第36話 暗雲
「ちくしょう、何で俺がこんな目に……あの荷物役がっ!!」
「ふんっ……大分荒れているようだな」
「ああっ!?」
カマセは路地裏に存在する物を蹴り飛ばしていると、不意に彼の背後から声を掛ける男が存在した。その男の顔を見た瞬間、カマセは一瞬誰だか分からなかったが、1年前までは冒険者を務めていた男だと思い出す。
「お、お前は……ゴズか!?どうしてこんな所に……!?」
「久しぶりだな、カマセさんよ……相変わらず銅級冒険者を続けているようだな」
荒れていたカマセの前に現れたのはゴズであり、過去にイチにしつこく絡んできた冒険者だった。イチがまだ雑用の仕事を行いながら講習を受けていた時、彼はエストと仲良さげだったイチに嫉妬して彼を痛めつけ、最終的には殺人未遂を引き起こす。
問題を大事にしたくなかったギルド側はイチの代わりにゴズに長期間の冒険者ギルドの雑用の仕事を押し付ける。ゴズにとってはこれ以上とない屈辱で有り、イチが正式に冒険者として仕事が出来る様になった後、彼は一応は解放されたがその後の他の冒険者の対応は冷たかった。
『あいつだろ?荷物役に絡んで痛い目に遭ったとかいう冒険者……』
『攻撃魔法も覚えない魔術師に負けて恥に想わないのかしら……』
『よし、あいつがいつまで冒険者を続けるか賭けようぜ?』
長年の間、カマセと同様に普段の態度が悪いせいでゴズは上の階級に昇格を果たせず、しかも同じ鉄級冒険者で攻撃魔法も扱えないイチに気絶させられた事は他の冒険者にも知れ渡っていた。
彼の噂は冒険者だけには留まらず、一般人の間にも広まり、ゴズは鉄級冒険者としても仕事出来ない程に信用を失う。殺人未遂の件はギルドマスターが手を回して他の人間に知られない様にしたが、結局は彼がイチに絡んで問題を起こし、そのせいで雑用仕事を押し付けられた事は皆に知られ、恥をかいたゴズは自ら冒険者を止めて出ていく。
「ゴズ、お前何だその格好は……」
「へへっ……こっちも色々とありましてね。言っておきますけど、浮浪者じゃありませんよ」
「その恰好で言われてもな……」
現在のゴズは酷い恰好をしており、茶色のマントに薄汚れた衣服、更には裸足の状態だった。カマセはゴズとはそれなりに長い付き合いだったが、最初に彼を見た時は一瞬誰だか分からなかった。
ゴズが冒険者を辞めた後の消息は誰も知らなかったが、今の彼は何処からどう見ても浮浪者にしか見えず、カマセは憐れみさえも抱く。しかし、そんなカマセに対してゴズは信じられない物を取り出す。
「カマセの旦那……あんたに頼みたいことがある」
「頼みだと?お前に俺が……?」
「ああ、昔のよしみだ……もしも手伝ってくれたらこいつを渡すぜ」
「そ、それは!?どうしてお前がそんなもんを!?」
カマセに対してゴズが取り出したのは金貨であり、しかも彼は2枚も所有していた。浮浪者のような恰好をしたゴズが金貨を所持している事にカマセは驚愕し、喉を鳴らす。
「カマセさんよ、実は俺はある盗賊団に入ってな。そこで今は世話になっているんだ」
「と、盗賊団だと!?」
「しっ……声が大きい、こんな所を見られたらあんたもただじゃすまないぜ」
「な、何だと……」
「あんたも自分の評判が割る事は知っているだろう。それに周りの惨状……警備兵にこんな姿を見られたらあんたの立場はどうなるかな?」
ゴズの言葉に冷静になったカマセは慌てて周囲を振り返ると、確かに彼の言う通りにカマセは冷静さを失って好き放題にやり過ぎた。路地裏に置かれてた壺や木箱を蹴飛ばし、そのせいで彼の周りは大変な事態に陥っていた。
実は過去にもカマセは何度か酔っ払って警備兵に捕まった事があり、その度にギルド側に謹慎処分を受けていた。現在金欠のカマセが仕事を引き受けられなくなれば彼は生活する事も出来ず、顔色を青くする。
「まあ、別に俺はあんたが警備兵に捕まろうとどうでもいいんですけどね」
「ふ、ふざけるな!!ゴズ、てめえ誰が昔世話をしてやったと思ってやがる」
「その事は感謝してますよ。だからあんたに声を掛けたんだ……もう街でも耳にしてますよ。あんたがあのガキにやられた事はね」
「な、何でお前なんかが……」
今は冒険者でもないゴズが自分がイチに恥をかかされた事を知っている事にカマセは戸惑うが、実際の所はゴズは少し前から彼を尾行し、騒ぎ立てるカマセの話を聞いていただけに過ぎない。
(単純な男だ……酒に酔っ払うとぺらぺらと聞いても居ない事を口喋る奴だからな)
ゴズがカマセを街中で見かけたのは偶然だが、彼の性格を把握しているゴズはカマセを利用して自分をこんな目に追い込んだイチへの復讐のために利用する事を企む――
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