第29話 依頼人の思惑

「村長、もしかして貴方はホブゴブリンが洞窟に住み着いている事を知っていたんじゃないですか?それを敢えて黙って貴方は冒険者ギルドにはただのゴブリンの討伐を依頼したんじゃないですか?」

「な、な、何を言われますか!?」

「通常、ゴブリンの討伐の場合は1匹当たりの相場は銅貨1〜2枚……しかし、ホブゴブリンの場合ならば一気に跳ね上がり、最低でも銀貨単位で取引されるはずです。しかし、それを黙って依頼したのではないですか?」

「ひ、人聞きの悪い!!いったい何を根拠に言われるか!?」



村長はイチとリルの言葉に動揺を示すが、確かに彼の言う通りに二人の言い分には証拠はない。だが、そんな村長に対してリルもイチも動じずに堂々と言い返す。



「大方、貴方は通常種のゴブリンの依頼と偽り、ホブゴブリンの存在を会えて隠した。そうすれば冒険者がホブゴブリンを倒しても自分達が依頼したのはあくまでもゴブリンの討伐であって、ホブゴブリンの報酬は支払わないと言い張るつもりだったのでは?」

「なっ……!?」

「階級が低い鉄級冒険者ならゴブリン退治という比較的に簡単で、安い報酬でも来てくれると思ったんでしょう?もしも冒険者が返り討ちにあったとしても、その場合は冒険者ギルドに抗議して、今よりも良い条件で腕の立つ冒険者を派遣してもらう……よくある手口ですね」

「だ、黙れ!!このガキ共、調子に乗りおって……!!」



リルとイチの言葉が図星だったのか村長は本性を露にして怒鳴り付け、彼は指を鳴らすと部屋の中に男達が入り込む。それを見てリルとイチは眉をしかめ、一方で村長は笑みを浮かべる。



「ふん、ガキ共が……運よく、ホブゴブリンを倒せたようだがそんな疲れ切った状態ではどうしようもあるまい。ギルドにはお前達はホブゴブリンと相打ちになって死んだと報告してやるわ!!」

「……単純な人ですね、わざわざ証拠を掴む前に本性を現してくれるなんて」

「まあ、俺達が死んだ事に擦れば報酬を支払わずに済むと思ってるんだろうけど……そんな単純な話じゃないんだよ」

「このっ……何処まで儂を馬鹿にするつもりだ!!お前達、やってしまえっ!!」

「は、はい!!村長!!」

「冒険者さん、悪く思わないでくれ!!」

「俺達だって生きるためにやらないといけないんだ!!」



村の男達はイチとリルに武器を構えるが、そんな彼等に対してリルは剣を構える。しかし、この時に部屋の外から物音が聞こえると荒々しく部屋を開けてケンとファイが入り込む。



「聞かされてもらったわよ!!よくも私達を騙したわね!!」

「お前達のせいでヒリンが……許さないぞ!!」

「な、何だお前等!?他の奴等は何をしている!?」

「生憎と、僕達を捕まえようとした奴等は外で伸びているよ……冒険者を甘く見過ぎた」

「ううっ……ゆ、ゆるひてぇっ……!?」



ケンの手元には彼に襲い掛かった後、返り討ちにされて顔面から鼻血を流す男の頭が握りしめられていた。常日頃から魔物と戦い続け、教会にて経験値を利用して肉体を強化している戦闘職の人間からすれば、戦う力を以て生まれなかった一般人など赤子同然だった。


既にケンとファイを捕まえようとした男達は返り討ちに合い、形成は逆転した。村長と数名の村の男達は逆に追い詰められ、そんな彼等にヒリンは杖を構える。



「あんた達が嘘の依頼をしたせいで……ヒリンはぁっ!!」

「ひいいっ!?ま、待ってくれ!!許してくれぇっ……頼む、儂が悪かった!!」

「……だったら、虚偽の報告を行った事を認めますね?」

「認める!!か、金もちゃんと払う!!だからもう、許してくれぇっ!!」



村長はその場で土下座すると、その様子を見てイチ達はもう証拠を掴む必要もなくなり、ため息を吐き出す。ここで彼等に手を出した所でイチ達が犯罪者に仕立て上げられるため、結局はイチ達は村長を連れてハジメノに戻る事にした――






――ハジメノに帰還した後、今回の依頼に関しては依頼人が虚偽の情報を流し、しかも証拠隠滅のために依頼を引き受けたイチ達の殺人未遂を行ったという事で村長は逮捕された。彼に従った者達も事情聴取を受けたが、彼等の場合は村長の計画に乗っただけという事もあり、イチ達に謝礼金を支払う事で釈放してもらう。


都市の警備兵が事情を聞いた限り、あの村は近頃は魔物が農作物を荒らすせいで生活も厳しく、しかもホブゴブリンまでもが現れたせいで大きな被害を受けていた。冒険者に依頼して魔物を退治してもらおう似もホブゴブリンを倒す程の冒険者を雇うとなると金が掛かる。


そこで村長が策を打って表向きはゴブリンの討伐依頼を出し、その依頼を引き受けた低階級の冒険者にホブゴブリンの始末を任せる。仮に成功しても村長は依頼をしたのはゴブリンの討伐だけであってホブゴブリンの支払いを断ればよいと考え、逆に冒険者が失敗すればギルド側に責任を追及できる。


しかし、村長の誤算は冒険者という存在を舐めていた事であり、彼は捕まって今後は犯罪者として監獄で生きていく事になる。今回の一件は非常に悪質な依頼人だったが、この手の話はよくある事だった。




冒険者は世間では危険な魔物から一般市民を守る存在として憧れを抱かれる職業でもあるが、現実には彼等を都合よく利用しようとする輩も多く、そんな奴等に騙されない様に注意深く生きていかなければならない厳しい職業でもあった――

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