分析結果
「こちらが分析結果のレポートです。船体に使われていた素材は全て非定性素材で、我々が二十年前に凍結した戸倉第八研究の技術の延長上にある技術が使われていました。プラズマ砲、防護コート材、その他二十種以上のコンポーネントに即時変更が可能で、区画での分割もなく、エネルギーと抵抗率の変化だけで狙った場所を特定のコンポーネントに変更できる優れた素材です。順当に研究していては到底たどり着けない領域に達しています。しかしコンピューターだけは我々のものによく似た神経回路を使用するバイオコンピュータで、細胞の遺伝子型は我々が知る全ての人類型哺乳類のもつ特徴を兼ね備えています。それと、コンピューターのデータバンクからは現在瑠国が確認しているいかなる暗号とも違う暗号が発見されました。その暗号について、情報科の野村少佐から報告があるそうです」
技術士官はそう言って、彼の後ろに立っていた女性士官に説明を促した。野村愛と書かれた名札を着けている彼女の黒い軍服は、艦隊情報局からの出向であることを示している。少佐という階級は、二十代前半であろうと思われる見た目の割に彼女が相当のエリートであることを示唆していた。
「利久村少将、お初にお目にかかります。情報局第一課から出向してきました、野村愛と申します。担当直入に申しましょう、この暗号は地球連邦がかつて使用していた解読経路で解読できる可能性があります。RLLJ-1881と呼称される解読シーケンスは、地球連邦の領域に存在する不毛な惑星で発見された何らかの機密情報に関連する言語を翻訳するために使われていたと推察されています。解読対象言語の詳細は不明ですが、この暗号文字列を検査復号した際のデータ分布から推察するにその解読シーケンスが扱う言語と類似している可能性があります」
一気にこう言い切った彼女は、自信ありげな表情で私を見る。
「それで、そのRLLJ-1881解読シーケンスを地球側に要請するべきだという主張がしたいのですか?」
私が問うと、彼女は複雑な表情を浮かべた。
「地球側に要請したいのはやまやまなのですが、この情報を地球側に渡すとなると我々の不利益になりかねません。もしこの攻撃が地球側の自作自演なら、この平和は崩れてしまう。平和が崩れないとしても、本艦隊が危険に晒されてしまいます。最悪の場合は、全艦が轟沈することになります」
私はそれを手で制する。
「全艦が轟沈することはない。私が指揮官をしている限りは、な。地球艦隊が保有している全ての艦が保有する能力を見ても、この接近状態においてこの艦を通常の方法で沈めるなど不可能だ。唯一対峙できるのは遠距離砲戦。近距離ならあっという間にこちらが圧勝する。それに付近に地球艦の姿はないし、今回の敵艦のように優れた船が造れるならそれを囮になどしない。私が地球連邦の提督ならそんなものが鹵獲されてしまう危険を考え、沈められないという確証がない限り自軍の装備にとどめる」
「わかりました」
「ではRLLJ-1881の使用を地球艦隊に要請することでこの暗号の解読を行う」
私は地球艦隊と通信を繋ぐよう指示し、マイクを握った。
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