第43話 モブ悪役令嬢VSモブ令嬢
まあさ~性格が少々難ありでも、王子とかお金持ちとかだけでも女子は群がる訳よ?
ほんのり妖精成分が滲み出ているだけのルナセイル殿下の周りを女子生徒が取り囲んでいた。
もうすぐ授業始まるんじゃない?早くして欲しい……
ん?よく見ると……取り囲んでいる女子の中に、サクライマホがいるではないかっ!
あの子何やってんの?
サクライマホは移動を始めたルナセイル殿下に引っ付いたまま、一緒に移動して行った。
……あれ、私達のこと放置か?
「……ふぅ、俺達も戻ろうか」
門前で取り残されてしまって茫然としていると、ヴェスファード殿下が声をかけてくれたので、ジルファード殿下とルミエラ=ファーモル公爵令嬢と共に教室へと歩き出した。
「あのリジューナ様……不敬を承知で申し上げますが」
ルミエラ様が声を潜ませて話しかけてきた。私が顔を寄せるとルミエラ様も顔を寄せて来る。
「ルナセイル殿下って、その……お馬鹿なのですか?」
「……そのとおりょぉ!やっぱり分かるぅ?」
私が元気良く答えると、ルミエラ様も笑顔になった。
「やっぱりそうですか。両殿下にご挨拶もされないままだったので、もしや?と思ったので」
オホホ……と笑いながら結構な辛口発言をしたルミエラ様。
ルミエラ様は他国の王子妃候補に選ばれるような、品格を備えた淑女の中の淑女だが、中々の毒を含んだご令嬢だ。
はっきり物申す性格な為、敵も多いがそれと同時にその男前な性格に心酔する女子も多い。
「あら?あの方は……」
そんなルミエラ様が、見た方向に私も目を向けた。
ルナセイル殿下御一行が歩いて行く後を少し離れて、制服に身を包んだ女の子が歩いている。
「初めてお見掛けする方ね」
「そうね、見かけない方ね……もし!そちらの方!」
ルナセイル殿下の後を追っているように見えたので、殿下の留学に随行してきた御側付きの高位侍女かと思って声をかけてみた。
振り向いた女の子は私達と同年代と思われた。少しキツめの美人だが、こちらを見る表情は強張っている。
「いきなりお声がけしてごめんなさいませ。ルナセイル殿下とご一緒に留学されていらっしゃったのかしら?私、リジューナ=オーデンビリアと申します。お名前お伺いしても宜しくて?」
私がオバ圧を極力、圧えながら女の子に聞くと女の子は少し表情を和らげた。
「初めまして、ペリア=ノエルグと申します。この度はルナセイル=ヘラヴェルガ殿下と共に留学して参りました」
カーテシーをした女の子がペリア=ノエルグと名乗った瞬間、ヴェスファード殿下が一歩前へ出て来た。
「あ、令嬢がルナセイル殿下の婚約者か」
「!?」
ヴェスファード殿下の言葉に皆が驚いて固まってしまった。
このご令嬢があの、うるせールナセイルの婚約者?
婚約者と言われて、ペリア=ノエルグ嬢は一瞬、困った顔を見せたがすぐに笑顔を見せた。
「まぁ……それにしては、殿下は先を行かれて……」
ルミエラ様がチラリと先を行く婚約者放置のルナセイル殿下に若干厳しめの視線を送っていると、ジルファード殿下がルミエラ様の肩に手を置いた。
「ルミエラ、来たばかりでノエルグ令嬢も不安だろうし、後で学園内を案内してあげようね」
「ジルファード殿下っ!」
険しい表情をしていたルミエラ様が
流石っ!私達の推しねっ!恨み言は心根を腐らす……よね!清き心を育むように心がけねばね!
その時、何故かペリア=ノエルグ令嬢が小さく悲鳴をあげた。
「ひっ!?ジルファ……」
んぇ?今、推しを呼び捨てたとも聞き取れる言葉がノエルグ令嬢から聞こえた気がしましたが?
私とルミエラ様が、一斉にノエルグ令嬢を見詰めると、令嬢はブルブル手を震わせながらルミエラ様を指差していた。
「あんたがあの悪役令嬢っ!?」
「は?」
一気に正門前の気温が下がった。
いや、実際に冷気が吹き込んできて私達の周りで渦を巻いている。
この寒い風は……ルミエラ様の魔法だ。
「あくやくれいじょう⤴?」
指を差されてしまったルミエラ様が、笑顔のまま聞き直しているのが怖いっ!
突然の事に驚いて固まっていたが、ルミエラ様がペリア=ノエルグ令嬢に一歩近付いたのを見て我に返った。
ルミエラ様とペリア=ノエルグ令嬢の間に体を割り込ませると、ペリア=ノエルグ令嬢の手首を掴んでグイッと顔を近付けた。
「詳しくお話を伺いたいので、後ほど宜しくお願いします」
ペリア=ノエルグ令嬢は目を見開いて何度か頷いている。
私はペリア=ノエルグ令嬢の手を離すと、ルミエラ様に向き直った。
「ルミエラ様、ペリア=ノエルグ令嬢は長旅でお疲れのご様子ですわ。もう一限目の授業が始まりますし、詳しくは放課後になさいませんか?」
私が早口に捲し立てると、ルミエラ様は何度か瞬きをした後に一歩後ろに下がってくれた。
よしよし。
ジルファード殿下に促されて移動し始めたルミエラ様の後を追いながら、横に並んできたヴェスファード殿下に耳打ちした。
「殿下、先程のペリア=ノエルグ令嬢の言葉は聞かれました?」
「ああ、ルミエラ嬢を悪役令嬢と呼んでいたな。おまけにジルを呼び捨てにしようとしていた。あの言い方や態度と物腰……もしかすると俺達と同じモブ召喚かもな?」
モブ召喚……その通りだけど、改めて言われると凄いパワーワードに聞こえる。
そう、ここに来て初めてヴェスファード殿下とサクライマホ以外で初めてかもしれない……小説の世界に転生してきたモブの出現だ。
私とヴェスファード殿下の後から大人しくついて来るペリア=ノエルグ令嬢の姿をチラ見しながら拳を握り締めた。
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