第10話 立花さん帰ります。

 現在の時刻は午後三時三十分。


 妹の今日の勉強は終わり、今はリビングで立花さんと瑠華は雑談しながらくつろいでいる。


 俺も二人と一緒にリビングにいる。


 午後四時に立花さんは帰る。お姉さんが車で迎えにくるとのこと。


 ◇◆◇


「瑠華、絶対に合格します! そして沙織さんの後輩になります」


「うん。待ってるよ。頑張ってね」


 瑠華は今年受験生。俺の通う高校を受験する。


 立花さんと瑠華はかなり仲良くなっている。日頃からスマホで連絡でもしているのかな?


 俺と立花さんの関係とは大違い。妹よ流石だ。見た目は天使だけど、中身は腹黒魔王だ。


 ——って、ヤッベ。瑠華に睨まれた。どうやら心を読まれたみたいだ。


 妹は勘がよく、しかも俺が何を考えているのか簡単に分かるらしい。


「沙織さん、ほんとにありがとうございました〜」


「私はお役に立てたかな?」


「はい。すっごく。だから何かお礼をしたいです」


「そんなの気にしなくていいよ。楽しかったしね」


 立花さんは瑠華に微笑みながら優しい声で断った。


「そうですか……でも……」


 どうしても瑠華は立花さんにお礼がしたいようだ。


「あ、そうだ!」


 何かを思いついた瑠華。


 そして二人を見ていた俺を見つめて、ニコッと笑った。


 ……なぜだろう、嫌な予感しかしない。


「絶対に役立つお礼があります」


「役に立つお礼? 何かな?」


 まさかとは思うが、まさかな……。


「そ、れ、は、お兄ちゃんです!」


「ん? 橋野君? 橋野君が役に立つの?」


「はい! お兄ちゃんを一日自由に使える券をプレゼントします!」


 予感的中ぅぅぅ! なんて事を言うんだアホ妹が!!


 立花さんは俺を一瞬見て、妹に微笑んだ。


「ん〜。それは遠慮しようかな」


「要らないってことですか! くぅぅぅ。それなら——」


 おい、待て妹。まだ何か言うつもりなのか。


「お兄ちゃんを一日奴隷にできる券!」


「それは倫理的に問題あるからダメかな」


 瑠華、お前はバカか! ココは異世界じゃないんだぞ!


「あとは……あっ! あれだ——」


 瑠華は止まらない。暴走している。


 そんなおバカ妹に微笑み、付き合っている立花さんは大人だ。


「——お兄ちゃんを一日恋人にできる券!」


「えっ⁉︎ ここっ、こっ、恋人⁉︎」


 立花さんは驚いている。俺と瑠華を交互に見ている。驚きすぎな気もするけど……想定外すぎた?


「どうですか!」


 瑠華が立花さんに圧をかけている。もう訳がわからない。落ち着け妹よ。


「橋野君を恋人にできる券……それは……、一番要らないかな」


 立花さんはバッサリと断った。


 ——ぐはっ! 分かっていた事とはいえ、心がえぐられるっ。


「あのね瑠華ちゃん。私は瑠華ちゃんと一緒にいると楽しいから、お礼なんて気にしなくていいんだよ」


「そうなんですか」


「うん。私ね二人姉妹の末っ子で、ずっと妹がいたらいいなぁ〜って思っていてね。瑠華ちゃんといると妹ができたみたいで楽しいの」


と言って、立花さんは瑠華に天使の微笑みを見せた。


「えへへ。嬉しいな。じゃあ、沙織お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」


「うん。いいよ」


 リビングが幸せな空間に包まれた。


 だけど……俺だけ悲惨すぎませんか?


 ——何故だぁぁぁ! 俺が何をしたぁぁぁ!


 と、立花さんのスマホの着信が鳴る。


「お姉ちゃんが来たから今日は帰るね。時間がある時は勉強教えるね」


「え⁉︎ いいんですか」


「うん。連絡するね」


 それから立花さんと一緒に外へ出て見送った。


「お兄ちゃん、沙織お姉ちゃんに嫌われたね」


「もともと嫌われてるから気にしてない」


 ◇◆◇


 家に戻ると、ご機嫌の瑠華が鼻歌交りでスキップをしている。


「お兄ちゃん」


「なに?」


「今日は一緒に寝てあげる。瑠華のお胸に顔を埋めて泣いていいよ」


「それは全力で遠慮します」


 どんなに悲しいことがあっても、妹と一緒に寝るはありえん。絶対にない。


 それにな瑠華、オマエに顔を埋められる膨らみのあるお胸はない! ゼロだ!


 ◇◆◇


 それにしても今日は全然ダメだったなぁ。マイナスしかなかったよ。


 改善しないとなぁ……そうだなぁ……とりあえず……飾っているポスターを片付けるか。


 明日からまた頑張ろっと。

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