分けれ道 その7
(こうやって振り返ってみると……あれ以来だな、戦ったのは)
ツエルはリーネの頭の上に乗せていた手を元に戻し、両手を握ったり、開いたりを繰り返しながら、昂ぶる気を感じている。
今回は二度戦う機会があったが、どれも全力を出す必要がなかった。
最初に遭遇したリーネを狙っていた奴のリーダーは、自分たちを<独立遊撃隊>と言っていた。しかし、実際には<独立遊撃隊>に所属しているというよりも、
倉庫で襲撃した奴らも同様だ。
ただ、それでも今回のケースで足が付いたら本当に厄介な話だが……恐らく大丈夫だろう。
なぜなら、どこの馬の骨とも知れない人物によって作戦が失敗したと外部に知れたら、それこそ大問題になる。独立遊撃隊は国の利権に絡むことを禁じられているのだから。
(けど、今回の宰相と伯爵の企てにもし賛同していたとしたら……これ以上関わるのはやめて正解だったな。何せ、あの国の<ユッドベート>の隊長は確かあいつが――)
「ツエルさん……ツエルさん!」
「お、おう! どうした?」
赤髪のロングヘアーで鋼の鎧に身を固め、背中を向けているあいつの映像が頭によぎったが、リーネに話しかけられてその映像は一瞬で消し飛んだ。
「やっぱり私たちの功績を訴えてやりましょうよ、ツエルさん!」
「だから、それはいらないって言ってるだろう。何のためにあんなに回りくどい形をしたと思ってるんだ? それに前から言ってるだろう? 俺は目立ちたくないんだっつーの!」
俺は最後の台詞をそっぽ向きながら答え、席を立った。
店内を見渡してみると、テレビでカミールの特集は続いていて、遺跡の映像が流れている。
その映像を見ながら、男女三年組のテーブルではいまだにカーミルの話で盛り上がっているようだ。
同じカウンターに座っていた男をなんとなく振りむくと――
(ん!? 今こっちの方を見ていたような……気のせいか)
男はカウンターに体を向けて、グラスを傾けてお酒を楽しんでいる様子だった。
「ツエルさん、あの人がどうかしたんですか?」と小声でリーネが訊いてきた。
「いや、なんでもない。じゃあ移動しようか」
「……ええ」
リーネは何かあると思って、男の方をじっと数秒見つめたが、ツエルがお店を出ていったのを感じて渋々ツエルの後を追っていった。
「これからどうするかなぁ……って、それよりもリーネさっきからどうしたんだ?」
いつもなら歩いているときは必ず話しかけてくるリーネがお店を出てからも何も話しかけてこなかったから、不審がって声を掛けみた。
「いえ……別に」
リーネをそう言いながらも、深く考え事をしている様子だった。
「別にって顔じゃないぞ?」
「……あのお店にいた男。どこかで見たことある気が」
「そうなのか? どこにでも居そうな男だったけどなぁ(気になることはあるが)」
確信はないが、平然としながら頻りに俺たちの様子を伺っているような気がした。
そのことに気が付いたのは、お店を出ようとしたときだったが。
「そう、ですね……よし! 考えても仕方ないので今日の調査に行きましょう、ツエルさん!」
リーネは突然ツエルの右手を握り、いきなり走り始めた。
「おい、リーネ! 食べたばかりなのに、そんなに急かすなー!」
「あははは! さぁ、今日も一日張り切って行きましょう!」
リーネはツエルの手を引っ張り、街中を颯爽と駆け抜けていった。
ツエルとリーネがお店を出て行ってからも、しばらくは男女三年組のテーブルは盛り上がっていたが、テレビでカミールの特集が終わると勘定を済ませてお店を出て行った。
「マスター、つかぬことをききたいのだが、さっきまでそこに座っていた二人組はこの町の人間か?」
マスターと二人っきりになった男は、徐にマスターに尋ねた。
「いえ。この町には旅でやってきたと仰っておりました」
「……いつ頃からここに?」
「五日ほど前かと」
マスターは特に表情を変えることなく、男の質問に淡々と答えていく。
男は何やら紙を取り出して、頭の中の情報を素早い動きで紙に書いて整理していく。
「(よし!)そうか……変なこときいて悪かったな。お代はここに置いておく」
「いえ、ありがとうございました」
男は情報を整理した紙をバッグにしまい込み、飲み代をテーブルの上にガサッと置くと勢いよく椅子から立ち上がった。
「ようやく見つけたぞ。このエード様がお前たちの秘密を暴いてやるから、覚悟しておけよ」
エードと名乗る男は、隠し撮りしたツエルとリーネの写真を見ながら、にんまりと笑うのだった。
分けれ道 完
To be continued……
逸話のあるところに完全無欠の脇役あり〜伝記の裏話知りたくないですか?〜 うめさだ @umezatojin
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