第18話 気に入らない
「なら次は私ね!!さっきも言ったけど、私はあんたと違ってちゃんとした魔術師よ!!」
「ちゃんとしたって……」
「それにただの魔術師じゃないわ、攻撃魔法の中でも威力が高い砲撃魔法を扱える砲撃魔術師よ!!どう、凄いでしょう!?」
砲撃魔術師とは魔法職(魔術師系統の職業の通称)の中でも高火力の魔法を生み出せる事で有名な魔法職であり、ファイは火属性の「砲撃魔法」が扱えるらしい。砲撃魔法は彼女の言う通りに攻撃力に特化した魔法であり、かつてファイは砲撃魔法で魔物を倒した事が何度もあるという。
「いざという時は私に任せなさい!!ゴブリンだろうとオークだろうと私の砲撃魔法で吹き飛ばしてあげるわ!!」
「それは頼もしいですね……肝心な時に魔力切れを起こさなければ」
「な、何ですって!?」
「砲撃魔法は確かに優秀な攻撃魔法だと聞いています。しかし、その分に魔力の消耗が激しくて連続で使用する事は不向き、しかも威力が高すぎるが故に他の人間を巻き込む危険性があると聞いています。貴方は1日に何回砲撃魔法は唱えられるのですか?」
「うっ……!?」
イチの収納魔法とは異なり、ファイの砲撃魔法はリルによれば多用には不向きな魔法らしく、彼女の質問に対してファイは顔色を変える。先ほどまでは自信たっぷりな態度だったが、リルの質問に対して小声で言い返す。
「3……いや、4回よ!!頑張れば私だって4回も魔法を撃てるわよ!!」
「4回ですか……では、戦闘に役立つ回数は4回という事で間違いありませんね」
「ちょっと、それどういう意味よ!?私が魔法を使えないと役立たずだと言いたいの!?」
「その通りです」
「なっ!?」
当然の様にリルは言い返すと、ファイは唖然とするが、そんな彼女に対してリルは淡々と答えた。
「魔術師の一番の強みは魔法を使える事です。なら、その魔法が使えない状況に追い込まれた時、貴女は何が出来るんですか?武器を手にして魔物と戦う事が出来るんですか?」
「そ、そんなの……無理よ、戦闘職の人間じゃあるまいし……」
「ええ、その通りです。ですが、魔法を使える状況であれば当然ですが貴女の事を頼りにしていますよ。なにしろ砲撃魔法の使い手ですからね……まあ、もう一人の方が役に立つかどうかも怪しいですが」
「むっ……」
リルの言葉に全員の視線がイチに集まり、この中で一番戦闘に役立ちそうにないと思われているのはイチで間違いなかった。確かに事情を知らない彼等からすれば収納魔術師であるイチが戦闘でも役に立てると思わないのは無理もない。
しかし、イチも収納魔法を研究し、最近になって収納魔法を利用した戦法も編み出した。その事を話そうとしたが、ここでイチは思い留まる。
(……まだ実戦で試した事がない戦法を自慢してどうするんだ)
自分一人だけでも魔物と戦うための方法を身に付けるために特訓してきたイチだったが、彼が編み出した戦法は実戦で利用した事はなく、そう考えたイチは不用意に自分の戦法を話す事はせず、今まで通りに戦闘には役に立てそうにない風に装う。
「出来る限り、戦闘の時は邪魔にならない様に動きますので俺の事は気にしないでください。必要な道具があれば戦闘中でも取り出して渡す事ぐらいはできるので……」
「ええ、そうしてくれると助かります。戦闘の時は大人しく、私達の後ろに下がって下さい」
「き、気にする事はありませんよ。私だって戦闘では役立つ自信はありませんし……」
「何言ってるのよ、ヒリンだって戦闘中に私達に薬を渡して援護してくれるじゃない。こいつとは違うわよ」
「ファイ、失礼だぞ!!すまない、イチ君……僕の幼馴染は口が悪くてね。気にしないでやってくれ」
「いや、気にしないでください……」
ケンはファイの代わりに謝罪を行うが、この場の人間の中で足手まといになりそうな可能性が高いのはイチだと思われても仕方がない。剣士や騎士であるケンとリルと比べるまでもなく、ファイの場合は攻撃に特化した魔法が扱え、ヒリンでさえも薬で他の仲間の補助が行える。
しかし、イチはいざという時は自分が編み出した戦法で戦う事を心に決め、特にリルに対しては内心で対抗心を抱く。理由は不明だが、先ほどから彼女はイチにだけ風当りが強く、そんな彼女の態度に苛立ちを覚え、戦闘中は何があろうと彼女の助けを借りない事を誓う――
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