第12話 講習の終了
「――おめでとう!!イチ君、これで講習は終わりよ!!」
「や、やったぁっ……」
イチは大量の羊皮紙に記された問題を解き、それを確認したエストは満足そうに頷く。最後の講習はこれまでに習った知識の問題を全て行い、8割以上の合格だった場合のみ、講習の終了が認められる。
仮に合格点数に達していなかった場合はまた講習をやり直す必要があるが、今日まで頑張って勉強してきたイチは見事に一発で合格した。エストは羊皮紙の内容を確認し、感心したように頷く。
(まさか満点合格するなんて相当に努力したようね)
講習を修了したイチは正式に冒険者の仕事を自分で引き受けられるようになるが、エストの不安は知識の方は問題なくても彼が仕事を果たせるかどうかだった。
(この1年間、真面目に武芸の稽古も行っていたけど……冒険者という職業上、荒事も避けられないわ)
エストの不安はイチが危機に直面した時、彼だけの力で乗り越えるかどうかだった。確かに1年前と比べてイチは成長したが、それでも冒険者としてやっていけるか不安はあった。しかし、イチの事を考えるとそろそろ冒険者としての仕事を経験させて実績を上げないといけない。
実を言えばイチが収納魔術師だと知っている他の冒険者から彼が何時頃から仕事が出来るのか問い質す声もあった。冒険者にとって魔術師という職業はとにかく人気が高く、収納魔術師である彼にも注目する人間は意外と多い。
(一応、講習も全部やり遂げたし……それに何時までも雑用の仕事を続けさせる事も出来ないわね)
雑用の仕事では生活は厳しく、現在は罰としてゴズが罰としてイチの代わりに仕事を行っているが、何時までも彼に雑用の仕事をさせるわけにもいかない。ゴズが雑用の仕事を行うのはイチが講習を受け終える期間までの間だと事前に取り決めていた。
(私もイチ君だけ相手をするわけには行かないし……過保護は駄目よね)
講習を受ける度にイチがエストを独り占めしている事も問題であり、特に彼女目当ての冒険者からイチは目を付けられている。それもあってエストはイチを甘やかすわけには行かず、彼に仕事をさせる事を許可した。
「これでイチ君も立派な冒険者よ。これからは自分で仕事を決めて受ける事が出来るわ」
「はい!!分かりました!!」
「でも、イチ君だけで討伐系の依頼は駄目よ。私のお勧めは他の人と一緒に冒険して補助役に徹した方が良いと思うわ。だって、イチ君は収納魔術師だから仕方がないんだから……」
「えっ……あ、はい。そうですよね」
エストの言葉にイチは頷くが、彼女の言葉がどうにも引っかかった。まるで彼女の言い方だと収納魔術師は補助しか出来ない様にも聞こえ、イチは自分一人では仕事も出来ないと暗に言われた様な気がした。
勿論、エストがそんな事を想っているはずもなく、イチは自分の被害妄想だとすぐに理解する。しかし、エストのこの時の言葉をイチはしばらくは忘れる事が出来なかった――
――その後、イチは本格的に冒険者として活動できるようになったため、遂に
冒険都市内の中心地に存在するギルドには大迷宮に出入りするための転移魔法陣が刻まれた台座が存在し、その台座は3つ存在する。この3つの内に新人の冒険者が使用を許可されているのは左端に存在する白色の台座であり、他の二つは灰色と黒色だった。
これらの3つの台座が繋がっているのは「煉瓦の大迷宮」と呼ばれる名前通りに煉瓦で構成された迷路のような構造の遺跡に転移する。この大迷宮は1〜6までの階層が存在し、1〜3階は白色の台座、4〜5階は灰色の台座、そして最上階の6階は黒色の台座でしか移動できない。
「遂にイチも大迷宮に入るのか。まあ、安心しろよ。俺達がしっかりと守ってやるからさ」
「その代わりに俺達の荷物はしっかりと預かってくれよ。言っておくが、盗んで逃げ出そうとした許さないからな?」
「おいおい、脅すなよ。イチはそんなせこい真似をする奴じゃねえよ。なあ、イチ?」
「は、はい……」
イチは銅級冒険者の3人に同行する形で大迷宮へ挑む事になり、彼等はイチに荷物を渡す。結構な荷物があるが、イチは収納魔法を発動させて異空間に荷物を取り込む。
「
「へえ、こいつが収納魔法か!!初めて見たぜ!!」
「うおっ……本当に消えやがった」
「ちゃんと戻ってくるんだろうな……」
「だ、大丈夫ですよ……」
強面の冒険者達は黒渦の内部に飲み込まれる自分達の荷物を見て驚き、改めて彼等はイチを連れて台座の上に立つ。大迷宮へ移動するには台座を起動させる必要があり、起動を行えるのはギルドの職員だった。
「では起動させるぞ、この台座は1〜3までしか転移出来ないが、何処へ跳ぶ?」
「とりあえずは2階からでいいんじゃないのか?イチも初めてだしな、2階で適当にゴブリン共でも狩って帰ろうや」
「そうだな……よし、2階を頼む!!」
「2階だな?よし、発動するぞ!!」
ギルドの職員は台座の前に存在する小さな柱型の台座に手を伸ばした瞬間、イチ達が乗り込んだ台座に刻まれた魔法陣が光り輝き、光の柱と化す。その光の中にイチは飲み込まれると、一瞬だけ意識を失った――
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