第47話 盗賊

――村を出てから数時間後、馬車は森の中を通っていた。この森を抜ければ次の村に辿り着き、思っていたよりも進行速度が速く、明日の昼頃には目的地である「ニイノ」に辿り着けるかもしれないと御者は伝える。


ニイノにはイチは他の冒険者の付き添いで同行した事があり、ハジメノと比べれば規模は小さいが、ニイノは鉱山を所有している。その鉱山では魔法金属が採掘されるが、ギルドマスターによると現在の採掘場は魔物に占拠されてはいる事が出来ないらしい。


ギルドマスターの弟が鍛冶師であり、仕事でミスリルが必要だから弟であるギルドマスターに頼み、ミスリル40キロをイチ達に運ばせる。それが今回の任務の内容だが、実際の所は御者が運んでいる荷物は偽物であり、本物はイチが収納魔法で預かっている。



(明日には到着か……けど、帰りの馬車もこの人達と一緒だと考えると嫌になるな)



リルやブランならばともかく、自分を見下すゴウケンとガウアと共に行動する事にイチは陰鬱な気分に陥るが、ここで馬車が急に止まって御者が悲鳴を上げた。



「ひっ、ひいいっ!!」

「おい、どうした!?」

「何よ、急に騒ぎ出して……魔物でも現れたの?」

「何事ですか!?」



御者の男が悲鳴を上げたため、イチ達は何事かと馬車の外を覗き込むと、そこには道を塞ぐ男達がいた。人数は10人前後であり、戦闘に立っているのは獣人族の男性だった。


男達は魔銃の毛皮を纏っており、武器を手にした状態で待ち伏せしていた。彼等を見てすぐにイチ達は盗賊だと気付き、馬車から降り立つ。



「ひひひっ……おい、馬車の積荷と身ぐるみを置いていきな。そうすれば他の奴は見逃してやるよ」

「ついでに女もな!!」

「盗賊か……」

「ちっ、面倒ね!!」



イチ達の前に現れたのは盗賊の集団らしく、彼等に対して銀級冒険者のゴウケンとガウナは取り乱しもせず、冷静な態度で武器を抜く。その一方でイチ達も慌てて武器を構えると、馬車の後方から聞き覚えのある声が響く。



「よう、久しぶりだな荷物役のイチ!!」

「その声は……ゴズ!?」

「へへっ……俺も居るぜ?」



後方から聞こえてきた声にイチは驚いて振り返ると、そこには棍棒を構えるゴズと闘拳を装着したカマセが立っていた。二人がこの場に現れた事にイチは驚くが、そんな彼等に対してゴウケンは冷静な態度で対応する。



「ゴズ、カマセ……お前達、これは何の真似だ?」

「悪いな、先輩……あんたらがミスリルを運んでいる事は調べがついてるんだ。ギルド職員を捕まえて聞き出した情報だから間違いねえ」

「へへへっ……数十キロのミスリルを運んでいるだろう?それを金に換えたらどれだけ儲かるかな」

「下衆が……」



カマセはゴズと手を組んでギルドの職員を拘束し、職員から今回の任務の内容を聞き出す。ギルドマスターから発注した依頼はギルド職員も当然把握しており、彼等は職員を脅して情報を聞き出したらしい。


馬車で運び出されているミスリルの存在を知ってゴズとカマセは森の中で罠を張り巡らせ、イチ達を捕まえるために盗賊をここへ待機させていた。現在のゴズは盗賊の一員であり、今回の件が上手くいけばカマセも冒険者を辞めて盗賊の仲間に入るつもりだった。



「悪く思うなよ、いくらあんたが銀級冒険者だろうとこれだけの人数を相手にしたらどうしようも出来ねえだろうが……大人しく、女と積荷を置いて行きな!!」

「ふざけんじゃないわよ!!あんた等みたいなクズ共にやられると思ってんの!?」

「おっと、強がりは止めておけよ。こっちはどれだけいると思ってんだ?」



ゴズが指を鳴らすと更に周囲の木陰から隠れていた盗賊が姿を現し、合計で20名近くの盗賊が馬車を取り囲む。その人数を見て流石にガウナも冷や汗を流し、一方でゴウケンの方は黙り込む。



(流石にこれだけの数は……)



敵の数を見てイチは危険を察し、この状態で戦闘になれば、他の人間が危ない。どうするべきかイチはゴウケンに指示を仰ぐ。



「ゴウケンさん、どうするんですか?」

「ふん、決まってるでしょう!!こんな奴等、皆殺しよ!!そうよね、ゴウケン!?」

「…………」

「ゴウケン……さん?」



何故かゴウケンは先ほどから黙り込み、イチ達の言葉を聞いても返事を行わない。やがて彼は信じられない事にその場に剣を放り込み、それを見たイチ達は衝撃の表情を浮かべた。


突如として剣を地面に手放したゴウケンの姿に彼の相棒であるガウナも驚き、リルやブランやイチも動揺を隠せない。その一方で盗賊達は驚きもせず、カマセとゴズは笑みを浮かべる。



「……どうしようも出来ない、俺達の負けだ。積荷は好きにしろ」

「えっ!?」

「ちょ、ちょっとゴウケン!?あんた、何を言ってんのよ!?」

「諦めるつもりですか!?」

「あんたらしくないぞ、ゴウケン!!」



あっさりとゴウケンは盗賊達に対して降参して両手を上げ、その光景を見た他の人間は信じられない表情を浮かべる。特に彼の相棒のガウナはゴウケンの言う事に動揺し、彼女はゴウケンの首元を掴む。

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