第78話 亜種襲来

「これが……亜種!?」

「ひいいっ!?ぼ、冒険者様!!お願いします、助けてください!!」



亜種を始めて見たイチは呆然と呟くが、村人の言葉を聞いて我に返る。まずは彼等を避難させる事が先決であり、柵が完全に破壊されて入り込まれる前に全員に下がるように促す。



「皆さんは下がっててください!!絶対に近付かないで!!」

「は、はい!!おい、皆!!早く下がれ!!」

「ここは冒険者様に任せるんだ!!」

「頼みます!!」



村人達はイチの言葉を聞いて距離を取り、改めてイチはゴブリン亜種と向かい合う。ゴブリン亜種は遂に策を破壊すると、イチ達を睨みつけて咆哮を放つ。



「グギィイイイッ!!」

「うひぃっ!?」

「怖がらないで!!背中を見せたら襲ってくるかもしれません、ゆっくりと下がって!!」



今すぐに駆け出して逃げ出しそうな村人達にイチは注意を行い、無暗に背中を見せないように注意する。野生の熊などは逃げる生物を追いかける習性があるが、この目の前のゴブリンは熊よりも恐ろしい存在であり、柵を破壊すると一人だけ逃げなかったイチと向き合う。


イチはゴブリン亜種に視線を向け、まずは様子を伺う事に専念した。ゴブリン亜種は自分を前にしても逃げないイチに対して鼻息を鳴らし、威嚇のつもりか鳴き声を放つ。



「グギィイイイッ!!」

「……びびると思ってるのか?」



ゴブリン亜種の咆哮に対してイチは引きつった笑みを浮かべ、本音を言えば恐怖のあまりに逃げ出したい気持ちもあったが、これまで味わった修羅場を思い返す。


確かに目の前の敵は恐ろしいが、それでもイチは何度もこのような状況を切り抜けてきた。勇気を振り絞ってイチは両手を構えると、手始めに赤毛熊に目掛けて短剣を射出した。



「喰らえっ!!」

「グギィッ!?」



右手を構えたイチを見てゴブリン亜種は警戒すると、次の瞬間にイチの右手から黒渦が出現して短剣が射出された。使用したのはこれまでも使用していた鉄の短剣であり、その攻撃に対してゴブリン亜種は咄嗟に爪で振り払う。



「グギィッ!!」

「うわぁっ!?」

「な、何だっ!?」

「何か飛んできたぞ!?」



イチとゴブリン亜種の距離は10メートルも離れておらず、この距離ならば今のイチならばホブゴブリンでも反応できない速度で短剣を射出できるが、恐るべき反射神経でゴブリン亜種は短剣を弾き返す。


弾かれた短剣は村人達の方に向けて飛んでいき、危うく一人の村人の足元に突き刺さる所だった。それを見たイチは反射神経はホブゴブリン以上だと判断し、今回の敵はホブゴブリンよりも恐ろしい相手だと気付く。



(この距離で弾くのか……けど、構わない!!)



ゴブリン亜種が短剣を弾いたのを見てイチは今度は左手を構え、両手で黒渦を交互に発動させて交互に短剣を撃ち込む。その攻撃に対してゴブリン亜種は両手の爪を振り払い、全ての攻撃を弾き返す。



「これならどうだ!?」

「グギィイイッ!?」



次々と矢継ぎ早に黒渦から短剣が射出され、その攻撃全てをゴブリン亜種は爪で弾き返す。しかし、反撃の隙も与えない連続攻撃に対してゴブリン亜種は後退り、やがて自らが破壊した柵の方まで追い込まれる。



(このまま外に……は無理か)



イチは両手を使用して短剣を射出させていたが、遂に全てのは使い切ってしまい、黒渦からは何も出てこなかった。唐突に短剣の射出が終わった事にゴブリン亜種は呆気にとられるが、すぐにイチが武器を撃てなくなったと気付いたのか笑みを浮かべる。


異空間内の鉄の短剣を使い切ったイチはゴブリン亜種の様子を伺い、相手がイチが攻撃をできなくなったと勘違いして襲い掛かってくる事を祈る。その祈りが通じたのか、ゴブリン亜種は不用意にイチに向けて近付いてきた。



「グギィイイッ!!」

「……ここだっ!!」



正面から突っ込んできたゴブリン亜種に対してイチは両手を構えると、今まで一番の規模の黒渦を作り出す。まだ何か仕掛けるつもりなのかとゴブリン亜種は一瞬動きを止めたが、この時にイチは昼間に村人に協力してもらって異空間内に収めたを射出させた。



「串刺しになれ!!」

「グギャアアアッ!?」

『おおっ!?』



異空間から射出された杭のように先端が尖った丸太がゴブリン亜種に撃ち込まれ、ゴブリン亜種は丸太ごと吹き飛んで策を突破して村の外の堀の中に落ちる。


この丸太は元々は柵を修繕するために運び出された物を少し改良を加え、それをイチが村人の力を借りて異空間内に収めた代物だった。黒渦に通れる大きさの物ならばどんな物でも異空間に預ける事ができる。それを利用してイチは異空間に丸太を収めて攻撃に利用したのだ。


どれほどの大きさだろうと異空間内に預けた物体は「反発」の力を利用すれば短剣と同じく射出させる事ができる。村人とイチが力を合わせて運び出した丸太を受けたゴブリン亜種は派手に吹き飛び、堀の中に落ちたがイチは即座に柵を乗り越えて追撃をしかけた。

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