第71話 決闘
冒険者が街中で決闘をしているなど知られたら冒険者ギルドの評判に関り、当然だがそんな事がバレればギルドからの評価も落ちてしまう。流石に冷静さを取り戻したカインは剣を鞘に戻すとイチに告げた。
「……あっちの方に空き地がある、そこなら人は滅多に通らないから邪魔はされないだろう。そこで決闘だ」
「おい、カイン!!もう止めておいた方が……」
「下の階級の冒険者如きに馬鹿にされてたまるか!!しかもこいつは余所者だぞ!!」
いくら仲間が宥めようとしてもカインは聞く耳を持たず、その様子を見てイチは面倒に思うが、このままニイノの冒険者に目を付けられたまま帰るのも問題な気がした。
時にはイチもニイノに赴いて仕事を行う日もあるかもしれず、そんな時にニイノの自称有名冒険者のカインに敵意を持たれていたままだと面倒な事になるかもしれず、仕方なく決闘を承諾する。
「……決闘は受けます、でも場所を変えてください」
「何だと?どうしてだ?」
「わざわざ人目を避ける必要なんてないでしょ。この街の冒険者ギルドの訓練場で正式に決闘しましょう」
「ギ、ギルドだと?どうしてわざわざそんな真似を……」
「決闘は立会人がいてこそ成り立ちます。勿論、貴方の仲間が立会人になるなんて言い出しませんよね?立会人はあくまでも公平な立場の人に頼むのが筋のはずです」
「むむっ……」
イチの言葉にカインは考え込み、実際の所はイチが人目のお居場所で決闘を拘るのは理由がある。それはカインが指定した場所で戦う場合、彼の仲間がカインに加勢する可能性を恐れたからだった。
冒険者ギルドでは冒険者同士の諍いを想定し、職員に申請すれば冒険者同士の決闘を認める制度が存在する。冒険者稼業は実力主義社会のため、度々冒険者同士が争う事はあり、その時はどちらの実力が上なのかをはっきりと示すために決闘で力比べをする事が認められている。
「別にいいですよね、それとも自分の指定した場所じゃないと決闘を受けない理由があるんですか?」
「そんな事はない!!いいだろう、ギルドへ行くぞ!!」
「おいおい、マジかよ……」
「考え直そうぜ……」
「いいから行くぞ!!」
カインはイチの挑発じみた言葉に激高し、彼の条件を受け入れてギルドへ向かう事にした。イチはカインを利用し、この際に自分の実力を他の人間に見せつけるいい機会だと判断する。
(どうも僕の戦い方は噂になっているようだし……これ以上に必要以上に力を隠す必要はないか)
これまでのイチは慎重に自分の能力を隠して冒険者稼業を続けてきたが、先日に襲撃してきた暗殺者はイチの戦法を既に知っているらしく、それならばもうイチも力を隠す必要はないと判断し、決闘を利用して自分の実力を他の人間に見せつける事を決めた――
――その後、ニイノの冒険者ギルドに到着したカインとイチは自分達が決闘する事を伝え、職員に決闘の際の誓約書を書かされる。この際に決闘の条件として相手が勝利した場合、自分の願いを叶えてもらうという内容で戦う事を承諾する。
「よろしいですね?今回の決闘はあくまでも力試しです。相手に降参させるか、あるいは戦闘不能の状態に追い込めば勝利とします」
「ああ、問題ない!!」
「分かりました」
イチとカインは冒険者ギルドの訓練場に案内され、石畳製の試合場の上に立つ。立会人を務めるのは職員であるが、試合場の周囲には冒険者達も集まり、彼等は只の観客ではない。
もしも決闘の際中に片方の船首が相手を必要以上に痛めつけようとしたり、あるいは殺害しようとした時のために観戦する冒険者達はそれを止める役割が与えられる。そして今回の決闘には十数名の冒険者が集められ、その中には銀級や白銀級冒険者の姿もあった。
「カイン、無様な姿は見せるなよ!!」
「他所者の冒険者に負けるな!!」
「そっちの子も頑張ってね!!」
「応援してるぞ〜!!生意気なカインなんてぶっ飛ばせ!!」
意外な事に観客の半数はイチの応援もしており、彼等は日頃からカインの態度に不満を抱く者ばかりであり、そんな彼等に対してカインは不機嫌そうな表情を浮かべた。しかし、一方でカインの事を応援する冒険者も多く、やはり他所から訪れた冒険者に負ける姿は見たくないと思う人間もいるらしい。
「よし、では決闘を始めるぞ……だが、君は武器を持っていないようだがいいのか?」
「問題ありませんよ、必要な時に取り出しますから」
「そ、そうか……」
「ふん、いつまでその調子でいられるかな……」
イチの発言に職員は戸惑うが、そんな彼を見て余裕の態度を見せつけていると判断したカインは増々に怒りを抱く。しかし、イチとしては別にふざけているつもりはなく、今回の決闘は彼にとっても重要だった。
(大丈夫だ、こいつはゴウケンより多分強くない)
初めての決闘にイチも緊張するが、ゴウケンとの戦闘を思い返して心を落ち着かせる。そして遂に職員が試合場の隅に移動すると、試合の合図を出す。
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