第16話 学校一可愛い女の子。

 もう一度恋人になりたい


 元カノの唯ちゃんが俺に言った。


 唯ちゃんから彼女になりたいと言われて、断る男子は皆無だろう。即決すると思う。


 俺も中学の頃、唯ちゃんに告白されてオッケーするのに一秒もかからなかった。


 唯ちゃんの容姿はその辺にいるアイドルより可愛いと思う。おっぱいもデカイ。そしてなりより性格がいい。


 唯ちゃんが彼女なら毎日楽しいだろう。自慢の彼女になるだろう。


 実際、唯ちゃんが彼女だった時は幸せすぎた。友達には羨ましがられ、俺は意気揚々だった。


 少し前の俺なら喜んで受け入れ、唯ちゃんの彼氏になっていたと思う。


 だけど今は——


「ごめん。唯ちゃんと恋人にはなれない。やり直しはできない」


 目の前にいる唯ちゃんにハッキリと断った。


 俺の言葉で唯ちゃんは悲しくなっているようだ。目が少し潤んでいる。頬も少し赤くなっているように見える。


 唯ちゃんはこのまま去るだろう。そんな雰囲気だ。少し寂しい気もするけど、これでいい。


 今日唯ちゃんに会えてよかった。過去の自分と向き合えた。


 俺は唯ちゃんに未練はない。それがちゃんと分かって良かった。


「しんちゃん……」


 俺を見つめる唯ちゃん。罪悪感が全くないと言えば嘘になる。


「ごめん。俺のことは忘れて新しい恋をしてくれ」


「しんちゃん……素敵」


 ……ん? あれ? 今、素敵って言った? 俺に? 聞き違いか?


「気のせいかもだけど、素敵って言った?」


「うん。言ったよ。しんちゃん素敵って」


「どういうこと? 断られて素敵ってなに?」


 意味が分からない。唯ちゃんの思考回路はどうなってるの?


「あのね、私って学校で一番可愛いって言われてるの」


 突然の自慢話。それがどうした? 中学の頃も学校一可愛いと言われていたから今更驚かないですよ。


「それで?」


「私ってすっごくモテるの。しんちゃんと別れてから結構な人数の男の子に告白されてるの。もちろん高校になってもね。全部断ってるけどね」


 よかったね。モテモテで。


「ふ〜ん。で?」


「そんな私が、『あなたのカノジョになりたい』って言ったら、普通は涙と鼻汁たらしながら嬉しくてオッケーするんだよ。

 それなのにしんちゃんは断った。美少女の私を。素敵以外考えられない。惚れ直したよ〜」


 うん。やっぱり意味が分からない。それに惚れ直されても、素敵と言われても俺の方は気持ちは変わらない。


「ねぇ、しんちゃん。断ったって事は私の事はもう好きじゃないの?」


「そうだね。唯ちゃんに対して好きという気持ちはないよ」


 俺は自分の気持ちをハッキリと伝えた。これでお別れ確定だ。


 だけど唯ちゃんは落ち込まない。むしろ笑顔になっている。なんで?


「じゃあもう一度、しんちゃんに好きになっても〜らお〜と。いっぱい頑張ると嫌われるから少しだけ頑張るね〜」


「いっぱい頑張っても、少し頑張っても唯ちゃんを好きにならないから諦めて」


「しんちゃん、もしかして好きな人がいるの?」


 好きな人……一瞬立花さんが頭に浮かぶ。いやいや好きとは違うでしょ。なにを考えてるの俺。


「いないよ」


「やった。じゃあ可能性はゼロじゃないね。しんちゃんスマホ持ってる?」


「持ってるよ。唯ちゃんは?」


「持ってる〜」


 俺と唯ちゃんは中学の頃はスマホを所持していなかった。だから気軽に電話も出来なかった。


「しんちゃん、連絡先交換しよっ」


「いや、しない。唯ちゃん一日に百件以上メッセージ送ってきそうだから嫌」


「あははっ。しないしない。そんな事をしたら、しんちゃんに嫌われるよ〜。私はそんなに馬鹿じゃないよ〜」


 ……う〜ん。どうしよう。これは断っても断っても諦めない雰囲気だ。唯ちゃんの顔がそう言っている。


「ちなみにしんちゃんのスマホには、女の子の連絡先ってあるの?」


 女の子の連絡先は……ない。男友達は沢山あるけど……。


「ないかぁ〜。そっかぁ〜」


「まだ何も言ってないよね?」


「妹ちゃんとお母さんはカウントしちゃダメだからね」


「しないって」


「どうなのかな?」


「……ないです」


 ぐっ、なんか負けた気分。別に女の子の登録ゼロでもいいじゃないか!


「私が初めての女の子になってあげるよ〜。女の子の連絡先がないと友達に笑われるよ〜」


「ざんね〜ん。俺の周りに笑うヤツはいませ〜ん」


 だって、俺の友達に女の子の連絡先が入っているスマホ持ちは一人もいませ〜ん。


「可愛い女の子の連絡先があると自慢はできるよね。はい、しんちゃんスマホ出して。交換交換」


 自慢できる。なるほど……って、納得してどうするっ。馬鹿か、俺は!


「スマホは出しませ〜ん」


 ◇◆◇


 その後も唯ちゃんは色々と交換理由を言った。緊急事態の時に連絡できる人は多い方がいいとか。


 結局連絡先を交換した。唯ちゃんの『嫌ならブロックするといいよ』が決め手になった。


 べ、別に、可愛い女の子の連絡先があるって自慢したいとかじゃないから。しつこかったし、終わりそうになかったから交換しただけだから!


「お腹すいたぁ。私、帰るね」


「うん」


「しんちゃん大好き。またね」


 そして唯ちゃんは笑顔で帰っていった。どうやら満足したようだ。


 ベンチに一人残された俺。お腹がグ〜となった。


 腹減ったなぁ。司と立花さんは帰っただろうなぁ。


 唯ちゃんと一緒にいたのは時間にして約三十分。今は昼時なのでハンバーガー屋さんは大繁盛している。待ち時間がかなりありそう。


 それを見て俺はため息を吐いた。何故って? ハンバーガーを食べたかったからね。


 仕方ない、近くのコンビニでおにぎりでも買うか……ん? あれは司と立花さん。


 ハンバーガー屋を見ていたら司と立花さんが店から出てきた。司の手には膨らみのある紙袋。


 司が俺に手を振る。そして手に持っている紙袋を指さす。


 つまりあの紙袋にはハンバーガーが入っていて、俺に持って行くという事だ。


 さすが司様! 大好きだぁぁぁ!

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