お呼びじゃないけど、オバサン令嬢頑張ります

第40話 おっさん達は無茶を言う

巨大な深紅色のドラゴンが再び咆哮した。

うわぁ……口を開けた時に大きなお口の奥に炎が見えたよ。もしかして異世界界隈で有名なドラゴンブレスってあんな風に口から出てくるのかな？

先程から横に居るジェシカお姉様が緊張した魔質を出しているので、私も緊張してきた。ところが真っ先にビビって騒ぐかと思っていた神官達が急に喜びはしゃぎ始めた。

ん？おじさん達はどうしたのさ？

「おおっ丁度良い所にドラゴンが現れたではありませんか！」

「ささっ聖女様、このドラゴンを浄化してしまいましょうね」

おぃ！？おっさんっ！何を簡単に言っちゃってるんだよ？サクライマホのウリ坊への浄化魔法見てただろ？あんなふらっと飛んでいく魔法しか放てないのに、あんなドでかいドラゴンにヘロヘロ浄化魔法が通用する訳ないじゃない！

「ヤ……ムリっぽぉ……」

サクライマホは顔を真っ青にしてブンブンと首を横に振っている。

そりゃそうだ、誰がどう見ても無理ゲーだ。そんな中、空気を読まないオタク（殿下）が叫んだ。

「やる気が無いのならそこで見ているがいいっ！」

そう言い捨てて、高く跳躍するとドラゴンの真上に飛び上がった。

あれ？なんだか空中に留まってない？え？

「おおっ！？風魔法の上位魔法の飛空かっ！」

「流石殿下っ！上位魔法をもう会得されているとは！」

ヴェスファード殿下の姿を見た軍のお兄様達の解説＆賛辞が沸き起こる。

あぁ……あんまりヴェスファード殿下を褒めないで欲しいのよ、だってね……

「ぐははははっ！我、孤高にして最高の覇者なりぃ！！」

……ホラ調子に乗るからさ、アレは。

殿下は空中で意味の無いムーンサルトをしてから、ドラゴンに向かって魔法を放った。

「くらえぇぇ！ドラゴンクラッシャァァァ！！！」

「そんな魔法はねぇよっ！」

思わず精髄反射でオタクに突っ込んでしまったが、殿下の放ったのは一応ちゃんとした（？）氷属性の魔法だったようだ。

轟音と共に巨大な氷柱がドラゴンの腹部を貫き、地面に縫い付けられたドラゴンはもがきながらも動きを止めた。

「その首っ貰ったぁぁ！……っ！？」

ヴェスファード殿下はそう言って剣を手に急降下してドラゴンに向かって行った。

その時、殿下に向って魔法が飛んできた。どのような魔法かは瞬時には判断出来なかったけど、殿下の足に当ったようで殿下が体勢を崩した。

「あっ！？」

殆ど無意識でヴェスファード殿下に向けて防御魔法を放っていた。殿下は体勢を崩したまま、豪快にドラゴンにぶつかってしまった。

しかしそこは殿下、ぶつかった反動で空中に投げ出されたものの、クルリと一回転して地面に綺麗に着地した。

そして着地してすぐに立ち上がって私にサムズアップを見せてくれた。

良かった……防御魔法のお陰か怪我はしていないみたい。

「殿下、大丈夫ですか！？」

皆が急いでヴェスファード殿下の傍に駆け寄った。

「馬鹿もんがっ！空中で体勢を崩すなど鍛錬が足りぬ証拠だ！」

一緒に来ていたレヴァクーダ公爵閣下がヴェスファード殿下に怒っている。どうやら閣下は殿下が落下した原因が魔法だと気が付かなかったらしい。

私はマグリアス叔父様を見た。叔父様は私の視線に気が付いて、こちらを見ると頷き返してくれた。

よし、叔父様も気が付いている。

続けてネイサン義兄様も見てみると、難しい顔をしたまま私に頷いてくれた。

よし、義兄様も気が付いていると……

その他にも何人かの軍のお兄様や魔術師の方が、心配そうに私の顔を見ている事に気が付いた。

そうか、気が付いてる人もいる、やっぱりそうだよね。

ヴェスファード殿下に向って魔法が放たれた、つまり殿下の命を狙うつもりだったってことだよね？

はっ……狙った奴いるんだよね？うっかりしてた！追いかけないと！？

今頃気が付いてオロオロしていると、ソッと私の肩に手が置かれた。

ジェシカお姉様だ。

「大丈夫さ、殿下の護衛が捕縛したみたいだよ」

「そ……そうですか」

捕縛……良かった。犯人が捕まったってことだよね。

ヴェスファード殿下は氷柱に撃ち抜かれたまま、まだもがいているドラゴンを一瞥した後にサクライマホに向かって叫んだ。

「おいっドラゴンの動きは封じてあるから、今のうちに浄化魔法を練習すれば？」

「まあっ！」

敵に塩を送ってあげるなんて……！

つい最近までサクライマホに嫌トメ発言を連発していたとは思えないほどの、心の成長ね！

サクライマホはそんなトメ殿下の発言に驚きつつも、神官達に付き添われてドラゴンに近付いて行った。

そうそう、動いてるから怖いけど動きを封じていれば怖さは半減だものね。

サクライマホはウリ坊と対峙した時のように、足を広げて踏ん張って立つとドラゴンに向けて両手を突き出した。

そしてヘロヘロ浄化魔法がゆる～くドラゴンに当たった。浄化魔法が当たると一応ドラゴンが痛がってくれているみたいだ。

とんだ茶番だな……そう思っているとドラゴンが痙攣しながら倒れ込んでしまった。

それを見て神官達は大はしゃぎだ。

「や、やりましたなっ！」

「流石、聖女様っ！」

「……」

やっぱり茶番じゃない。恐らく致命傷はヴェスファード殿下の放った氷柱の魔法だと思うんだけど。

気になってヴェスファード殿下をチラリと見たけれど、何か目配せをしてきた。

……残念だけど、特殊な技能を持ってないので殿下の目配せの意味は分かりません。

取り敢えず、怪我もなくドラゴン討伐が終わったことに安堵したのだった。