第2話 適性の儀式

――13年前、ヒトノ王国という国家の辺境の地には村が存在した。その村で少年は生まれ、名前は「イチ」と名付けられた。イチは人間の子供であったが、彼が12才の時に受けた儀式で魔術師の才能がある事が判明する。


この国では12才を迎えると必ず儀式を受けなければならず、この儀式ではその人間の適した職業が能力が明かされる。12才の時にイチは儀式を受ける際、陽光教会という場所で彼は水晶玉が嵌め込まれた台座の前に立つ。



「緊張する必要はありません、その水晶玉に手を伸ばせば貴方の能力が判明します」

「は、はい!!」

「では……両手で水晶玉に触れてください」



イチは司祭の言う通りに両手で水晶玉に触れた瞬間、水晶玉が光り輝くと台座の前方に設置された石板に光の文章を映写する。その文章にはイチが適している職業と能力が明かされ、この時にイチは魔術師の才能がある事が判明した。



「こ、これは……貴方には魔術師の才能があるようですね」

「ま、魔術師だって!?」

「それは凄い!!この村で魔術師の才能を持つ子供が生まれるなんて……」

「いや、この村どころか人間でありながら魔術師の才能を持つ者なんて滅多にいないぞ!!」

「え、えっ?」



周囲の人間はイチが魔術師の才能を持つ事を知って騒ぎ出し、当の本人は戸惑うが司祭はイチの両肩を掴んで説明する。



「イチ、あなたに適した職業は魔術師です。しかし、貴方が扱える魔法に関してはこちらでは分かりません……紹介状を書きますのであなたは冒険都市に行きなさい」

「ぼ、冒険都市!?それってあの有名な冒険者がいっぱい暮らしている都市の事ですか!?」

「ええ、そうです。残念ながらこの教会の水晶玉ではあなたが適している魔法の属性は分かりません。しかし、冒険都市に行けばここよりも詳細に貴方の能力を調べられる検査を受けられます。貴方はそこで才能を磨くべきなのです」

「は、はあっ……」



村の教会にある水晶玉ではイチがどんな魔法を扱えるのかまでは分からず、司祭は村から最も近い都市の教会でもう一度儀式を受けるように促す。それを聞いた彼の家族はイチを励ます。



「良かったな、イチ!!お前が魔術師だなんて……父さんは嬉しいぞ!!」

「ええ、母さんも嬉しいわ!!」

「良かったな、兄ちゃんなんてただの農民だから羨ましいぞ!!」

「いや、あのっ……」

「さあ、早く出発するんだ!!安心しろ、都市までの旅費は出してやる!!魔術師になれれば仕事なんてすぐに見つかるさ!!」

「ちょっと待って、話を聞いて……」

「善は急げだ!!明日、父さんの知り合いに商人がいるから、お前を都市に出向く時に一緒に連れて行くように頼んでやる!!」



イチの家族は彼が冒険都市に行く様に勧め、その言葉にイチは言い返す暇も与えない。この家族の反応を見てイチは理解した、表面上は家族はイチを応援しているように見えるが、実際は違う。


彼の両親は実は血は繋がっておらず、イチは生まれたばかりの頃に実の両親を事故で亡くし、その後に両親の親戚に引き取られた。つまりの今の両親と兄はイチとは血が繋がっておらず、彼の事を妬んでいた。



『ねえ、貴方……あの子、何時まで育てればいいのよ。あの、不気味で仕方ないわ』

『大丈夫さ、あいつも12才になれば儀式を受けてどの職業に適しているのか判明する。そうすれば適当な村か街に送り込んで働かせればいい』

『ちっ……母親と同じで不気味な黒髪と瞳しやがって』



イチを育て上げた義両親とその息子は彼が「黒髪黒眼」である事に不気味に感じていた。この世界の人間の中で黒髪は非常に珍しく、滅多にいないので目立ってしまう。


彼の本当の母親は黒髪黒眼の女性だったらしく、イチが生まれるまでは冒険者として活動していた。それなりに有名な冒険者だったらしいが、父親と結婚した時に冒険者を辞めて彼の村に共に暮らす。しかし、ある時に二人とも事故に遭って死んでしまい、その後に赤ん坊のイチは父親の弟に拾い上げられた。


赤ん坊だったので流石に見捨てる事は忍びないと思った義両親であったが、彼が母親と同じく黒髪に黒眼をしていた事から不気味に思い、腫物のように扱っていた。しかし、魔術師の才能があると知った途端に冒険都市に向かわせようとしているのは一刻も早く、自分達の元から追い出したいという気持ちを子供でありながらイチは感じとる。



(ああ、そうか……この人達は)



子供心にイチは両親や義兄が自分を追い出そうとしている事に気付き、その事実を知ると悲しみよりも怒りを抱く。どうして黒髪という理由だけでここまで蔑まされなければならないんだと思い、イチは決心した。




「明日なんて待ってられない、今日中に村を出て行きます」




イチの言葉に誰もが驚いたが、彼は言葉通りに本当に今日の間に準備を終えて出て行った。義両親と義兄が自分の事を捨てるつもりならば彼等が行動をう移す前に自分自身でイチは家族を見限って出ていく事にした――

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