第12話 公園で練習。

 今日は神谷司と約束をした日曜日。天気は残念なことに雲一つない快晴。


 約束の場所、学校の近くの公園は俺の家から遠い。


 バス通学をしている俺は、今日もバスに乗って目的地に行く。


 ◇◆◇


 目的地の公園に到着したので、目の前のバス停で降りる。


 現在の時刻は午前九時。ちょうど約束していた時間だ。


 陸上競技場くらいの広さの芝生の公園。そこそこの人がいた。


 少し離れた場所から俺に手を大きく振っている人物がいる。


 神谷司だ。すぐ側のベンチには立花さんが座っている。


 俺は歩いて二人の場所に行った。


 ◇◆◇


「おはよ〜」


 司が俺に朝の挨拶をした。


「おはよ」


 俺も挨拶。


「おはようございます」


 立花さんも俺に朝の挨拶をした。


「おはようございます」


 もちろん俺も挨拶をする。


 二人の服装を見ると、司はジャージ、立花さんは普段着。


「リレーのメンバーが二人足りないけど……」


 俺は司に聞いてみた。リレーは四人で走る。残りの二人の姿が見えない。


「二人とも彼女とデートで来れないって」


 ほうほう、青春だ。よかったね。


「僕は沙織と一緒にいるから今日も幸せ」


 ほうほう。司君は今日も幸福なんだね。


「私が司の彼女みたいに言わないで。ウザい」


「じゃあ、今から恋人になろうよ」


 おいおい司君。朝からサラッと凄い事を言ってるね。


 立花さんはため息を吐いた。


「それは無理だから諦めて」


「僕のこと嫌い?」


「……嫌いじゃない。嫌いなら今ここに私はいない」


 二人は青春真っ只中だ。俺はお邪魔かな? 朝からあつあつだ。


 帰るか。


「真一は中学の部活は陸上短距離って言ってたよね?」


「うん」


 俺は司と立花さんとは別の中学だった。それまで関わりはなく、高校になってから知り合った。


「じゃあさ、バトンの渡し方教えて。オリンピックでやってた凄いやつ」


 司は中学の頃は部活はしない帰宅部だったらしい。立花さんもだ。今も帰宅部。俺も現在帰宅部。


「あ〜、アレは無理だ。素人ができる技術じゃない。それにすごく練習しないといけないしね」


 体育祭は一週間後。練習する時間は少ない。今日出来る事は……


「バトンは落とさなければ何とかなると思う。見ながら受け渡しのやり方でいいと思う」


「分かった。じゃあ、それやろ〜」


「その前にストレッチと軽く走ってからだね。いきなり走るとアキレス腱やっちゃうかもだから」


「はーい。りょうかーい」


 ◇◆◇


 俺と司は公園を一周ゆっくり走っている。それからストレッチ。立花さんは参加せずベンチに座って見学だ。


「人多いね」


「そうだなぁ。家族連れとか、カップルもいるな。って、アイツら隣のクラスのやつじゃね?」


「ホントだね、手をつないで散歩してる。いいなぁ。僕も沙織としたいなぁ」


 雑談をしながら、公園を歩きと同じペースでゆっくりと走る。


 そして一周して立花さんのいる場所まで戻った。


 それからストレッチをする。時間にして約三十分。


 そしてバトンパスの練習。バトンは司が用意していた。本格的な金属製のバトンだ。


 ちなみに走る順番は俺がアンカーで司が第三走者。


 実は司の方が俺より足が速い。でも俺がアンカーになった。理由は経験者だから。


「じゃあ、行っくよ〜」


 約二十メートル離れた場所にいる俺に司が手を振り走り出す。


 ちょっ、初回から全力疾走って——


 司の全力疾走に合わせて俺は走り出す。


 ——パシッ。


 司からバトンを受け取った。


 ——あっぶねぇぇぇ。追い抜かれるかと思った。速すぎだろぉぉぉ。


「さっすがだね。タイミングバッチリだったよ。綺麗に渡せたね」


「ま、まあな……」


「よ〜し。次も頑張るぞ〜」


 ◇◆◇


 それから何回もバトンパスの練習をした。そして毎回全力疾走の司。


「そろそろ休憩しようか」


「はぁ、はぁ……そ……そうだね」


 司は息も絶え絶えだ。


 俺たちは立花さんのいるベンチに戻った。


「お疲れ様。はい、どうぞ」


 司にスポーツドリンクを渡す立花さん。それを受け取り、ごくごくと一気に飲み干した。


「ふぅ。沙織からもらうジュースは美味しいね」


「もう、馬鹿なんだから。ジュースはどれも同じでしょ」


 二人の会話を見ながら俺もスポーツドリンクを飲む。そして司に声をかける。


「今日は終わろっか。司も疲れただろ? 練習も十分にできたしね」 


「そうだね。じゃあ、お昼ご飯食べに行こうよ。そこのハンバーガ屋さんはどうかな」


「いいよん。でもその前に、公園一周とストレッチしてからだね」


「は〜い。沙織も一緒にお昼行くよね」


「司の奢りなら行ってもいいよ」


 そう言って司に微笑む立花さん。


「もちろんだよ。真一の分も奢るよ。練習に付き合ってもらったしね」


「いや、いいよ。自分の分は自分で払うよ」


「そう? うん。分かった」


 それから司と二人で公園を一周してストレッチをした。


「終わりっと。じゃあ行こっか。ん〜、疲れたぁ」


 司が背伸びをして、立花さんがベンチから立ち上がる。


「し〜んちゃん」


 女の子が『しんちゃん』と言っている。視界にその子の姿はない。後ろの方から聞こえる。


 この声を俺は知っている。そしておそらく俺を呼んでいる……。


 声がした方を振りむくと、予想通りの人物がそこに居た。俺を見て微笑んでいる。


 ポニーテールが特徴的な女の子。外見的な可愛さは立花さんに匹敵すると言っても過言ではない。


「久しぶりだね。元気にしてた?」


「……まぁ一応……久しぶり……唯ちゃん」

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