第41話 推し仲間?

ヴェスファード殿下を魔法攻撃して来たのは、ドラゴン討伐に付いて来ていた魔術師の一人だったが、魔術師は無実を訴えた。


詳しく尋問を行ったところ、魔術師は捕縛魔法をに向けて放ったので、決してヴェスファード殿下を狙った訳ではないと、訴えたらしい。


暫く、故意か過失かで尋問した騎士団でも揉めたらしいが、ドラゴン討伐の際にヴェスファード殿下が空中で要らぬ動き(ムーンサルト等)をして、他の魔術師の方から加勢しようにも殿下の動きが読み辛いうえに、体に当ててしまいそうで出来なかったとの証言があったりとかで、過失扱いになった。


オタクの奇行が仇になったのだね、うん。


まあ、それはよいとして……今、私は非常に困っている。


私の目の前にはネイサン義兄様とアサイラ=イコリーガ様、そして魔術師団団長の三人が私の対面のソファーに腰掛けてよい笑顔で見詰めて来ている。


「さあ、リジューナ。掌にマジックバッグを展開してみようか?」


ネイサン義兄様がにっこりとしながら魔圧を放って来る。


因みに魔圧とは、威圧や剣圧的な目に見えない圧力のことである。


更に私には魔力が視えるので、魔圧をかけられると重みを感じる魔力の塊を頭に乗せられているみたいになるのだ。


「え~と、どうやって出すのかな?」


わざととぼけてみたが、魔術師団長が怖い顔で睨んでくるので根負けして『ぽいっとボックス』を掌の上に出すことにした。


う~んと、どれを出して見せようかな?ぽいっとボックスの中に入っているのは小説があるけど、あれは異世界のもので見せられないし……あ、この間入れちゃった魔獣のリズムがいるじゃない!


そうアレを出して……あの魔獣ってぽいっとボックスに入れた時に生きてたよね、生きてる……ん?何か忘れてるなような?


そんな時、掌の上にぽいっとボックスから出して来たリズムが落下してきた。


リズムさんは舌がデロンと伸びて口から零れ、目は眼球が無くなり空洞になっていた。そしてとんでもない異臭を放ちながら……そうリズムさんは既に……


「んっっっ!?んぎゃあああああ!!!!」



°˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧



忘れていた……自称神様の袋とじに書いてあったじゃない。ぽいっとボックスに『動物や人間は入れちゃ駄目だぞ☆彡』て、あったじゃないの。


入れちゃ駄目ということは、入れたらどうなるか保証できないということだったのだ。


「グロを目の前で見てしまった……」


しかも手でリズムさんの亡骸を触ってしまったので、リアルな感触が残ってて気持ち悪い。おまけに臭いも嗅いでしまったので、若干もどしそうになっている。


そんな私の肩を掴んで、怖い顔をグイッと近付けて来る魔術師団長。


「いやいやうっかりしていたよ、亜空間に吸収された生物は空間内で生存出来ないのだったよ。この生物が異空間で生存出来ない現象はまだ解明されていなくてね、亜空間連結の魔法を使える術者が稀有なうえに生物を空間に閉じ込めて生物実験を行うと、どこぞの煩い団体が騒がしくてね。しかし亜空間連結が魔道具を介さなくても展開されるとは大発見だね。これは魔術師団が全勢力を以てして原因と術式を解明しなくてはならないことだな。それにだね……」


……なんだこの魔術師団長おっさん


聞いてもいないのに、ベラベラと喋って来る姿に既視感を覚える。どこかのオタクに似た早口で熱く語る姿は真豪ことなき異世界の魔術オタクだ。オタクという生物の行動珍妙発言は全異世界共通なのかもしれない。


私はオタクの猛攻をなんとか退けて、魔術師達の居る学園の来客室から逃げ出した。


放課後のジュ・メリアンヌ学園の渡り廊下を少し急ぎ足で歩いて行く。


急ぐ必要は無いのだけれど、待たせていると思うと気が焦る。


渡り廊下を抜けて、中庭へ出ると庭を突っ切った奥の小道に入って行く。


やがて視界が開けて来ると大きな温室が現れた。


温室の扉を開けて中に入ると、外気温より少し暖かい。温室の小道を更に奥へと進んで行くと、開けた場所で


「やあ、どうだった?」


と、言ったヴェスファード殿下と共にジルファード殿下……そしてルミエラ=ファーモル公爵令嬢がお茶をしながらこちらを見ていた。


ルミエラ=ファーモル公爵令嬢はジルファード殿の婚約者になった。


ヴェスファード殿下は二人の婚約がシナリオの強制力だぁ~付喪神の陰謀だぁ~とか叫んでいたけど、私はそうは思わない。


だってね、ルミエラのジルファード殿下を見る目がうっとりしているんだよね。


そう、私には分かる!!あれは、推しを愛でる目だぁぁぁ!!!


ああっ……同志よ!ルミエラ様は私と同じジルファード殿下が推しだと、あの目が物語っている。


ああ、ルミエラ様に聞きたい。そして語り合いたい。


そんな私の心の中の叫びを知らないであろうジルファード殿下が、私を手招きしているのでフラフラとジルファード殿下に近付いて行った。


「お疲れ様、リジューナ。魔術師団長は何て言ってたの?」


ジルファード殿下の天使の微笑みを見ながら、ヴェスファード殿下の隣に着席した。


私がマジックバッグの話をしようとしたところへ、メイドのメメが静かに近付いて来た。


「リジューナ様、奥様が至急お屋敷に戻るようにとの事です」


「!?」


フレデリカママンから至急なんて言葉、初めて聞いたよ。


何だか非常に嫌な予感がするね……


「よしっ!俺も行くぞ!」


………どこかのオタクが付いて来るので、更にもっと嫌な予感がするのは気のせいだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る