第49話 交渉
交渉
「お邪魔しま~す・・・」
私は今、辺境伯様のお屋敷の何だかやたら広い応接室に通され、やたら高級そうなソファに座れと促されて居ます、まさに針の筵状態、何とか言い訳して逃げたい。
私の電脳化した脳細胞をフル稼働して構築した言い訳を即興で話す事に決めた。
「ではまず、私から正式に自己紹介を。
私はこの街の領主をしている、セドリック・グランツ・シーマ二世だ、一応伯爵と言う爵位を賜って居る。」
「どうもご丁寧に、単身で冒険者をしております、エリーです。」
「で、早速本題に入るが、何故冒険者の君が聖女なんだね?」
あれ?私の思ったより話が出来そうな人だな、方針転換するか、普通に会話して見よう、それでダメなら記憶を消すか・・・もしくは殺るか・・・
「正直に申し上げると、私は錬金術師なの、それでね、偶然に出来てしまったローポーションと言う薬の性能があまりにも規格外だったので、どうにか出来ないかと思って。
この際なので神の御業と言う事にして教会で普及して貰ったらどうかと言う事に成っちゃった訳。
それで、その製法を伝える為に神父に信用して頂く為にあえて聖女を捏造したって訳よ。
嘘も方便ってやつ?」
「つまりは、あの薬は誰にでも作れる、と言う事かね?」
「誰にでも作れると言う事は無いわねー。
恐らく神父自身何故自分には作れるのに他の人が同じ栽培法を試しても原料の薬草が出来ないのかはわからない筈です。」
「つまり、作ったのは薬では無く原料の薬草と言う事かね?」
「まあそう言う事、しかも薬草の原料となる草なんて、ただのナズナ。
笑っちゃうわよね~。」
「な!・・・雑草じゃないか!」
「ええ、その通り。
詳しい説明は要る?」
「ああ、説明して貰いたいと思うのだが、何で君はそんなにフランクに話せる?
一応私は伯爵なのだが?」
「ははは、ごめんごめん、私はこう見えて科学者で、技術開発や宇宙開拓から、高位次元の研究等多岐に渡って研究したの、そして私以外にそれを実現できる人が居なかったので、誰も私を敵に回す事が出来なかったのよ。
心情的にも物理的にも、ね。
だから私には、どんな国の王や首相であっても頭を下げるのが普通だったので、その口調が普通になってしまって。
中々直そうにも直らないのよね~。
あ、今ちょっと聞き捨て成らない単語がいくつも出て来たでしょう?
聞かれそうなので先に行っておくけど私はその世界で生涯を終えて、此方に強引に連れられてやって来たの。
どこぞのアホな高位次元存在、所謂神とやらによってね。
ここまで話せば概ね判ると思うけど、この姿も見た目幼女かも知れないけど実際に記憶している実年齢はこの前こっちで誕生日迎えたから735歳。」
「概ね何を言って居るのかわからない事が殆どな説明だったが、つまりは聖女と言うのはあながち間違いでは無く神によってこの世界に使わされた使途と言う事で間違いないかね?
しかし、700歳以上とは・・・」
「多分、色々と発展させろとかそう言うつもりで連れて来たのでしょう、あのクソめ、次会ったら蹴っ飛ばしてやる。
私本人としては突然知らん世界に放り出されて何が何だか判らん上に、いきなりモンスターの出るような所に放置されて居たので不服以外の何も無いんだけど。」
女の子がクソとか言っちゃダメとか言わないでよ?本気で心底からそう思ってるんだから。
「いやはや驚きましたな、まぁ俄かに信じがたい話でもある、しかしウソにしては荒唐無稽すぎる。
それに、そんな壮大な嘘を付く必然性も感じない。
ならば信じましょう。
君は他の世界から来た700年以上も生きたその記憶を有した賢人であったのですな。
ではあのポーションもその知識からですかな?」
あれ?何だか辺境伯の口調が変わって来た気がする。
「いいえ、絶対条件に当たる要素が私の元の世界には存在しないので、此方に来てから私自身が発見、研究したわ。
私のような科学者って人種は何か気になる事が有ると徹底的に納得行く迄調べないと気が済まないのね、そして理解し始めると更に追及する為に実験をするのよ。
その結果、こんな物が出来ちゃったって訳。」
ポーションを一本取りだす。
「ちなみに、それはまだ有るのかね?」
「ええ、いくらでも作れるし、今でも12本程は。」
「それを我が領の特産品には出来たりするかね?」
「それはどうだろう、あまり大きく宣伝されると良からぬ輩や業突く張り貴族の的になるんじゃない?」
「私はこれでも只の伯爵では無い、辺境伯なのでね、時と場合によっては侯爵よりも強い発言権が与えられて居る、それでもダメだろうか?」
「例えばそれが王や公爵家であった場合はどうするの?」
「その場合は、私が身をもって君の畏れている事態を何とかしよう。」
「貴方が暗殺される気がするのだけど。」
「私自身が王国の暗部を仕切って居るのでそれは無いだろう。」
「もしそれが他国からの刺客であった場合でも大丈夫と言える?」
「成程、それは確かに、だがしかしそれも優秀な私兵が居るので何とか成るのではないか?
いや待てよ、隣国の帝国が国を挙げて攻撃して来たらどうにもならんか、そうなると困るな。」
ん?なんか今盛大にフラグ立った気がするけど・・・
「で、つまりはあなたの言い分としては自分の領地の特産品として売り出したいけど色々な問題が自分の与り知らぬ所で起こるのは気に入らないって訳ね?
だったら自分自身が矢面に立てば良い訳だからご自分の直営の商会に卸せとそう言ってると取って良いかな?」
「まぁ、平たく言えばそう言う事に成る。 しかし君の言う事にも一理ある、さてどうするか。」
「現在は教会で栽培した薬草を生成して作って居るので、私に直接交渉されても教会の収益と言う部分にも触れると思う。
そこは神父様と交渉すればいいんじゃない?
あくまでもポーションを齎したのは聖女であって私は一切関与して居ない事に成っているし。
只の冒険者が出所だなんてバレたら誰に攫われるか分かったもんじゃ無いし、私はごめんだよ。」
まぁ何が来ても撃退するから大丈夫ではあるけど。
「成程、ではこうしよう、神父にしか作れないと言うならば孤児達と教会の仕事にして貰い、私の商会に優先的に納めて貰う代わりに、教会や孤児院の運営、そして守護を請け負う、私自身の実力で対処できない相手が来るとなった場合は、その都度対処を考える。 これで良いかな?」
「だから私に交渉するなら神父に言ってよ、でもその条件だったら悪く無いんじゃ無いかな?
後、もう少し信仰してあげたら良いと思う、この街ぐるみで。
私の要求はその位、かな?
子供達が笑って暮らせる様になれば私は文句ないから、もし必要ならば戦力の向上にも手を貸せると思う。」
「そ、そうだな、早速教会へ赴くとしよう。
ジュドー、この者に土産を持たせてやれ、手ぶらで帰す訳にはいかぬだろう、何しろこれから色々世話に成るかも知れぬ賢者様だ。」
「はい?何言っちゃってんの?賢者って、まってよ。」
「いえいえ、エリー様は十分に賢者様であらせられます、この街の先代領主様よりの信頼最も厚く次男にして二代目領主となったセドリック様がこれ程信頼されたお方であれば間違いなく賢き者、賢者様なのでしょうとも。」
あ~、そうなんだ、長男っぽくは無いと思ってたけどやっぱそうなんだね~、てっきり一代で辺境伯にのし上がったのかと思ってたよ、次男っぽかったしやり手な感じだったし・・・
あ、でも二世って言ってたか、実力で勝ち取った地位って事?もしくはお兄様は既に他界ってところね。
「ジュドーさん、私只の科学者なので、賢者って持ち上げすぎですってば。」
色々問題は山積してるみたいだけど、領主が話の通じるタイプで良かった。
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