ニイノ編

第59話 ミスリル鉱石の採取

――ミスリル鉱石の護送の一件から二週間ほど時が経過すると、イチは一時的に拠点をハジメノからニイノへと変えていた。理由はドルトンから聞いた採掘場で貴重なミスリル鉱石が採れると聞き、彼はハジメノに戻ってギルドマスターに報告後、再びニイノへ戻ってきた。


ドルトンから教わった採掘場はニイノから数キロほど離れた場所に存在する鉱山の山頂部に存在し、標高は数百メートル程度であり、採掘場までの道のりはそれほど厳しくはない。


しかし、問題なのは採掘場に到着した後であり、採掘場には現在多数の魔物が生活していた。何故か魔法鉱石が採れる場所は魔物が寄り付きやすく、一説としては人間を餌とする魔物が採掘場に訪れる人間を狙って住処を移すのではないかと言われている。



「プギィイイッ!!」

「ガアアッ!!」



採掘場にはオークとコボルトの群れが占拠しており、数はそれぞれ合わせて50体近く存在する。これだけの数の魔物を倒すとなると相当な数の冒険者を用意しなければならず、まず普通の人間は近づけない。


普段は敵対関係のコボルトとオークだが、鉱山に住み着いた魔物達は争う様子はなく、それでも別に特段に仲が良いわけではない。時には争う事はあるが、殺し合いまでには発展しない。


コボルトもオークもゴブリンよりも危険度は高く、普通ならば銅級から銀級冒険者でなければ対応できない敵である。しかも大群となると金級冒険者であろうと迂闊に踏み入れない危険地帯だが、イチは朝方に訪れてはこっそりとミスリル鉱石の採取に向かう。



(よし、眠っているな……)



コボルトもオークも夜行性の魔物だが、朝方を迎える頃には眠気の最高潮ピークを迎え、この時間帯が一番気が緩みやすい。その隙にイチはこっそりと坑道内に忍び込み、魔物達に気付かれないように慎重に奥へ進む。



(抜き足差し足忍び足……と)



慣れた様子でイチは坑道を進み、他の魔物に注意しながら奥へと進む。途中で魔物に気付かれたら危険だが、それでもイチはやり遂げなければならない事がある。


松明などだと熱が強いため、他の魔物に気付かれる恐れがある。だからこそイチは値段は高いが「光魔石」と呼ばれる光り輝く魔石を購入し、それをランタンに収めて灯りとして利用していた。


光魔石のランタンは光を照らすだけで熱の類は感じさせず、しかも安物の光魔石を購入したため、光量は松明よりも少し明るい程度である。坑道内にも魔物は潜んでいるが、よほど光を間近に浴びせなければ起きる心配はない。



(臭い消しの香草も忘れずに……)



前回の任務の反省を生かし、現在のイチは嗅覚が鋭い魔物に気付かれないように消臭効果のある香草も用意しており、それを利用して自分の臭いを消しながら先へ進む。やがて歩き続けていると遂にイチは目的の物を発見した。



(おっ?あそこの壁が光ったような……やっぱりだ!!この色合いは……ミスリル鉱石発見!!)



光魔石のランタンが放つ光に反応し、通路の岩壁の一部が光り輝いている事をイチは確認すると、ランタンを照らして光り輝いている箇所を調べた。前の任務でイチが運んだミスリル鉱石と全く同じ色合いであり、すぐにイチは意気揚々と背中に抱えていたピッケルを使う。


それからしばらくの間は坑道内でピッケルを叩き付ける音が鳴り響き、やがて岩壁からイチはミスリル鉱石を掘り起こし、掌ほどの大きさのミスリル鉱石を入手した。



「よし、ミスリルだ!!」

「プギィッ!?」

「グゥウッ……!!」

「うわ、しまった……!?」



ミスリル鉱石を掘り起こすのに夢中でイチは声を上げてしまい、先ほどから聞こえてきたピッケルを岩壁に叩く音と、今のイチの声を聞きつけてきたのかオークとコボルトが姿を現す。


2体はイチの前後の通路から出現し、完全に挟み撃ちの形となる。だが、イチはため息を吐きながらもミスリル鉱石を握りしめ、今日の探索は終わらせる事にした。



「今日は終わりか……じゃあね」

「プギィイイッ!!」

「ガアアアッ!!」



オークとコボルトは坑道内に入り込んだナイに目掛けて駆け出すが、次の瞬間にナイは足元に右手を構えて「黒渦」が発動させると、その中に飛び込んで姿を消す――






――黒渦の「異空間転移」を利用してイチは事前に宿屋の自分の部屋のベッドの上に展開していた黒渦から抜け出すと、即座に黒渦を閉じてベッドに上に横たわる。彼は額の汗を拭い、左手に握りしめたミスリル鉱石を覗き込んで笑みを浮かべる。



「ふうっ……これで必要分の素材は集まったかな」



イチは採掘場から手に入れたミスリル鉱石を掌の上で弄び、もうすぐ自分の新しい武器を作ってもらえると考えると嬉しくて仕方がなかった。


採掘場の話を聞いた後からイチはニイノに拠点を一時的に移し、毎日のように夜明け前に出発して鉱山へ向かう。そして採掘場に忍び込み、魔物の目を盗んで採掘場内の魔法鉱石を採取していた――

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