第7話 その理由

 そろそろ理解しなくてはいけない。

 なぜ、僕たちは隕石を呼び寄せたのか、を。

 幼馴染だった。つまり幼いころから親しんでいたのだ。

 「たつき」

 そう呼ぶのは李子りこだ。李子は身長が低くてクルクル表情を回転させる女なのだ。つまり、かわいい。

 李子は僕が務めている会社の後輩で、事務の仕事をしている。なんだかあどけなくて幼いのに、仕事はきちんとこなしてしまう。だから頭が上がらない。僕はうだつの上がらないサラリーマンだから。

 そして何より重要なのは、李子は僕に好意を抱いているということだ。これに関してははっきりと断言できる。そういうのって、分かるじゃないか。

 「たつき、何で今日遅刻したの?」李子は言う。

 「ちょっと疲れてて、起きれなかったんだ。」

 僕は言う。

 そう、今日は起きれなかった。ひどく体が重くて、到底立ち上がる気も起きないほどでね。

 夢を見ていた。

 幼いころの夢。僕と、二人。樹生と由里子。三人で生きていたころのこと。

 

 隕石を呼んだということには気づかなかった。

 ただ、あの狭い穴ぐらから出たかっただけ。

 だから、そのせいで多くの人が傷ついたなんて思わなかった。

 外に出てみたら、ひどく荒んだ状態で、目も当てられないほどだった。ただ、外というものを認識したのは初めてだったから、こういうものなのかと思った程度だったけれど。

 ある日研究者、というかおじいさんが穴ぐらに入ってきたんだ。

 彼は言う。

 「逃がしてやる。」と。

 僕ら三人は驚いたし、喜んだ。穴ぐらの中でしか生きた事のない僕たちは、外の世界が見てみたかった。心の底から、あるかどうかもおとぎ話のような世界を。

 だが、目の前に広がるのはひどく荒れ果てていた場所だった。人に尋ねると、何か大きな地震のようなものが起きたということだ。これは後に隕石が原因だということが広く知られるようになるのだけれども。

 肝心なことは話していない。

 樹生と由里子は好きあっていたらしい。だから、僕ら三人だけの世界はもちろん壊れたし、ばらばらに散って外の世界にいる。

 このことがあったから、僕は外の世界を見たかったんだ。ずっと淡く好意を寄せていた由里子と離れたくて。

 博士にお願いした。手紙を忍ばせて、彼に届くように仕向けたのだ。だが、その結果がこれなんて、いくら悔やんでも悔やみきれない。

 僕はまっとうな人間なんだ。そう今思う。ひどい苦しみを感じている。逃れたい。逃れたい。

 走らせた思いは飛び散って、どこかへ飛んでいく。果ての果ての果て。

 おとしまえ、というものがあるなら、つけて見せようか。そんなことを念慮しながら、僕は一人、ただ一人、燃え盛る様だ。

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隕石 @rabbit090

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