第21話 瑠華は恋のキューピット。(橋野真一に視点戻り)
——チケットよし! お財布よし! 身だしなみよし! 体調バッチリ! お天気は快晴! 最高の土曜日だ!
時刻は午前八時。今日は立花さんとケーキバイキングに行く日。つまりデート! 人生初めての経験!
日が経つごとに俺のテンションが上がっていった。今日は最高潮だぜ!
ウキウキ気分で自分の部屋の扉をガチャと開け、廊下に出ると私服姿の瑠華に遭遇した。
「お兄ちゃんおはよ。どこ行くの?」
「立花さんとケーキを食べに行くから今から出かけるよ。瑠華は友達と図書館に行くんだよな?」
「図書館で勉強は中止になったよ。友達が急に家の用事が出来たって、さっき電話があった」
「そっか。じゃあ今日は家で勉強か?」
瑠華が俺をジッと見つめる……嫌な予感。
「瑠華も行きたい。ケーキ食べたい。沙織お姉ちゃんに会いた〜い」
くっ、やはりそうなるか。瑠華、空気を読んでくれ。せっかくの人生初デートなのに……。
……う〜ん、まぁ、いっか。瑠華も頑張ってるしな。
俺は瑠華の頭をワシワシと撫でた。
「よし、じゃあ瑠華も行くか。リフレッシュも大事だしな。立花さんに電話するな」
「やったぁ。ケーキ、ケーキ」
俺はポケットからスマホを出して立花さんに電話をかけた。
「あれ? お兄ちゃんは沙織お姉ちゃんの連絡先知ってるの?」
「うん。知ってるよ。あ、もしもし、立花さんおはようございます。今日瑠華もケーキ屋に行きたいって言ってるので一緒に良いですか?」
立花さんは二つ返事で快諾した。瑠華が来ることを喜んでる。
「お兄ちゃん貸して」
俺は瑠華にスマホを渡した。
「もしもし瑠華です。そうなんですよ〜。図書館に行くの中止になって。はい。優しいお兄ちゃんの奢りで瑠華も行きま〜す」
俺の奢り⁉︎ 瑠華、俺は奢るとは一言も言ってないよね! ちぃぃ、これで瑠華に奢らないと最低な男子と立花さんに思われてしまう。
……いや、ちょっとまてよ。逆に考えると、妹を大切にする素敵なお兄ちゃんになるよな?
立花さんもきっとそう思うはず。よしよし、俺に対する評価も爆上がりだ。
「は〜い。沙織お姉ちゃんに会えるのを楽しみにしてま〜す」
瑠華は俺に代わらずに通話を終わった。そしてスマホを俺に渡した。
「ところでお兄ちゃん」
「何?」
「沙織お姉ちゃんと付き合ってるの?」
「いや、俺と立花さんはそう言う関係ではないよ」
「じゃあどう言う関係なの? デートする仲って親密じゃないとしないよね?」
瑠華は俺と立花さんの関係に興味津々だ。
「あはは、今日はデートじゃないよ。その説明は外に出てからな。このままだと遅くなる」
「あ、そうだね。お兄ちゃん行こ〜」
「よし、行くか」
両親は共働きで今日は二人とも仕事。目的地の公園まではバスで行く。
電気、ガス、戸締りを確認して、家の鍵をしてバス停へ向かう。
「瑠華、今日の俺は司の代わりだよ。司は甘いものが苦手で俺にチケットを譲ってくれたんだ」
「へぇ〜そうなんだ」
瑠華は俺の説明で納得したようだ。
「瑠華は立花さんと電話やメールはしてるの?」
「うん。たまにしてるよ。ホントは毎日したいけど、迷惑になるから我慢してるんだよ」
瑠華は立花さんの事が大好きみたいだ。話をしている最中満面の笑みをしている。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「何?」
「沙織お姉ちゃんと付き合わないの?」
「いや、付き合わない。と言うか、付き合うとか不可能だから。なぜ付き合える前提で話をする?」
「え〜。お兄ちゃんと沙織お姉ちゃんが付き合ったら、沙織お姉ちゃんに会える機会が増えるでしょ」
「瑠華ちゃん、何その発想。自分の欲望の為に兄を利用するのか? 何度も言うが、俺が立花さんと付き合うのは不可能だ」
瑠華は頬を膨らませた。
「ぶぅ〜。分かった。不可能を可能にする女の子、瑠華ちゃんが恋のキューピットになってあげる。沙織お姉ちゃんをゲットだよ〜」
「ゲットって、失礼すぎるだろ。立花さんは物じゃないんだぞ」
「は〜い。ごめんなさ〜い」
瑠華は可愛く謝った。どうやら反省はしていないようだ。ったく、困った妹だ。
「それにな、俺は立花さんの事を恋愛対象として見ていないからな。勘違いするなよ」
瑠華はニヤニヤしている。
「は〜い。そう言うことにしま〜す。瑠華は空気の読める女の子で〜す」
「だから違うって言ってるだろ」
瑠華も司も、どうして俺が立花さんを好きって思うんだ? 二人の頭はどうなってるんだ?
瑠華と話をしていると、あっという間にバス停に着いた。
「お兄ちゃん、あと五分でバス来るね」
バス停の時刻表を眺めて瑠華は言った。声が弾み楽しそうにしている。
しばらく待つと時刻表通りにバスが来た。俺と瑠華はバスに乗り込み、立花さんと待ち合わせ場所の公園へ向かった。
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