第80話 依頼達成

――後日、ゴブリン亜種の討伐を達成したイチは村長から報酬を受け取り、村人達に感謝されて見送られながらも冒険者ギルドへ帰還する。この際にイチは討伐を果たした「ゴブリン亜種」の回収も忘れず、冒険者ギルドにて報告を行う。


ギルドでは荷物役と呼ばれていたイチが「塩漬け依頼」を達成した事に驚き、しかも彼が討伐を果たしたゴブリン亜種の件が話題になった。ギルド内に存在する解体場へ死骸は運び込まれ、その姿を見た者達は呆気にとられる。



「こ、こんなゴブリン始めて見たわ……」

「ていうか、本当にゴブリンなのか?」

「こんな強そうな魔物を……あのイチが一人で仕留めたのか?」

「ぐ、偶然だろ。いつも通りに他の奴が戦って倒したんだろ?」

「馬鹿!!あいつが受けたのは塩漬け依頼だぞ!?あんな依頼、手伝う奴がいると思ってんのか!?」

「おい、お前等……見るのは勝手だが、騒ぐんじゃねえよ!!仕事の邪魔だ、一目見たらとっとと消えろ!!」



冒険者達は新種のゴブリンをイチが倒したと聞いて、彼がどんな魔物を倒したのかと解体場に殺到する。そしてゴブリン亜種の死骸を見て動揺を隠しきれず、こんな恐ろしい姿をした魔物をあの「荷物役」と呼ばれたイチが倒した事に動揺が走る。


これまでにイチはホブゴブリンの討伐や盗賊と元冒険者のゴウケン達を倒した実績はある。しかし、どの仕事の時も彼の傍には仲間がおり、彼一人が立てた功績ではない。ホブゴブリンにしろゴウケンにしろ、冒険者ギルドの人間はイチが倒したのではなく、他の同行していた冒険者達が倒したのだと思っていた。


しかし、今回の場合は今までの依頼と違ってイチの同行者はいない。そもそも塩漬け依頼を引き受けようとする冒険者など滅多におらず、今回の依頼はイチ一人で成し遂げた事が証明された。しかも彼が倒した魔物を証拠品として持ち帰っているため、今までの様に外部の協力者のお陰で倒したとは考えられない。



「おい、お前等……あの化物、倒せるか?」

「み、見かけは怖いだけだろ?いくら倒したと言っても、あんなのただのゴブリンに決まってるだろ……」

「馬鹿野郎!!あの姿を見なかったのか!?ホブゴブリンよりもでかいし、それにあの爪と牙を見ろ!!あんな化物、お前は倒せる自信はあるのかよ!?」

「け、けど……それならどうやってあの荷物役が倒したんだよ!?あいつ、荷物を運ぶぐらいしか役立たないだろうが!!」



冒険者達は言い争いを始め、荷物役と呼ばれ続けたイチがあのような化物を倒せるはずがないと言い張る人間、彼の実力を認める人間に別れる。徐々にイチの評価が大きく変わろうとしており、その当人は受付嬢のエストの元に立ち寄っていた――





「――イチ君、本気で言ってるの?」

「はい、本気です」



エストは困り果てた表情で新しい依頼書を持ち込んできたイチと向かい合い、彼女は依頼書を確認して頭を悩ませた。イチが持ち込んだ依頼書はまたもや「塩漬け依頼」であり、しかも今度は1つではなく、複数の依頼書を同時に受ける事をイチは伝える。


普通の冒険者ならば塩漬け依頼など尤も引き受けたくはない仕事のはずだが、敢えてイチは難易度の高い依頼書を単独で行い、それを成功させる事で実績を重ねようとしていた。


塩漬け依頼は報酬と難易度が見合わないので冒険者の誰も受けようとしない。そのせいで依頼人から早く冒険者を派遣するように訴えられる事もあるため、冒険者ギルドからすれば悩みの種でもあった。


但し、塩漬け依頼を果たした冒険者の評価は大きく向上するため、これらの依頼を繰り返せばイチの冒険者としての評価を上がり、更にギルドにも貸しを作れる。それどころか彼を見下していた冒険者達も見返す事ができる。



「イチ君、無茶をしたら駄目よ。これだけの依頼を一人で受けるなんて……」

「一人じゃないと駄目なんです。それにこんな依頼、一緒に受ける人なんていませんよ」

「それはそうかもしれないけど……」

「エストさん、大丈夫です。僕一人で何とかしてみせます……もう僕だって見習冒険者じゃないんですよ」

「イチ、君……」



イチの言葉と彼の真っ直ぐな瞳に見つめられたエストは彼がいつもよりも大きく見えた。今のイチの言葉は決して強がりなどではなく、自信が満ちた言葉だった。少し前まで鉄級冒険者から昇格できず、不貞腐れていた頃の彼とは瓜二つだった。


様々な困難を乗り越えた事でイチは精神的に大きく成長し、そんな彼を見てエストは塩漬け依頼の束を確認し、ここは彼を信じて見る事にした。





――そのエストの期待に応え、イチは全ての塩漬け依頼を数日で達成した。この件でもう彼の事を「荷物役」など呼び出す人間はおらず、イチは歴史上で初の「銀級冒険者」に昇格を果たした「収納魔術師」となった。

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