第62話 模擬戦開始[一日目]


ベルフェリア=クシアラは小柄で小動物みたいな可愛らしいご令嬢だ。


ベルフェリア=クシアラはドラゴン生息地のヘルベェル領の領主の娘で『破壊姫』と呼ばれている。


ベルフェリア=クシアラの愛用武器はミスリル製の超大型ハンマーだ。


そんな小柄で可愛いけど、ハンマー握らせたら破壊姫に変身するらしいベルフェリアの後を、大人しく歩いている。


「リジューナ、こちらかしら?」


「はい、そのまま真っ直ぐ……」


只今、模擬戦の『鬼ごっこ』の真っ最中だ。


私はベルフェリアがいつハンマーを取り出して破壊しまくるんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら魔力を感じる方向を案内している。


鬼役の団体行動案は担当の先生から却下された。


「流石にそれは許可出来ないよ。そうすると逃げる生徒達も団体行動を許可しないといけないし、オーデンビリアさんも全生徒と対峙するなんて嫌だろう?」


嫌どころか、攻撃出来ないので無理なんですけど……


という訳で先生から許可のでた、二人一組ならOK!で二組に分かれようと思ったけど、殿下推しと私かベルフェリアがペアになれば、婚約者のルミエラがいるのに問題あり……となりそうだった。


でもな~ぶっちゃけて、パワーバランス的にベルフェリア>ジルファード殿下>私>ルミエラなのだけど、私が異世界チートで補助魔法が完璧なのでベルフェリアとペアになると、最強TUEEEE!状態になっちゃうんだけど……まあいいか。


「殿下、ルミエラ。私とベルフェリアのペアが妥当では?」


私がそう提案すると、ベリフェリアは直ぐに頷いてくれた。しかしジルファード殿下が渋いお顔をされている。


「女子二人では危険では?私が一人で行くから、ルミエラたちは三人の方が良いと思うよ」


「おひとりは危険です!」


「危険です」


私と……殿下の護衛の近衛騎士団のお兄様が静かに反対された。


当然ながら学園内の課外授業とはいえ、王族のジルファード殿下には護衛がつく。


チラリと近衛のお兄様達を見た。


本日の護衛はマグリアス叔父と仲の良い、テイン=リーグルド卿がメンバーにいる。


リーグルド卿は私の視線に気が付いてこちらに目を向けてくれた。


「副団長から『鬼ごっこ』の模擬戦の懸念事項をお聞きしております。追われる側の生徒も鬼に触れることが出来ると、鬼に捕まった生徒が一斉解放されるお約束があるとか……殿下に生徒が直接触れることは護衛として許可出来ません」


そうリーグルド卿の仰る通り……この鬼ごっこのルールでは鬼が生徒を捕まえると、捕まえた生徒は鬼ヶ島に収容される。そして捕まっていない生徒が鬼役に触れて『鬼切った』と言えば、鬼ヶ島に捕まった生徒が逃げ出せるというルールがある。


変則的だけど、ケイドロという鬼ごっこ遊びの一種だろうと思う。


こういうルールのせいか、この模擬戦の授業は三日間かけて行われる。


そう、三日もこの鬼ごっこをしていなければならないのだ。


「鬼役の生徒は捕まえた生徒に逃げられると減点されると聞きますし、沢山の生徒を捕まえることが出来ても、おひとりで歩いてると『鬼切った』を仕掛けられる危険性が増えます。独り歩きは得策ではありません」


私がそう言うと、ジルファード殿下は納得したのか、ルミエラを連れて行くことを了承してくれた。


殿下達の方は、護衛の方もいるし大丈夫でしょ。問題は……私とベルフェリアの方だけど。


因みに私の方は護衛はいない。特例として王族だけが護衛の持ち込み?可なのだ。


「大丈夫よ、リジューナ!私がいるからね」


うん、ベルフェリアは鬼役に最適な人選だと思うよ。狩猟一族の血が騒いでるんでしょ?ミスリルハンマーが唸りを上げるんでしょ?


私は応援だけしておくわ。平和な元、大和民族よ?農耕民族なめんなよ?


私は潔く、魔力感知レーダーの立ち位置に鎮座した。


「ベルフェリア、半径三メートルに魔力の反応が五個あります」


「了解っ!」


ベルフェリアがミスリルハンマーを担ぎ上げると、瞬時に消えた。


ドカッとかバキッとかの打撃音と一緒に微かに悲鳴が聞こえる。


「殺してないよね?大丈夫よね?」


つい、独り言を言ってしまう。


「捕~まえた!」


元気なベルフェリアの声が響いたので、私はゆったりと声の聞こえた方へ歩いて行った。


繁みの奥を覗き込むと、五名の男子生徒が地面にへたり込んでいる。


良かった……怪我してなさそう。


「怪我はありませんね?」


私が尋ねると、顔見知りの伯爵子息が泣きついてきた。


「リジューナ様っ見逃して下さいよ~筆記苦手なんです。ここで減点されたら追試に……」


あらまぁ~それはそれは……


「甘いっ!!」


ブンッ!!とミスリルハンマーが唸りあげた。


「そんなものは拳で奪い返せば良いのです!」


……ベルフェリア、そんなの貴女しか出来ないよ。


ベルフェリアは無情にも、伯爵子息の腕の腕章を叩いた。


腕章に書かれた『2−C』の文字が赤色に変化した。


「鬼ヶ島にいってらっしゃいませ」


ベルフェリアはニッコリと微笑みながら他に捕まえた生徒の腕章を叩いて回った。


「うわぁ…嫌だぁぁ……っ…」


叫び声をあげながら生徒達は掻き消えた。


「はい、捕獲」


ベルフェリアに任せておけば、私の出番はなさそうだ。

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