第9話 クワンティコ航空施設


【18日目 午前 ワシントンD.C郊外の高級住宅地カロラマ地区】



 大統領との面談後2週間たった。ちょっと遠いけどワシントンの南50kmほどにある海兵隊クワンティコ航空施設の演習場を借りて魔法の訓練をすることにした。


 車で一時間ほどで着くので丁度いいロケーションである。ここには海兵隊の士官養成学校が隣接していて訓練設備も充実しているんだって。




 ちなみに今日から日本の総理大臣が急遽渡米して来て日米首脳会談を行うらしい。総理大臣も大変だね……なんか外務・防衛両大臣も同行して大訪米団になってるらしい。日米外務防衛閣僚協議2プラス2も行われるとのこと、日本の総理大臣さんたち、ご苦労様です。





 さて、車に乗って移動と思ったところ。コリンズ海兵隊大将が言うには、ホワイトハウスの南側サウスローン(芝生の広場)から海兵隊のMVー22Bオスプレイで空輸してくれるとのことだ。


 そうなんですか? なんか悪いですね……でもちょっと目立ってしまうのでは? ええ、大丈夫ですか、私も海兵隊の戦闘服を着ろと。なるほどなるほど、確かにそれならば目立たず大丈夫でしょう。私の階級章はついてない? はい、シビリアンのスタイルですね、了解です……




 海兵隊MVー22Bオスプレイが爆音を響かせながらホワイトハウス南に広がる芝生広場に着陸した。エンジンは回しっぱなしなので五月蠅い……ホワイトハウスのこんな近くに着陸するんだ……



 迷彩戦闘服を着た海兵隊大将を筆頭に海兵隊上等兵と階級章ナシのシビリアン、そして空軍の迷彩戦闘服を着た空軍少尉。

 以上の訳の分からない4人のメンバーに加えてシークレットサービスの護衛隊員5名がオスプレイに乗り込み一路バージニア州にある海兵隊クワンティコ航空施設へ。ワシントンから50kmほど南のポトマック川西岸にあるこの飛行場は、アメリカ合衆国大統領の空輸を担当する飛行隊である第1海兵ヘリコプター飛行隊の本拠地でもある。10分くらいの飛行であっという間に到着。




 出迎えの第1海兵ヘリコプター飛行隊司令の挨拶を「ご苦労」と一言軽く流すコリンズ海兵隊大将……素晴らしく良い弾除けとなってくれていますね……

 この一行のボスはどこからどう見ても彼です。コリンズ海兵隊大将の御蔭でノーリスクで最高級の待遇を得られて超便利、さすが第1使徒です。




 車で10分ほど走ってクワンティコ航空施設付属の演習場入口に到着。車はここにデーンと道を塞ぐように停車させてシークレットサービスの5人には待機してもらう。




 演習場の出入り口と外周には第1海兵ヘリコプター隊から派遣されている警備要員が多数詰めていて警備にあたっていた。聞くところによると、演習場の内部は昨日から一日かけて虱潰しに検索、中に誰もいないことを確認後に演習場外周を海兵隊員で固めて見張っていたとのこと。

 ……第1使徒のコリンズさん、さすがは海兵隊大将ですね、やることが徹底しているし、やらせるパワーがあるのが素晴らしい。目立っていなければいいけど……いや、当然に目立ってるよね、まあ、いいでしょう。魔法使って飛んでるとこ写真やビデオに撮られちゃうこと考えたら必要経費だよね。




 私、第1使徒コリンズ海兵隊大将、第2使徒ミラ・アンダーソン海兵隊上等兵、第3使徒エマ・ベーカー空軍少尉の4人だけで演習場の中央に進んでいく。


 今回の検証は攻撃魔法と身体強化を使ってみて使用感を確認すること。そして異世界イースと地球で何か異なるところがあるのかを把握すること。半径20mの範囲でしか魔術は使えないのでその影響について把握すること。




 今日に備えて米軍制式ライフルであるⅯ4カービンを強化プラスチックを使って見た目完全に模した個人携行神器を作成した。


 銃身はレベル5攻撃魔法に適した口径12.7mmのバレルとレベル4攻撃魔法に適した口径7.62mmのバレルを束ねた形状のものを障壁を用いて作成。これはイマイチ射撃精度が低い攻撃魔法の発射アシストをするためのものなのです。銃身の下部にはピカティニーレールを備えておりフラッシュライトみたいな怪しげな筒が装着されている。隠蔽用障壁を展開できる神器です。


 この隠密用神器は半径1mの円盤状の隠蔽用障壁を展開できる。敵から見れば背景風景が映し出されて存在を隠蔽できる。障壁の強度はいかなる物理攻撃も魔法攻撃も一切通さない空間構造自体を防護壁とする絶対防御、完璧です。




 攻撃魔法や身体強化の事は全員に説明してあるので確認、検証、慣熟訓練の実行は海兵隊や空軍での戦闘訓練を経験している彼らに完全に任せることにしてある。


 特にコリンズ海兵隊大将は湾岸戦争やイラク戦争、アフガニスタンにおける対テロ戦争にも従軍した英雄でプロフェッショナルなんだから口を出すことは基本的に無いでしょう。なんかあったら私の生命体干渉「治癒」で治せるし。





 3人はコリンズ海兵隊大将の指揮で検証を開始した。私はのんびりと見学してるんだけど……


 ……なんか凄い楽しそう。コリンズさんも子供のようにはしゃいで喜んでいる。この人たちプロフェッショナルだよね? 信用してますよ?





 ……3人とも「飛行1」を使って空中を機動しながら遊んでいるようにしか見えないなあ。「飛行」は楽しいからね、ほんと自由自在に飛べる。飛行を使う時は不思議と空中感覚が飛躍的に強化されて鳥になったようにナチュラルに空中機動が出来るのだ。だから本当に楽しい。




 暇なのでなんとなく演習場をぼんやりと見回しているとカモメが一羽近くに佇んでいるのが目に留まるーー反射的に調教! 

 20m以内に野生動物が接近することは珍しいので調教できる機会は逃せない。ここは海岸端にある飛行場だからカモメもいる訳ですね。



 調教したカモメを傍に来させて例の「淡く光るビー玉型神器」(半径20mの範囲で魔法が使えるようになる神器)をカモメの足に取り付けてから魔術を転写して強化する。




『よし、強化カモメ7号、辺りからカモメを引っ張れるだけ引っ張ってきて頂戴! 君の仲間を増やすからね!』


『おのれ人間! 我と我の同胞を下僕として粗末に扱おうというのだな? そんなことは許さないぞ? 我の命ある限り呪い続けてやろう……』


『……はいはい分かったから……早くカモメをおびき寄せてきてよ。行け! 行くのだー!』




 とかやってると、飛行で遊んでいた3人が寄ってきた。




「アリスちゃん、カモメで何か面白い遊びでも出来るのかな? 攻撃魔法の的にするとか?」



「アンダーソン上等兵、怖いこと言わないでよ、可愛くないカモメとはいえ可哀そうじゃん。コイツはね、調教して便利に使おうと思ってね?

いま調教した強化カモメ7号にカモメをおびき寄せてもらってるから、みんな一人当たり二羽目安で調教してくれる?

動物調教5があるからそれを使うんだよ。ただし動物調教1くらいの低強度で調教してね? そうしないとカモメ共の気持ちの悪い恨みつらみの感情が精神を直撃してゲロ吐きそうになるから」



「了解! 動物調教かあ……犬とか猫の調教もできるの?」



「うん出来るよ。異世界イースでは私の第2使徒のキアラさんって15歳の女の子が動物調教を担当してくれてね? いろいろと実験して確かめてくれたんだ。

それによると役に立つのがカラスとフクロウ。こいつらは格段に頭がいいんだって。で、私は地球に来てカモメを試してみたけど頭の良さはカモメもピカ一だねえ。意外と犬とか猫は役には立たないらしいよ。飛べないから機動力が無いのが致命的だって言ってたなあ」



「ふーん。で、私たちカモメを2羽ずつ下僕としてもらえるってことね。役に立つのかなあ」



「それがね、思いのほか役に立つのよ。鳥は目もいいし空中から常時警戒監視できる。勝手にその辺の魚を食っとけって指示しておけば餌をやる必要もない。

魔法で水も出せるから水の心配もない。回復魔法持ってるから滅多に死なない。魔法攻撃力もあるからいざという時は空中砲台としても優秀。

体が小さいし隠密でどこにでも入り込めるから偵察任務もこなせる。人語を解して話せるし念話も使えて高い知能に裏付けられた優れた判断力。

反応速度を用いた信じられないような行動加速と身体能力。この地球において強化カモメに勝てる者はほとんど居ないでしょうね……ホント便利な自律型飛行ドローンですよ」



「おおう、凄いね。確かに最強クラスかも。いやーアリスちゃんありがとう。そんな便利に使い捨てられるデコイを頂いちゃって助かるわあ」



「……だから使い捨てじゃなくて、いちおう、それなりに扱ってやって。貴重な『魔法を使えるようになる神器』を足に装着してるんだから。

まあ、だいたいは態度が悪いから粗末に扱ってもいいのかな? みんなに任せるよ」




 強化カモメ7号がカモメを3羽引っ張ってきてくれた。「メチャクチャ美味しい魚が食い放題だ」とか言って騙して連れてきたらしい。騙すほうも騙される方もロクでもない奴等である……




「ー-調教!ー- ヨシ、使い捨てデコイをGETした!」


「ー-調教!ー- ふふふ、アタシ専用の飛行ドローンね。よろしく」


「ー-調教!ー- よーし、この糞カモメ! 命令は絶対だ! 分かったら返事しろ!」



 ……もう好きにやってください。




 この後は追加で3羽のカモメを騙して引っ張ってきて調教してもらった。使徒の皆さんは一人2羽の強化カモメ隊を手に入れたのだった。




 この日は海兵隊クワンティコ航空施設のビジターセンター宿泊施設でお泊り。せっかく訓練できる場所に来たから一週間は滞在していろいろ試す予定なのだ。夜間の検証もやんなきゃいけないし、ある程度は慣れておく必要もあるからね。




 使徒の3人は強化カモメが大層気に入ったみたいで興奮気味に、



「あんなことやこんなことまでできる!」


「究極の生体兵器です!」


「最新のAlを使った群ドローン(ドローンスウォーム)なんか目じゃない!革命だ!」


 などと喚いている




 さすがは軍人さんだね、目の付け所というか、物事のとらえ方が違うねえ……あ、私も一応軍人さんだったか……航空自衛隊だけどね。



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