令嬢と令息*×××
わたくしは昨日の売上に満足していた。女性の心をくすぐる当日限定の数量限定、予約限定は当たると思っていたがここまで盛況だとは思わなかった。
「うれしそうだな」
「ごきげんよう、公子様」
挨拶の代わりに頷いた青年は視線を漂わせている。
「どうかされましたか?」
彼がはっきりとされないのはいつものことだから、やんわりと話すように促した。
「昨日は、その、仕事が忙しかったのか?」
「ええ、ありがたいことに去年の二倍は売上がのびております」
女が、商売の、しかも数字の話をするなんて、顔をしかめられても可笑しくない。
しかし、この目の前の強面は微塵も変わらないのだ。密かに、顔の筋肉も屈強な肉体と同じように固まってしまったのではないかと思っているが、相手に失礼なので言ったことはない。場違い、金の亡者と揶揄われるわたくしだって、それぐらい空気は読める。
公子のアイスブルーの瞳が見下ろしてきた。感情の読みにくい表情だが、わずかに揺れている。
「自分が渡す菓子は準備しなかったのか?」
「そんなもったいないことしませんわ。渡す予定がないものですから、商品に回した方がよろしいでしょう」
ひどく聞き取りづらい声に訊かれたわたくしは瞬いた。わたくしが、誰かにわたすなんて考えていらっしゃったのかしら。
「それならそれでいい」
ほっと息をはいた公子は長い足で颯爽と立ち去った。
一人残されて、ぼんやりと空を見上げる。
「準備した方がよろしかったかしら」
そう呟いてみたが、彼は甘いものが苦手だったと思い出した。
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