第十九話 信用出来ない小さなドクター
時刻は四時半を回っていたが、まだ咲良は眠ったままだった。本当に救急車を呼ばなくていいのだろうか……と葛藤していると、普段はあまりこの辺りを走らない原付バイクの音がブォンと住宅街に響き、それからすぐに柊真の家のインターホンがピンポーンと鳴った。
「はい」
「ぐみよ!」
柊真が対応すると、インターホンの画面にはヘルメットを被ったぐみが立っていた。
柊真は急いで玄関の扉を開け、ぐみを家に上げる。
「よっ!」
「ども。ていうか小学生みたいな見た目なのに、原付乗るんだね」
「小型二輪なら何とか乗れるのさ!いつも免許の有無聞かれて大変……ってそんな事はどーでもいい!長良咲良の容態を確認することが先だ!彼女はどこにいる?」
「上です」
柊真は階段の方を指さしながら言った。ぐみはこくこくとうなずきながら救急セットのような箱に入った機械を左手で持ちながら柊真の後をトコトコと着いていく。その様子はまるできょうだい……いや、身長差的に親子にすら見えた。
柊真は部屋の扉をゆっくりと開け、ぐみを咲良のそばに膝立ちで座らせた。
「症状は?」
ぐみはそう言いながら救急セットのような箱から小さなパソコンを取りだし、そこに文字を入力する。
「えっと、症状は熱だけです。咳とかはないですね」
「なるほど、熱……病気に心当たりは?」
「あ……あの、魔力を使ったんです。そしたら体調が急激に悪化して…」
「魔力?魔術を使ったってことか?普通はそれだけで発熱するなんてことは無いはずなのだが……?」
ぐみな考える素振りを見せながら怪訝そうな表情を浮かべる。柊真は目をしばたたかせる。
「どんな魔術を使ったわけ?今までに使ったやつ覚えてる範囲で全部教えて」
「えっと、僕に魔力を移して使う催眠魔法と、水分を僕に送る魔法ですかね」
「催眠って……物好きだな」
ぐみはパソコンのキーボードをカタカタと動かしながらまた不思議そうな表情をする。
「ねぇ、大井柊真と長良咲良は契約しているんだよな?魔力を送るくらいならなんの問題も無いはずだけど?ほんとに契約した?」
「えっ?契約っていつの間にかされてるもんじゃないんですか?」
「はぁ!?本気で言ってる!?そんな人生を大きく左右させるもの、勝手にされるわけないでしょ!?」
「ええええ!?」
柊真とぐみは互いに驚く。その大きな声のせいで咲良がパチリと目を覚ました。
「あ!貴様が大声出すから長良咲良が起きてしまったじゃないか!」
「んな事言ったって!!そんなこと言われたら驚くでしょ!」
「あれ?ぐみちゃん?なんでいるの?」
三人は三者三様の反応をしている。ぐみが「どうせ起きたなら」、と咲良を自分の方へ向かせ、咲良と柊真に話を始める。
「いいか、二人とも。今回の発熱の原因はズバリ!魔力の譲渡だ!」
「や、やっぱりそうなんですか」
「そうだ!それも契約していない人間に流してしまった!これが良くなかった!」
ぐみはそう豪語しながらパソコンをペシペシと叩く。
「でも、魔力を流して発熱するって……普通は俺が発熱しそうなもんですけどね」
「まあ普通は魔力に耐えきれず人間の方が発熱しそうだよな。だが、今回は特殊な事情があったんだ!その秘密は『契約』にある!」
ぐみは少しでもわかりやすく説明するために、紙に描いた棒人間を使いながら説明する。
「いいか?本来、大井柊真と長良咲良は契約している『べき』存在だ。なぜなら、魔力の移動を経験しているから、だな。普通、契約をしていればこの移動はスムーズに済む。しかし、お前らはなんでかは知らないが契約を交わしていない!そのせいで魔力の送受信が上手くいかず、魔力が詰まってしまい、そいつが電熱線のように発熱しているんだ!」
「えっ、じゃあ治療法って……」
「ま、契約だな」
ぐみが真剣そうな表情で言う。そうすると突然咲良の瞳が赤色に変わる。
「はぁぁぁ!?嫌よ!契約なんて!」
「急に元気になったな長良咲良。しかし、そうしないとお前は死ぬ。魔力がオーバーヒートしてな」
「うっ……」
チアキは顔をしかめながらため息をつく。そしてすぐに赤い顔と瞳をキッと柊真に向ける。
「だいたいアンタが告白してこなければ、アタシが熱で苦しむこともなかったし!アンタと契約する事にだってならなかったのよ!?」
「い、いや、そんなこと言ったって……俺は好きになっちゃったんだから……どうしようもないだろ……?」
「どうしようもなくない!アンタって血が美味しい以外取り柄がないのに、なんでアタシの許嫁みたいになっているのよ!?!?」
病人とは思えないほど激しくまくし立てるチアキを、ぐみが抑える。
「一旦落ち着け!いいか、長良咲良の吸血鬼人格。お前は二十五までに黄金の血に会えなければ死ぬ運命にあったんだよ!」
「でも別にそれはこいつじゃなくても良いんでしょ!?」
「それは違う!!いいか、長良咲良の吸血鬼人格!!どうやらお前には悪魔の魔力以外にも二十五までに運命の人である黄金の血を見つけなければいけない理由があるみたいなんだ!!」
「えっ……?」
ぐみの衝撃的な激白にチアキと柊真の二人は軽いショックを受ける。
「な、なんでぐみがそんなこと知ってんの……?」
柊真がぐみに尋ねる。
「それは単純な話だ。ぐみの研究結果がそう言ってるわけよ」
「えっ!?アタシ研究とか受けてないわよ!?」
「ぐみの研究では最先端の設備を使っているから遠隔でなんでも分かっちゃうのだ!」
ぐみは胸を張ってふふんと威張り、救急箱の取っ手を持ちフリフリと揺らすが、プライバシー無視の方法にチアキと柊真は呆れを覚える。
「ま、本題だけど、ぐみの研究によれば、長良咲良には魔力とは別の呪いがかかっているみたいだわ」
「え、それってどういうことですか?」
「まあ、何者かが黄金の血を飲まさなけりゃ死ぬ呪いをかけたって事だな。それが誰かは分からないけど」
「なんでそんなピンポイントな呪い……」
「まさか、アンタが犯人じゃないでしょうね?」
「違う!そんな技術ないわ!」
「いくらなんでもピンポイントすぎるでしょ!」
柊真はあらぬ疑いをかけられ両手を上げて焦りを示すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます