第12話 決意

 三人はナインの言うことが全く理解出来ず、ポカンとした顔でナインを見つめる。


「ロックフィールド家には、代々受け継いでしまう呪いがあるの。」


「呪い?」


 メルの疑問にナインは答える。


「うん。その呪いっていうのは人格の暴発、今まで生きてきた中で生まれた感情が、何の前触れもなくいきなり現れるの。」


「あっ!……。」


 三人は一斉に声を上げた。今夜、ナインの後をつける事となった、きっかけを思い出したからだ。


「みんなも気づいていたでしょ?」


「うん。気づいてた……かも……。」


 アギトは、やっぱりねと言いたげな顔をするナインに、申し訳なさを感じつつも返事をした。


「気持ち悪いし、怖かったでしょ?」


 ナインは苦笑いをしながら、三人に共感を求めた。


「そんな事ないよ!……。確かに不思議には思ったよ。でも、それは決して悪い感情ではないよ!」


「ニケ……。ありがとう……。」


 ナインは泣きそうになりながらも、必死に説明を続けた。


「私は私の存在を証明してくれる人が欲しかったの。もし私が私じゃなくなっても、三人が覚えていてくれれば、私はみんなの中で生き続けることが出来る気がして……。」


「でも、それなら僕達じゃなくても……。存在を証明してくれる人なら、お城にたくさんいるんじゃない?」


 ニケの質問に対して、ナインは首を横に振り答えた。


「それは出来なかったの……。この呪いを知っている人は、お城の中でもほとんどいない……。誰にも教えてはいけない事だったから。私自身、外の人と会うことは禁止されてきたわ。」


 ナインは夜の空を見上げ、悲しげな顔をして話を続ける。


「私はずっと辛かった。だから思い切ってお母様に相談したの。そうしたら、ある時から外出が許可されたわ。嬉しかった。城の中には同い年の子が数人しかいなかったし、友達もほとんどいなかった。だけど、外ならたくさんの人と知り合える!……。そう思った。けれど現実は違ったわ……。当たり前よね、今まで人との交流をほとんど避けてきた私が、見ず知らずの人と話せるはずがないもの……。途方に暮れた私は街に行った。そしたら三人の同年代くらいの子供達が、とても楽しそうに遊んでいたの。羨ましくて……。その中に入りたかった。その日から何度か街に出ては、三人を探したわ。声をかけようと思ったけど、勇気が出なかった。そんな時だった。パレードの日に三人は私を見つけてくれた。それからは、みんなのおかげでとても楽しい毎日が送れたの……。」


「私達だって!ナインと会えてよかったよ!」


「ありがとう!メル!……しばらくして、私の体に起きる異変は日に日に増えていった。今までとは違って、荒々しい感情が入って来るようになったの。」


「なるほどな!それがあの感情の変化か。」


 アギトは合点が行ったという顔で、ナインを見つめる。


「そう……。その呪いを抑える方法はこの世で一つしかない。そして私達ロックフィールド家は、代々受け継いでいる奇跡がある。」


「……。あっ……天…使…?」


 メルは聖堂で見た女性を思い出しながら答えた。


「うん……。代々受け継いでいる天使は、私達一族の呪いを少しずつ解いてくれるの。お母様は呪いが解けて私を生んだ……。次は私が天使を受け継ぐ番だった。」


「それがあの広い場所でやっていたあれか!」


 アギトは聖堂での事を思い出していた。


「怖かったの……。私は……。自分が自分でなくなっていく気がして……。継承の儀でどんな私が残るかもわからない……。」


 ナインは我慢していた涙を、抑える事が出来なかった。留まることのない彼女の涙は、三人の心を強く締め付けた。


「でも、今凄く後悔しているの……。私のワガママのせいで、皆んなを巻き込んでしまった……。三人と家族の人達を、離れ離れにしてしまったもの……。」


 三人は黙ってナインを見つめている。泣き崩れているナインは上手く喋れずにいたが、そんな状態でも謝り続けた。


「ごめんなさい!……本当にごめんなさい!!」


 泣きじゃくるナインを見ていたニケは、我慢出来ずナインに話しかける。


「一番辛いのはナインじゃないか!それに、巻き込まれたのは、勝手に着いて行った僕たちの自業自得だよ!」


「でも……私は……。」


「僕は!……ナインと出会ったこと、後悔なんかしたりしないよ!」


 ニケは、ナインが何かを言おうとしているのをはねのけ、宣言した。


「俺もだ!」


「私も!」


 アギトとメルの言葉を、知ってると言いたげな顔で聞いていたニケは、続けて話しだす。


「僕達は変わるんだ。今日の夜から!」


 ナインは顔を涙で濡らしながら、何かから解放されたかのように、優しく微笑んだ。


「みんな…ごめんね……。ありがとう……ありがとう……。」


 四人は誓った。この夜から強くなることを。今日感じた悲しさ、悔しさ、怒りを忘れぬように。


 しばらくして、皆が出立の準備をしている中、一人の兵士が慌ててイグニスの元に駆け寄った。


「隊長!ご報告します!! 森の奥から、徐々に近づいてくる灯りが見えます。」


 森の奥から、いくつかの灯りがこちらに向かって、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。


 そこにいた皆に緊張が走った。剣を構える者、魔法具を前に突き出す者、皆が戦闘態勢を取った。皆は敵が出てくるその瞬間を待ちながら、来るなら早く来いと願っていた。そこにいる者達は何が来るのか予測がつかず、不安に押し潰されてしまいそうだったからだ。


「ガサッ!」


 南の方角から、何かが動いたような音が鳴り、そこにいた者達はいっせいにそちらを向く。その瞬間、身長百九十センチ程の大男が、物音とは反対の方角から勢いよく飛び出して来た。その男はハルバードを持っており、並んでいる馬車の中で、一番造りが良い馬車に攻撃をしようとしていた。それに反応することが出来たのはイグニス、レクサス、ニールの三人だけであった。イグニスは真っ先に大男の正面に立ちふさがり、勢い良く剣を振り払った。


「はああああ!!」


 イグニスの剣と大男の持っていたハルバードが激しくぶつかり、円を描くように衝撃波が起こった。大男の周りをレクサスとニールがすぐさま囲む。


「なっ!おっお前は!……。アルバート!!?」


「イグニス!?」


 イグニスはある名前を叫び、それに答えるように大男もイグニスの名前を呼んだ。森から出てきたのは、イグニス、レクサス、ニールと同じヘキサグラムのメンバー、アルバートであった。その見た目は屈強という二文字がお似合いの男だった。その者の武具は鋼鉄で出来ており、全てを防ぎきるような重厚さを放っていた。アルバートが手に持つハルバードは、長い槍がベースとなっており、先端の両端に付けられた刃は、強い存在感を放っていた。そんなアルバートにイグニスが話しかける。


「なぜお前がここに!?」


「それはこっちのセリフだ!」


「確かお前は、国境付近で不穏な動きがあるという情報を受けて、調査に行っていたはず。」


 アルバートを見ながら、イグニスは記憶を辿っていた。


「ああ、不穏な奴らならいたぞ。すべて蹴散らしたがな。片付けた後、国境の砦で休んでいたんだが、国で暴動が起きたという知らせを受けてな。すぐに戻ってきたのだ。そうしたらコソコソとした奴らがいると思えば。まさかお前達だったとは。」


「ふんっ。言ってくれるな。」


「アルバート!!」


 ナインはアルバートの名を呼びながら、勢いよく近付いていく。


「おおお!姫さま!!よくぞご無事で!!」


 アルバートに抱きついたナインは、喜びをあらわにしながら、うっすらと涙を流した。


「アルバートも無事でいてくれて良かった!!……皆んなは、もう離れていかないで!……お願い!!」


「勿論ですとも。私達は、あなた様を守るためにいるのですから。」


 イグニスは、アルバートの意見に頷き話し始める。


「アルバートの言う通りです。我らの家系は、何代も前からロック・フィールド家に仕えてまいりました。このような事で、私達の忠義は変わりません。」


「みんな……ありがとう。」


 ニケ達は、ヘキサグラムの四人を見つめていた。目標となる存在、自分達が目指す未来は、そこにある気がしたからだ。


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読んでいただきありがとうございます。


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