第42話 少しはマシになった?
オーデンビリア公爵家にヴェスファード殿下と共に戻ると、フレデリカママンが珍しく困ったような顔をしていた。
妖精フェイスに翳りが出ている……どうしたの?
「はぁ……困っちゃったわ」
深い溜め息をつきながら、ママンが事情を話してくれた。
「ヘラヴェル帝国から、ルナセイル殿下が留学して来るのですって」
ルナセイル殿下ってフレデリカママンの甥っこで、つまりは私の従兄でヘラヴェルガ帝国の皇子殿下のこと?
数回しか会ったことないけど……あの子って、めっちゃ性格悪くなかった?
ママンはまた深い溜め息をついた。
「どうしてわざわざうちに来るのよ、北のエスカレイド帝国の方が各国の王族が挙って入学している『ガレリアンデル学園』があるじゃないのぉ」
それなっ!
はっきり言っちゃうと、小説の『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』の舞台になっている我が国、ヒルジアビデンス王国ってめっちゃ小さい島国なのよ。
その島国の海の向こう側の場所に、ママンの故郷のヘラヴェルガ帝国(南側)があって、その北側にエスカレイド帝国があるのだ。
元々一つの国だったヘラヴェルガとエスカレイドは歴史も古く、ママンが先程ボヤいていたガレリアンデル学園は現エスカレイド帝国領内にある、この世界で最古と言われている高貴な方々が挙って入学する、非常に格式ある教育施設なのだ。
普通の王族ならヒルジアビデンスなんて、ちいさーい国の魔術学園なんて留学して来ないはずなんだけどねぇ。
「ヘラヴェルガの皇帝陛下、フィールお兄様が私やリジューナ達も居るからと、ルナセイル殿下をこちらに留学させたのだと思うけれど、リジューナも会ったことあったわね?」
「うん……」
私の覇気の無い返事を聞いてフレデリカママンは、そうよねぇ~と大きく頷いている。
「ルナセイル殿下と何かあったのか?」
ヴェスファード殿下が私に聞いてきたが、フレデリカママンが代わりに答えてくれた。
「最初にリジューナに会った時に酷かったものね~『私こそが高貴な出自だ。従妹だとしてもお前とは身分が違う!親し気に口を聞くのは不敬だぞ!』だったかしら?その後に『リジューナもナミアとラナニアスも随分と凡庸な容姿だな!ヘラヴェルの血筋とは思えんな!』とまで言ってたわよね……はぁぁ」
ママンよほど頭に来てたのね、ルナセイル殿下のムカつく発言を一語一句間違わずに覚えてる。
ママンの溜め息も分かるよ。
ナミア姉様もラナニアス兄様もこの妖精フェイスのママンの子供だよ?おまけにパパンは精霊様みたいな美貌だよ?
はーい!ここでルナセイル殿下に残念なお知らせがありますぅ。
フレデリカママンのお姿→妖精の如き美貌。
ラバーノ皇弟殿下のお姿→若干妖精成分を感じる、お年の割には童顔で可愛いお顔。
現ヘラヴェル皇帝陛下のお姿→妖精成分と可愛さが全部抜けた、丸っこい狸顔。
つまり言い方は悪いが年齢の順番に美貌成分が絞られて、ママンに美が凝縮したみたいになっているのだ。
一番上の兄が搾りかす状態になっている……兄妹ってさ、よく見れば顔のパーツは似ているんだけど、パーツが顔に配置された違いで微妙に惜しい顔になることがあるじゃない?
それの振り幅が広がったのが、ヘラヴェル皇族兄妹という訳なのだ。
そんな狸顔の伯父様から生まれた、ルナセイル殿下に奇跡(!)が起きて、ちょっとだけ妖精フェイス寄りなのは認めてあげるけれど、お前がナミア姉様やラナ兄様に向かって美醜を語るな!百万年早いわっ!
「あの時のフィールお兄様……皇帝陛下の慌てようは凄かったわね。ルナセイル殿下を叱責したけれど、ミレーヌ妃殿下が庇っちゃうし~ナミアとラナニアスが怒ったから、ルナセイル殿下は泣きわめいて大暴れしちゃったし」
ミレーヌ妃殿下とは、ヘラヴェル帝国が15年前の独立の際に、近隣の小国と同盟を結んだ同盟国の王族のご出身だ。
ハッキリ言って現皇帝陛下のフィール伯父さまとは同盟国からの輿入れで、バリバリの政略婚だ。
そんなミーレヌ妃はヒルジアビデンスのオーデンビリア公爵家に降嫁して嫁いだ、フレデリカママンを見下している。
もっとはっきり言っちゃうと、オーデンビリア公爵家とヒルジアビデンス王国を見下している。
初めて会った時に、嫌~な魔力を発していてフレデリカママンを牽制していたのは忘れられない。
ヴェスファード殿下は話を聞きながら首を捻っている。
「私はルナセイル殿下に会ったことはないな……ヘラヴェル帝国の皇弟殿下には何度かお会いしたことはあるが、皇弟のラノーバ殿下は人格者だし、ご子息のヴェレフス殿下も穏やかなで理知的な方だと思うが、ルナセイル殿下は……酷いのか?」
ヴェスファード殿下の言い方!
フレデリカママンは苦笑しながら
「我儘、傲慢、不遜……皇族とはいえミレーヌ妃殿下の影響を受けている、とも言えるわね。もう14才だし、少しは皇族の自覚が出ているかしら?」
と、相変わらずの妖精フェイスで毒を吐くフレデリカママン。
ママンの言葉を聞いてヴェスファード殿下が突然、高笑いをした。
「いやいや~ここでも中二病な子供に会えるとはな!」
「……」
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そうこうしている間に、ルナセイル殿下がヒルジアビデンス王国に留学の為に来訪して来た。
私とヴェスファード殿下、ジルファード殿下とルミエラ=ファーモル公爵令嬢でジュ・メリアンヌ学園の正門前で皇族御一行様をお出迎えすることになった。
煌びやかな馬車の列が学園の門前に停まった。
その中の一段と派手な装飾の馬車からスラリとした長身の男が出て来た。
丸顔の狸……ではなくなった、ルナセイル殿下だった。
成長と共に、フレデリカママンに若干……若干似てきた気がする。
ルナセイル殿下は門前に並んだ私達を見て、ニヤリと笑って見せた。
あれ……まさか?
「なんだぁ?相変わらずの凡庸な容姿だな!」
…………………………心の方は成長しておりませんでした。
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