハッキリしたのなら後は倒すだけと、知識と準備を整えて勝ちに行くある種の霊能バトルに突入していくのですが、勧善懲悪な敵と味方の立ち位置の簡素さもあって、上記の作品の細さに反して意外と難しいことを考えないでサクサク読めるスマートさまで兼ね揃えているのです。
そして、それらの積み重ねてきた文章が物語として真に盛り上がる瞬間まで読んで見てほしい! そういう意思を持って改めて「ふたつ、ふるまうはなむけの」まで読んで欲しいと言わせてください。
あと、補足ですが、シンプルにキャラクターの作りも上手く例えば主人公とも言える百舌鳥ヤマトは一言で言えば暴力刑事なものの、二枚に裂けた舌を持ち、故に滑舌が悪く、関西出身のその関西弁のせいで何を言っているのかわからないこともあります。ですが、その舌による味覚が現状を読み解く独自の第六感として活躍する、といった人物です。
それでいて、暴力的な行為だけでなく法の番人である刑事として時として起きる問題を冷静に解釈し、行動に移すところから、もしかしたら現実に彼がいるのかもしれない、そう思わせる地に足のついた作りが巧妙です。
そういった細かな設定と行動の重ね合わせがどのキャラクターにも完備されており、読者を楽しませてくれます。
私はこの部分にも惹かれました。特に味方と言える主要人物はみんな大好きです。
長文になりましたが、当作はヘビーなようでどこか軽い、故に最後まで読めてしまう良質なホラー小説です。
エログロが激しい部分こそありますが、それらが平気ならひとまず読んでみてはいかが?
とても知識豊かに語られる邪教の内容が、なによりもまず読者を襲います。
一見して邪教、その思想を知ってなお邪教。善意に寄りたつ大邪教。
これに挑むのは、被害者達。
巻き込まれただけとしか思えなったか者たちは、奇妙な因果に囚われて、まるで運命がそう望んだが如く戦いの道へと踏み入っていきます。
個人の尊厳も、大切な感情も、すべてが色濃く交ざって、ぐちゃぐちゃにとろけ落ちていき、それでも残るものはなんだったのかと、読み終えたときには感じずにはいれないでしょう。
描かれる人間ドラマは巧みの一言。
書き出されキャラクターの魅力は一見で脳裏に焼き付くほど。
非常に佳き、作品でした!
文句なし、星三つです……!
神道や仏教のみならず海外の信仰まで混ぜ込んだ複合体の信仰、毒々しい赤を想像させる絢爛豪華な香華と腐臭漂う調度、死も性も惜しみなく使うおぞましさ。
比喩のひとつひとつまで猟奇的なのにただの露悪で終わらないのは、作者様の確かな知識と緻密な雰囲気作りがあるから。
死者蘇生の邪教に囚われた三人の生々しい焦燥と次々に追い詰められる展開は息もつかせない。何より洗脳の手練手管に呑み込まれる様は暴走する車の助手席に括りつけられて、運転手に叫びは届かないまま衝突までの秒読みを見せられるようなカルトに立ち向かう絶望感がすごい。
アジアの邪教らしいシャリンキエと、昭和のバイオレンスもののような外連味、男ふたりの因果が因果を呼ぶ戦いの果てがとても楽しみな珠玉の作品です。