四十五 命を無駄にするな!

「……でも、一体何が違うんですか? ペットとして可愛がられる命と、食物として殺される命。片方は『可哀想』で、片方は『仕方ない』って、一体誰がそれを選んでいるんですか?」


 席の端で、並べられた肉料理を見つめながら、若いボランティアの青年がボソッと呟いた。恐らく昨日今日このプロジェクトに参加したばかりの、新人だろう。その声は蚊の泣くような、誰にも届かない小さな小さな声だった。だが案の定、向こう側のテーブルからリーダーが立ち上がって大きな声を上げた。


「君、だからといって殺されずに済む命まで見殺しにするのかい?『依怙贔屓』……君の言う通りかもしれないな。だけど、目の前で助けられる命さえ諦めるなんて僕にはできない。それこそ生命を冒涜してるじゃないか!」

「そうですね……すいません」


 青年は驚いたような顔をしていた。自分の声が、まさか周りの大人達にまで届くとは思ってもいなかったのだろう。リーダーはジョッキを取り上げ、満足げに集まった同志を見回した。


「いいさ! さあ、今日は決起集会だ! 大いに食べて、飲んでくれ給え!」

「殺されていくペットを救うために!」

「殺されていくペットを救うために!」


 居酒屋に集まった20人前後の集団が、一斉に声を張り上げる。その声は店の端にまで響き渡り、大勢の客の注目を集めた。先ほどの青年は若干恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら皆と同じようにジョッキを掲げた。皆の視線が集まる中、リーダーはさらに声を張り上げ、周りがそれに続いた。


「命を無駄にするな!」

「命を無駄にするな!」

「よおし、乾杯!!」


 掛け声と共に、歓声とジョッキのぶつかり合う音が店内で爆発した。

「飼育できなくなったからといって、殺されていくペットの牛や豚を救うために!!」

 周りが大騒ぎする中、リーダーの笑顔が弾けた。


「今日は俺のおごりだ! 大将! 犬の姿煮と猫の丸焼き、3番テーブルに追加で!!」

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