第20話 意地っぱり
馬車で村に到着すると、依頼人である村長の元にイチ達は赴く。だが、この時に荷物を持っていたのはリルだけであり、その様子を見てファイが呆れながら告げる。
「あんたさ、変な意地はらずに荷物を預けなさいよ。そんなの持って戦えるの?」
「余計なお世話です。私の荷物は私が管理します」
「……まあ、別に無理に預けろとは言わないけどさ」
他の者がイチに荷物を預ける中、リルだけは自分の荷物を手放さず、自分で持ち運んでいた。別にそれほどの大荷物というわけでもないが、意地でもイチには頼らないという態度に他の者達も呆れてしまう。
リルは背中にリュックを背負っており、中身は食料と水と持参の薬が入っているらしく、決してイチには預けようとしない。彼に頼るつもりはなく、あくまでも自分で荷物を運ぶ姿勢を見てイチは相当に嫌われている事を知る。
(僕がエストさんと仲が良いのがそんなに気に入らないのかな……まあ、別にどうでもいいか)
わざわざイチがリルに気を遣う必要もなく、彼女が荷物を持ち運ぶというのであればイチの方からは何も言わない。そして村の中の村長の屋敷に辿り着くと、村長は快く受け入れてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、冒険者の皆様……私がこの村の村長を務めるロウといいます」
「どうも、初めまして……僕はケンです。この
「おおっ、貴方がそうでしたか。皆さん、お若いのに冒険者とはご立派ですな。さあ、屋敷にお入りください」
村長はあからさまな世辞の言葉を口にしながらイチ達を歓迎し、依頼内容の再確認を行い、早速ゴブリンが生息するという岩山の洞窟へと向かう――
――村から少し離れた場所に存在する岩山にイチ達は到着し、目的地である洞窟へ目指す。だが、山道を歩き続ける事に疲れたファイが途中で休憩を申し出る。
「ね、ねえっ……少し休みましょうよ。この調子で歩いていたら洞窟に辿り着く前に体力を使い果たすわよ」
「ファイ、大丈夫かい?」
「……軟弱ですね、私と違って荷物を持っていないのだから歩くぐらい何ともないでしょう」
「あ、あんたね……!!」
「ファイさん、無茶は駄目ですよ」
「水、飲みますか?」
ファイの言葉を聞いてリルは呆れた表情を浮かべるが、本当に体力の限界なのかファイは彼女に突っかかる事も出来ずに座り込む。そんな彼女を見てイチは収納魔法を発動させ、黒渦からこんな時のために用意しておいた壺を取り出す。
壺の中身は冷たい水が入っており、中には氷まで浮かんでいた。壺を置いて木造製のコップを取り出したイチは彼女に渡すと、ファイは夢中に水を飲み込む。
「んぐっ、んぐっ……ふうっ、生き返ったわ!!」
「皆も飲みます?こういう時に備えて水は余分に持ってきてますから」
「ありがとう、いただくよ」
「ありがとうございます、いただきます」
「……いただきます」
他の者もファイ程ではないが体力を消耗していたらしく、リルでさえもコップを受け取ると、壺の中の水を汲み取っての味わう。氷が入っているのでかなり冷えており、全員が水分補給を行って一息ついた。
「ふうっ……まさか、こんな場所でこんなに冷たくて美味しい水が飲めなかったよ。流石は収納魔術師だね」
「そうですね、これもイチさんのお陰です」
「一応は礼を言うわ……ありがと」
「……どうも」
イチのお陰で水分を補給して体力を少しは回復出来たため、全員がお礼を言う。あのリルでさえも感謝の言葉を告げ、少しはイチの溜飲も下がる。
これまでに様々な冒険者と活動を共にしてきたため、イチは細かな気配りが出来るようになっていた。そのため、他の者達はストレスをため込まずに仕事に集中する事が出来た――
――そして村を出てから数時間後、遂にイチ達は目的地の洞窟を発見した。事前に渡された地図を確認し、イチは間違いなく村人が示した洞窟だと確認すると、全員に頷く。
「あの洞窟にゴブリンが住み着いているはずですけど……どうします?」
「そんなの決まってるでしょ、洞窟の中に入って1匹残らず倒してやるわよ」
「貴女……馬鹿ですか?そんな危険な真似などしなくても、ここで待ち伏せしてゴブリンが現れた所を叩けばいいでしょう」
「な、何ですって!?誰が馬鹿よ!!」
ファイの言葉にリルは心底呆れた表情を浮かべ、そんな彼女にファイは突っかかろうとするが、慌ててイチが間に割って入って口を挟む。
「お、落ち着いて下さい!!洞窟の中にどれだけゴブリンがいるのか分からないのに無暗に入るのは危険ですよ!!」
「何よ、あんたもその女の味方をするわけ!?」
「そうじゃなくて……もしも洞窟の中でファイさんが魔法を使ったら大変な事になりますよ」
「大変な事って、何よ!?私の魔法の何が問題なのよ!!」
「ファイさんの砲撃魔法は凄く威力の高い魔法なんでしょう?そんな魔法を洞窟の中で打ちこんだら、洞窟が崩壊して生き埋めになるかもしれませんよ!!」
「あっ……言われてみれば」
「た、確かにその通りですね……」
イチの指摘にケンとヒリンも初めて気づいたのか、ファイの魔法で洞窟の天井が崩れて生き埋めになる姿を想像し、顔色を青くする。ファイの方もイチに指摘され、自分の魔法の恐ろしさを理解し、引き下がるしかなかった。
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